6. 偏見
化粧下地からチークに至るまで
有名ブランドの新商品を使っている。
今年の新色がほしいとねだって
お客様に買ってもらう人もいるくらいだ。
髪の手入れにも余念がない。
もともと染めていて、
痛んでいる髪をどう綺麗に巻くかが
彼女たちの悩みのようだった。
周りの人に影響されやすい私だけれど
今回は今の自分でいることにしている。
みんな欧米人みたいな容姿の中で、黒髪は確かに目立つ。
常蓮さんの中には、
今日は落ち着いて飲みたいという気分の方もいる。
新しい場所を探すのがおっくうという
お客様にとって私の存在はありがたいらしい。
それなりに指名数は増えてきている。
男の人たちは酷く矛盾している。
仕事の接待だからと言ってお店を利用する。
自分は仕事で疲れているのだと私たちにこぼしている。
そのくせお店の外に出れば今度は私たちの愚痴へと変わるのだ。
いい年してあんな露出して、何を考えているのだか。
其の偏見は風俗にも同じように向けられる。
汚らわしい、でも欲を満たす分にはあってほしい。
彼女には、妻にはそんな商売にかかわっていてほしくはない。
勝手なものだ。
わたしたちの商売はけして女の人たちだけで提供できるものではない。
支配人、ボーイなどなど男の人の目線が加わって
初めて男性が来店したいという雰囲気になるらしい。
このような世界に入るには神経が鈍っていないと
つづかないのだと聞いたことがある。
普通の女の子ならしんどいと思うのだろうか。
わからない。
けれど私は全然苦ではなかった。
人の話を真剣に聞けない今の精神状態だからこそなのかもしれない。
私はそれほどお金を重視していない。
貪欲になることもあるだろうけれどもそんなことはどうでもいい。
店の中でお客様と談笑していれば
気持ちはまだ楽。
からだの関係をさそわれたことがないわけじゃない。
気分が乗った時に応じているていど。
恥じらいなどとっくに捨てた。
だから好きな時に好きな客と一夜を過ごした。
断ってお客が離れようが、
人気が出ようがどうでもよかった。
日本人の相手は疲れる。
視線一つで私の思っていることがばれることがある。
お酒が入っているにもかかわらず目ざとい人たち。
ある日、どこぞの社長は言った。
ベンチャー企業の社長さん。
えらいらしいけれども、
私には価値が分からなかったから。
どんなことを誇りに思って仕事をしているのか聞いていればよい。
仕事ができるのは当たり前のことのようでいて実は男のステータス。
訊けば得意げに話してくれる。
そんなものだと思っていた。
「君は日本には向かないね」
「どういう意味なのでしょうか?」
「君は伝統が嫌い、
日本人の人間性が肌に合っていないように見える」
ニヒルにわらう彼は私の知る男の人ではないように感じた。
それから彼は私のもとに足しげく通うようになっていった。
彼は話の中で英語を口にするようになった。
流暢な英語。
私は教養がないからまったく聞き取れなかった。
彼は言う。
日本では道はない。
これからを生きていくことはできないだろうと
古いものに魅力を感じていないから。
若者は外に逃げていく。
逃げて行ったら
「THE END」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます