第11話

 ふァ〜、、、ンン、ん?


 ぁらゃだ、、、起きちゃったヮ。

 周囲に誰も居なくて、まだ暗闇に居るってコトはぁの御方に呼ばれたヮけぢゃなぃみたぃね、、、。


 なんでかしらん、、、ヮからなぃケド封印が解けてしまったの、、、?

 アタシ、困っちゃぅ。


 だってアタシは魔剣、、、。

 最強にして凶悪無慈悲な破壊を齎す闇のチカラを持ってぃて、触れるものすべてを傷つけてしまぅ取り扱い表示警告な猪突猛進デンジャラスガールだもの、、、。

 特別な存在だと認めたぁの御方がそばに居てくれないと、すぐに暴走しちゃぅんだから、、、。


 それなのにぁの御方ったらぃったいどこに居るノ?

 ひょっとして久しぶりだからアタシと会うのが気恥ずかしいのかな? 

 、、、っもう。照れ屋さんなんだからっ//


 ふっふふ、なぁに。

 もしかして、アタシから迎えに行ってぁげなきゃダメなんじゃなぃの?

 それとも、ぁの御方が迎えに来てくれるのを健気に待つべき?

 それともそれとも、健気に待てる女の子よりもセクシーな感ぢで逃げちゃう?

 相手に跪かせる女王様を目指したほうがイイかしら?


 ん〜。

 てゆうか、今もみんなは元気なのかしら。

 人間の英雄気取りのお調子者が道場破りで侵入して来たり、天使の軍勢が攻め入ってきたりしていないかしら?


 ぁぁ、、、。


 アタシが眠りにつく前に、ぁの御方と一緒に悪いコトをした悪魔をボコった時のぁの、血沸き肉踊る戦闘が懐かしぃわ。

 あれからどれくらい光陰矢の如ししたのかしら?


 、、、ぃやン。

 疑問ばっかり浮かんでしまうヮね。

 好奇心旺盛で獰猛な知りたがりになっちゃった。

 だってね。

 ぁの御方に休暇を言い渡されて、魔剣をダメにするふわふわのぉ布団に安置されたから、全力でグースカピーできて気持ちょかったんだケド、、、アタシね、ずっと同ぢ夢を見てぃたのょ。

 どの悪魔よりも強くて、聡明で、威厳とお金と権力があるぁの御方のコト、、、。


 アタシの、、、愛しの魔王しゃま♡


 キャッ、言っちゃった><


 んもう!

 たんまり眠ってぃたせいですっかり寝ぼけちゃったじゃなぃの!


 ゃっぱりアタシは相手を待ってぃるだけの魔剣ぢゃなぃヮ。

 なんか鍵が開いてるし? 羽を生やしてぁの御方に会ぃに行くのょ。


 フフッ♪ フハハハハッ!

 アタシったらイケナイ魔剣ね〜★




 ◇




 禍々しい魔界で、禍々しい魔王城に、禍々しい悪魔たちと楽しく暮らしていますと、禍々しい気配にすっかり慣れてしまい、生存本能が鈍くなり気づけなくなってしまうものです。

 ですから魔王さまと白髭の悪魔と骨の悪魔は、ヤバい魔剣の封印が解けてしまったことを知らずに、のほほんとおやつタイムにしていました。


「最近、人間界のお菓子などを取り寄せていてな。依存性の高い糖や脂質や添加物も多く有害なのだが能書き曰く、特にカルシウムという栄養を補充できるらしいぞ。一つどうかね?」

「ありがとうございます、魔王さま。ですがお気持ちだけ頂きます。この通り全身骨なので食べられないんですよ」

「残念ですな。これなどは今年の魔界茶会で金賞を取ったお茶なのに」

「いやぁ、骨の肉体にした直後は自分でも食べられる気でいて、材料を苦労して買い集めて調理した後に、やっと食べられないんだったと気づきましてね。これが本当の無駄骨ってやつです」

「ふっ」

「おやおや」

「HAHAHA」


 殺気みなぎる工事の金額交渉は既に終えていたので、クソつまんないジョークでも和やかに笑い合えました。


「さぁ、魔王さま。これで魔法眼鏡は最新式の魔法回路にアップデートできましたよ。魔界天気予報にニュース速報、眼鏡からビーム機能、今日の占い、なんなら人間界の株価まで瞬時に受信できます」

