5.お金のやり取り
自分が選んだ相手だというのに
どうしてそのようなことを思うのでしょうね。
彼が一番早くメール返してくれて、
表面上は優しかったから。
彼でいいやと思って連絡を受けました。
これはある意味当然のこと。
なるようになってしまえと誘いを受けた。
ただただ自暴自棄になっていた。
そうじゃないな。
悲劇のヒロインに浸りたかっただけ。
でも頭のどこかは妙に冷静だった。
彼の面影を感じたいだけ。
ただそれだけだから。
知らない男の子供を宿したいわけじゃない。
母親になるのならば彼の子供が良かった。
だから私はまず婦人科に足を運んだ。
通常ピルと緊急避妊のピル。
普通に言ったのではくれないだろう。
彼氏に無理やりされたのだと嘘をついた。
それならば緊急避妊用でももらえるはずだから。
その読みはあたった。
詳細は聞かれなかった。
最後の生理の日にちと性交した時間を聞かれた。
緊急避妊の方は中用という奴で副作用も強い。
それに伴って吐き気が出ることもあるらしい。
吐き気止めの薬も出してもらってそれで終了。
ただこれらの薬は保険がきかないことが欠点と言えば欠点だ。
今月から朝起きて基礎体温を測り、
お薬を飲む。吐き気ももちろんあった。
将来がんになることもある。
血栓症になる可能性だって大きい。
リスクは数えきれないほどにある。
数日先のことかもしれないし、
数年先に発症するのかもしれない。
けれど、彼のいない世界で生きていたところで
なんになるだろう。
将来の可能性なんてどうでもよかった。
ただすぐに死ぬほど勇気のなんてない。
ただ彼のぬくもりを探していた。
彼だったらいいのに。
全部彼じゃないと意味ないの。
泣きがおさえ愛おしい。
本当は欠点のなるはずのことなのに。
「とてもむなしいものなのね」
ごくあっさりとした一言を残して去って行った相手。
憎むのは間違っている。
手を出したのは私。
受け入れたのもこの私。
これも一つのふっきり方なのかな。
ぼんやり考えてホテルをでた。
一度、寝れば吹っ切れた。
女の人はどこか感覚がおかしくならないと
夜の世界には入れないときいたことがある。
私はおかしくなったのだろうか。
彼はもういないと実感できた。
馬鹿なことをしても叱ってくれる人はいない。
笑って過ちを肯定する人ばかり。
サイトからはあの男の人から
もう一度会わないかという誘いが来ていた。
私はおかしくなってはいない。
もう会う気はなかった。
正直言って、夢中になるほどの体の相性ではなかったらしい。
私は執着することもなかった。
だから私は退会した。
改めて渋谷の町をうろうろとした。
うぬぼれるわけではないが、
容姿は普通以上らしく、異性からは褒められたことしかない。
嬉しいことではないが、
中年のおじさまから好かれる傾向があるらしい。
そしてお酒だけは馬鹿みたいに強い。
だから援助交際しなくとも稼げるのではないかとぼんやりと考えていた。
「おじょうさん、うちで働いてみない?」
軽く声をかけてきたのはキョウと名乗る男。
この男ただのキャッチというだけではない。
私にとってすごく大切な人となる。
「興味があるの。連れて行ってほしいわ」
私はキャバ嬢の称号をえた。
お客を楽しませる女の子たちをキャストというのだそうだ。
覚えることもたくさんある。
お酒の作り方、
渡し方、
果てはお客様を楽しませるためにトークを磨かなくてはならない。
キャストとして見せに出ている先輩キャバ嬢たちはみんな派手だ。
髪を金髪に近い色に染め、
化粧だって手は抜かない。
ばっちりメイクを自分たちで施していく。
自分の手で生き抜く強い女性たちに、つよく憧れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます