Ⅱ-2 TECHNOLOGY

成功セレブレーション

「どうかな……」

 ヒロが装置を確認すると、形成されていたセラミックが出てきた。

「どれどれ……」

 セラミックの性能は目標値に達しているのだろうか。ヒロはスキャナにセラミック板を通して調べてみた。

「すべて目標値を超えてる……!?」

 ヒロは歓喜のあまり飛び上がった。条件表とセラミック板を見比べ、トーンの上がった声でカーバに報告しに行く。

「カーバ所長、できました!ついに完成しましたよ!」

「おお……ヒロくん、よくやった」

「ああ、ありがとうございます!」

 数分後、カーバは枚舞に「ケーキを焼いてくれ」と言った。それからヒロに研究結果の論文を発表するように命じ、特許を取得する準備を進めさせた。夕食の食卓にはケーキが並んだ。

「ヒロくんの成功を祝して、乾杯」

 カーバが音頭を取り、他の研究員たちが乾杯する。皆がヒロを祝福する中、子供たちは枚舞を尊敬の目で見ていた。

「なぜ私を見ているの?」

「このケーキ、マイマイさんが作ったんだよね」

「ああ、そうだけど……」

「すごいよ!マイマイさんのケーキ、すごくきれいだよ!」

「ありがとう」

「今度デコレーション教えてくれる?」

 枚舞は後ろからかけられた声に驚いて振り返った。するとそこには多野がいた。多野は14歳の少年で、オドマンコマの農業研究課長である山口研究員の息子だ。

「ああ、多野くんか」

「俺、マイマイさんくらい料理ができるようになりたいんだ」

「わかった、いいよ」

「ありがとうマイマイさん。ところでここの暮らしには慣れた?」

「ああ、ここはすごく面白いところだ。人を殺したり他国の警察に追われたりしていた日々が嘘のように思える」

「そういえばマイマイさんは元スパイか」

「そうだな。元スパイだ」

「ところでマイマイさん、2000年危機って知ってる?」

「知ってるさ。リアルタイムで経験したわけじゃないけどね」

「え?」

「私は2002年生まれだよ」

「ということは……20代前半なんだ」

「そうなるね」

「へぇ……」

「見た目の割に若くて悪かったな。デリカシーのない話を振らないでほしかったんだが」

「すみません」

「まぁいいや。とりあえずケーキのデコレーション、いつ教えればいい?」

「再来週の日曜日でお願いできますか」

「わかった。クリームを用意して待っておくよ」

「ありがとう」

 タノはそう言うと、食器を片付けて部屋に戻っていった。

「そろそろ10時よ、お風呂が終わってるなら寝なさい」

 枚舞が言うと、子供たちは食堂から出ていった。枚舞も自分の部屋に戻ろうと思い腰を上げると、ヒロが皿を片付けて食器洗浄機のスイッチを押すところだった。他の研究員たちはもう研究所に戻ったのだろう、ヒロとカーバ、それに枚舞以外は食堂にいない。

「おつかれさまです」

 そう言って枚舞は自室に戻った。暇だったので、ビアに声をかける。

「ビア」

「なんでしょう」

「ビアはいつからこの研究所にいるんだ?」

「この研究所ができたときからです」

「そういえばこの研究所、東芝の原子炉で動いてるんだよな」

「そうです。原子炉交換は一度経験しました」

「原子炉交換?燃料交換じゃないのか?」

「ええ。ここの原子炉は250万キロワットの4S、20年で使い捨てるタイプです」

「ということはここって20年以上前からあるのか?」

「そういうわけではないんですよね」

「どういうことだ」

「そもそもこの研究所が動いている理由、ご存じですか?」

「知るわけないだろ」

「この研究所は本国が治安の悪い国内にいては反政府組織から攻撃されるので危険だと結論づけ2020年頃に多額の予算をつぎ込んで秘密で建造したという建前ですが、実際のところはサハラ各国からの圧力です」

「ん?」

「本国はサハラ各国に援助してもらっている見返りに研究所が開発した兵器などの技術を渡さなければならないのですが、それを受け取りに来る危険を考慮した他国からの圧力で動くようになったんです」

「そうなのか……ということは原子炉は?」

「元々本国の発電所で使っていたものを回してもらったんです。本国では研究資金が乏しく、そもそも技術開発をした時点でその資金は尽きかけていましたので、このオドマンコマも資金をカットできるところはカットしてるんです。原子炉を交換したのは2年前ですが、前の原子炉がそれまでに運転した期間はわずか4年。これから18年後はできるでしょうが、38年後に再び交換できるかは微妙なところです」

「そうか……大変なんだな」

「そうですね……研究所は存続しないといけませんが……」

 ビアがおしゃべりを止めた時には、枚舞は眠っていた。

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