「ありがとう。すまないな、予定外の仕事まで頼んでしまって」

「いえいえ。魔王城工事の契約に、魔力キラキラ空気清浄機多数や地下迷宮修復の仮予約もお話しできましたし、こちらは大満足ですよ。……ところでこれ、型は古いようですが、魔王さまに合わせて作られた素晴らしい魔法道具ですね。作られた悪魔にお会いしてみたいものです。どちらでこれを?」

「教えてやりたいのだが、これの出どころについては秘密という約束でな。……ところでこのカタログを見ての感想だが、最新の魔法眼鏡のデザインも派手なのか?」

「魔力が効率よく回るように設計すると、部品の形状や位置が似てしまいましてね。ただまぁ、これはその、設計者側が頑として性能を落とす設計をしたがらないのと……上層部の美的感覚の問題がありましてね」

「ままならんものだな」


 雑談に夢中なため、やはり誰も魔剣の接近には気づきませんでした。

 魔剣は直感という名の魔王さまセンサーを頼りに、光速に等しい速度でばびゅーんと飛んで来ていて、あっという間に魔王さまの近くに潜んでいました。




 そして、魔剣は見ました。

 魔剣に目というか視覚があるのか定かではありませんがとりあえず、魔王さまが魔法眼鏡をかけるところを感知していて、魔剣は震えたのです。


 久しぶりに目覚めて知る魔王城は魔剣が知っていた頃とは変わり果てていて、魔獣まで住んでいました。途中で見かけた悪魔たちもなんだかお行儀が良くなっていて、浮ついたご機嫌さでしたし、雰囲気も何もかも魔剣が知っていた頃とは違っていたのです。知っているものが少ないというのは、とても不安な気持ちになるものですから、魔剣は魔王さまだけを心の頼りにしていました。

 魔獣が居るのはきっと、アタシが眠っていて寂しかったからだと、離れていてもキモチは一緒で、魔王さまも特別な魔法道具である魔剣のコトを思ってくれていると、そう信じていたのに――。


「ちょっと魔王、誰よその眼鏡! アタシという魔剣がありながら!」


 魔剣のピュアな乙女のキモチは裏切られたのでした。

 怒りで己を奮い立たせた魔剣は、魔王さまの前に飛び出して宙に浮きつつ、とびきり闇色怒りオーラを放って存在を主張してやりました。

 所詮、魔王なんて悪辣なヤツですから、魔法道具を使えればそれでいいのでしょう。好き勝手に弄んで飽きたらポイしやがるのです。全魔法道具の敵なのです。


「どうして魔剣がここに!?」


 魔王はまさか浮気現場にこられるとは思っていなかったのでしょう。

 突然のコトにびっくりしている様子です。骨の悪魔と白髭の悪魔、ついでにお菓子を避難させる冷静さを見せつつも、二の句が継げないようでした。


 景気づけに魔剣は破滅の波動で部屋の窓を割り、浮気相手へ敵意を向けました。

 けれど、魔魔法眼鏡は魔王さまに装着されたまま、余裕たっぷりに佇んでいました。なんて卑劣なヤツなのか。


「この、、、泥棒眼鏡っ」


 勢いで罵っちゃったけどでも、あれ。

 ですよね。

 待ってください。


 全世界に破壊を撒き散らしたいところですが、本当の敵を見誤ってはいけません。

 この世のすべてへの憎しみそれよりも真っ先に滅ぼすべき敵が居ます。

 浮気の誘惑を仕掛ける方も最低ですが、乗る方も最低なのです。

 卑劣なのは愛しだった(過去形)魔王もでしょう。

 敵は二方。


「ひどぃヮひどぃヮ! 純情で一途なアタシを弄んでたのねっ、アタシとのコトは全部遊びだったんでしょ! この人でなし!」

「……我は元から人ではなく悪魔なんだが」

「言ぃ訳なんか聞きたくないヮ! 欲望を制御できない理性ゼロの浮気者め! マジギレ激おこぷんすか!」

「やめないか。さっきから何を怒っているのだ?」

「ナニって、、、、、、」


 怒りのK点を限界突破して越えてしまえば、魔剣の心境は変わっていきました。

 涙を流せない魔剣は代わりに今まで吸ってきた悪魔の血を流しました。

 感覚は滲んで遠くなり、浮いている魔剣の剣先が振動している自覚もなく、床に赤黒い血溜まりがとめどなく広がっていきます。


 なんでしょう。

 なんででしょうか。


 今まで通りでいたいのにそれは叶わず、自分の居場所が揺らいでいるかのようです。何にも期待できなくて、どこか遠くに自分の大切なモノを置き忘れてしまったみたいで、体が重く、深く暗い狭い場所へ沈み込んでいくかのようです。


