一億円の男
ゆっくりと押していく。
これはなかなか詰まってしまっているな。血管内に交じっている魔力が、固まってしまって魔力栓を作ってしまっている。そのせいで疲れがたまってしまったり魔力の出が悪くなり最悪血管が詰まってしまうというケースもある。
普通の魔力の人なら起こらないもので、せいぜいマッサージをしたら気持ちがいいという程度だが。
これは確かに深刻だ。
「痛くないか?」
「んっ・・・痛くはない、ですけど変な感じです」
頬を赤らめて、猫かんが答える。
俺は魔法で魔力に干渉することが出来るからこうしてマッサージをすることが出来るのであって他の人はすることが出来ないのだ。そのためなかなか魔力に触れられることなんてない。その感覚が割と快感をよびやすいらしい。
足をもじもじとさせている。
しっぽがその動きに従って、ゆらゆらと揺れている。猫耳もひくひくと動いており、それぞれ別々に動いているみたいだ。自分の意思ではなくそれぞれ別々の意思があるかのように踊っているところを見るとあまりにも可愛らしくて触れたくなる。
「やっぱり変なことしとるんやないやろな?」
ぐぐぐ、とまだ首元に当てられていたナイフが刺さっていく。
「待て待て待て待て!!!!決してやましいことはしてない!」
反射で手を上げて叫ぶことで身の潔白を証明する。ナイフを首元に当てられた状態でそんなやましいことをしようとするなんていかれた人でしかないだろう。
すると、納得したようでとりあえずナイフもしまってくれた。
学内にそんな危険なものを持ち込むなんて。
「そんなに必死になるってことは彼女さんとか?」
首を再度マッサージしながら聞く。
「兄妹やで」
「ってことはシスコ・・・」
「冗談が好きなんですね」
膝あたりまで冷たいものが張ってくる。
「まじですみません」
怒らせたらやばい。
「んっ・・・ふ、あ」
とりあえずここが一番危ないな。血管の中で魔力が硬く固まりすぎている。しかもここから他の部位にまで転移していっているのが分かる。
こんなに転移していると、
「痛かっただろ」
ずっと、ずっと。
血管の中で魔力が固まってしまっていると、魔力は痛みを感じるものなのだ。少量の魔力保持者であっても辛いというほどのものなのにこんな魔力を持っている子がこの状態であるならば毎日全身が痛いんじゃないだろうか。
そう、心の底から思って出た言葉だったが。
彼女は目を見開いて、ゆっくりとまぶたを下した。
「はい。さすがにもう慣れましたけど」
「でも、もう大丈夫だ」
ぐっと、強めにひと押しする。
その瞬間、今まで詰まっていた魔力が流れ出す。事前にもみほぐしておいたおかげで、他のところに転移する可能性も低いだろう。
まぁ、この子の場合は魔力が強くて血管が細いせいで詰まりやすいようだけど。
今まで感情が乏しかった彼女の顔が、変わる。
「ぁ、あっ・・・え、あ?すごく、楽になりました」
「え?そうなんか」
「痛くもないし、魔力がきちんと流れている感覚があります」
ぶんぶんと腕を回している。
喜んでいる姿を見ているとうれしくなるな。
「佐倉奏多くん。正直、そこまで効果があるのか疑っとった。その心配も杞憂やったみたいでよかったわ。時間外にもかかわらず長時間のマッサージありがとう」
そういわれて時計を見るともう20時を過ぎていた。
二時間近くはしていたということか。普通のマッサージ屋さんくらいの時間だな。俺は素人でしているため20分くらいしか普段していない。
「いや、別に大丈夫だ」
急に手を握られる。
その手は、温かくて柔らかかったが・・・小刻みに震えていた。魔力も動揺しているようで大きく変動している。しかし、それは悪い意味ではないということは分かる。
この、彼女の表情を見れば。
「本当にありがとうございました。本当に、本当に・・・・」
絞り出した、声だった。
その姿をじっと見ていた兄は、アタッシュケースに手をかけた。マッサージも終わったことだしそろそろ帰ろうということだろうな。
「やっぱり君のことを買わせてもらうことにするな。もちろん生徒会からの申請やから断ることはできひんで?」
嘘だろ
「い、いや、でも一億はいらないぞ」
「それやったら十億出す。やから君は猫かんの所有物になってもらう」
しょ、所有物!?
普通の男子高生なんだが。
今まで俺へ感謝の気持ちを告げてくれていた猫かんに助けを求める視線を送ってみる。すると、にこりと微笑まれた。
さすがに所有物なんて言い方はひどいよな。
「っていうことは佐倉さんは私のものってことですね。うれしいです」
こいつらは倫理観というものを失っているのだろうか。
とりあえず・・・
「十億円はいらない・・」
「なら一億円で!買収完了ですね」
ささやかな抵抗をした
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