4.連絡先


 1か月ぶりに携帯の電源を入れた。


 彼のノートを見た時から、部屋の隅に追いやっていた携帯電話。


 電池パックが外れて、携帯の後ろ側はシルバーの塗装が落ちて

 白くなってしまっている。


 ボロボロになったその携帯は、私の精神状態を表しているようだ。


「よかった。ちゃんと起動した」

 

 いくつもの出会い系サイトが掲載されている中で、

 一際安全性をうたったサイトが目に付いた。


 登録方法は簡単そのもの。

 ただカラメールを送ればいい。

 どんな相手でもいいからと登録した。


 返信はすぐにきた。「内容に嘘はないの?」と確認するようだった。


 返信の欄に入力しているところで手が止まった。


 此処に来て実際に行動するリスクを考えた。


「言いふらされてはまずい」


 出会い系に登録するような女は一目では分からない。


 携帯のやり取りを見られなければ、

 ホテルへはいっていく現場を見られなければ。


 この思惑を知らない周りの人は私を清純だと評価してくれている。

 しかし、本当に遊んでいるのは「大人しい人」という説もあるくらいだ。


「大人しい人」って恋愛や情事にのめりこみやすいのだそうだ。

 今までに経験したことがないから

 火あそびの加減を知らないのだ。


 私もその意見には同意するが、

 あの子もやっぱりそうなんだと

 噂されるのは気持ちの良いものではない。


 たとえ周りの人からみたら違いはないのだとしても

 私は彼が亡くならなければ、こんなことしていないのだ。


 プロフの欄に絶対に秘密にしてくれる

 割り切りの人募集と打ち込んだ。


 そうして街にいくため着替えた。

 胸元が開いているデザインのドレス。


 私の持っている中では一番セクシー。

 これを着て彼に褒めてほしかったから。


 ヒールをはいて出かけた。

 深夜一時の街を歩いて、

 待ち合わせの場所に向かった。


 待っていたのはサイトで選んだ相手だった。



 お金のやり取りをしているのだから、

 お気づきのことでしょう。

 援助交際というものに手を出したのです。

 もちろんこれはいけないことです。


 携帯電話の出会い系サイトで検索した男性でした。

 女性側は罰せられるらしいのですが、

 男性側はそうでもないようで、

 まだまだ男社会だなと感じさせられます。


 相手は30代のサラリーマン。


 誰もが聞いたことのある大企業の部長さんでした。


 家庭があるそうですが、

 なかなか忙しくて家族サービスというものが出来ないそうです。

 

 不景気になって、会社全体の売り上げが落ち込んでも

 彼の業績は変わらなかったそうです。


 周りから頼られるようになったらしいのです。


 仕事先で評価されるようになった代わりに、

 家庭は彼に冷たくなっていきました。


 帰ったら妻は笑ってくれなくなり、

 なんで彼女と住んでいるのか分からなくなったそうです。


 私の選んだサイトには

 周りには絶対にばれないという触れ込みでした。


 彼も絶対にばれたくないと思って登録したようです。

 

 このお話はお会いして1時間程度、世間話をした時の情報です。

 にこりと笑ってホテルに誘われました。

 

 私の肌に触れます。

 私に触れておきながら、私を見てはいなかった男。


 自分の欲を吐き出すために私を求める男。

 汚いと思った。

 

 でもそれに乱れている私だって同類項。

 どうして汚ないといえようか。


 私の上にいる 男は獰猛な獣です。

 普段はとっても理性的な人なのでしょう。


 今、この瞬間は全く違いますが。


 そういう彼を冷めた目で見ている自分が

 滑稽で仕方ありませんでした。

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