 それは悲しみでした。

 悲しみは魔剣のココロに穴を空けて虚無を作りました。


 穴に流れ込む痛みも、穴から吹き出すように侵食してくる苦しみも広がって、遠くまで染み込んでいくのを感じるのに、いつまでたっても底知れず、流れ続けて止まることはありません。悲しみというものには果てが無いのでした。


 自らの喪失感と悲しみに寄り添ううちに、魔剣は気づきます。

 この世に永遠なんてなぃのねと。

 恋なんてモノは幻想。

 美しい夢を信ぢてぃたなんてアタシったらおバカさん、、、。

 嘘に心酔して思考能力を奪われた哀れで惨めで黒光りする美魔剣に過ぎないの。


 つらいヮ。苦しいヮ。

 ねぇ、絶望に落ちたこんなアタシにも明日は来るのかしら?


 、、、来るヮょね。

 呼んでもいないのに明日は来るんだヮ、きっと。

 アタシのキモチも考えずに無遠慮にドヤ顔で時間を押し付けてくるのょ。嘲笑いながら理不尽をお急ぎ便で平等にお届けしてくるんだヮさ。超つらしんどい。

 どうしてなの。

 求めすぎるから泣きたくなってしまぅの?


 ぅぅん、ヮかってるヮ。

 こんな社会では存在し続けるだけでつらくなるものなのょ。

 だからもう最初から参加しなければィィの。ログインしないの。気分的にアタシもう恋に課金なんてしないヮ退会するし絶許。


 そんなような宇宙の起源から終わりまで思いを馳せられるくらい引き伸ばした一瞬を過ぎて、魔剣は誓いました。

 落ち込んだ時にやるコトは決まっています。

 自分の心をスッキリ気持ちよく救うための復讐をするのです。


 魔剣は決意をし、再び刀身を震わせました。今度は悲しみからではなく、自らの未来を勝ち取るために。


「魔王しゃま――いいえ、、、魔王! 悪魔のコトはキライにならないケド、ぁなたのコトはキライになるんだからね! 裏切り者には報復を。恋の終焉には憎しみを。アタシの怒りは優先順位殿堂入り第一位の怒り、、、これからぁなたが安眠できる時はなくなったと思ぃなさぃな! これからの日々、怯えて逃げ惑ぅがいい! フフ、フハハハハッ!」


 魔剣と魔剣の分身は残響しつこく高らかに三流の悪役っぽいセリフを宣言して、凄まじい勢いで天井を突き破ってどこかへ消えました。




 魔王さまも白髭の悪魔も骨の悪魔も、なんともコメントしづらい出来事に硬直していましたが、面倒事は片付けるまで増え続けていくものだと理解しているので、嫌々ながらも対処法を考えることにしました。

 魔王さまは頭痛と戦いながら魔剣の行方を考え、白髭の悪魔は箒で掃除を始め、骨の悪魔は工事箇所追加を用紙に記入しました。


「ここはいっそ吹き抜けにします?」

「頼む」


 魔王さまは気分を落ち着けるためにお茶を啜ろうとして、部屋に走ってきた伝令にびっくりしたせいで噎せてしまいました。魔王だって気管は繊細なのです。


「たたた大変でございます魔王さま! 宝物庫で異変が検出され扉が開いてしまいまた。おそらく魔剣が消えてしまったのではないかという報告が!」

「知っている」

「はい?」


 憩いのおやつタイムを諦め、魔王さまは魔剣捜索隊の編成を指示しました。

 危ない魔剣をもう一度封印できる力があるのは、魔王さまだけです。


「いやぁ、伝説で聞いた通りの恐ろしい魔剣ですね……」

「かの魔剣はその力もさることながら、性格に難ありですからなぁ……」

「だから封印していたのに……」


 あの魔剣は恐ろしく思い込みが激しいのです。

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