特急クラッシュ

 サイレンの音で目が覚めた。オドマンコマは高速で砂漠をばく進しているようだ。後方からは重迫撃砲の炸裂音が聞こえてくる。ズウンという鈍い音とともに、オドマンコマにパラパラという音を立てて何かが当たる。枚舞はブリッジ後方の観測ドームに入った。ガツンという大音響とともに、少しオドマンコマが揺れる。

「13番無限軌道のモーターが停止しました!」

「構わん、突っこめ!たとえ接射を食らってもあのIRIS戦車を仕留める!」

「はい!」

 前方には旧ソ連製と思われる戦車がいる。戦車はドームに砲を向けた。

「対戦車ドローン、発進用意」

「はい」

 前方の特殊発射管からドローンが射出され、戦車の方に飛んでいく。と、側面に回り込んだ戦車が見えた。

「IRIS戦車、側面にもいます!軽気砲ライトガスガンで応射する許可を!」

「了解、許可する」

 枚舞はドームの後方に備えられた自衛用の軽気砲の砲座についた。

「相対速度は80キロ、距離は1300、と……照準完了。発射します」

 ライトガスガンの初速は他の砲の比ではない。すぐにIRISの戦車は爆発炎上した。

「側面および前方のIRIS戦車、沈黙しました!」

「よろしい、重迫撃砲を攻撃する。ミサイルを用意しろ」

「はい」

 オドマンコマからミサイルが発射され、重迫撃砲を撃ってきている方角へと飛翔する。迫撃砲は沈黙した。

「よし、あとは歩兵だけだ。振り切れるか」

「特攻さえかけられなければいけそうです!」

「よろしい。武装ドローンは何機残っている」

「損害なしです!」

「ならばむやみに殺させず、NATOの先遣部隊に任せよう。NATO先遣部隊の航空隊は?」

「アメリカ空軍のMQ無人機部隊が前方100キロに、イギリス軍の戦闘ヘリコプター一個中隊が2時の方向50キロに展開しています」

「よろしい、アメリカ軍無人機部隊の司令部とつないでくれ」

「わかりました。こちらオドマンコマ、アメリカ空軍第132無人機大隊応答してください」

「こちら第132無人機大隊、どうぞ」

「現在オドマンコマはIRISの大部隊による攻撃を受けつつあり。機動歩兵部隊に追いすがられています」

「132無人機大隊了解。一個中隊を送るからあと4分耐えてください」

「こちらオドマンコマ、了解」

「あと4分か……特攻をかけてこなければいいんだが」

「そうですね」

「IRISの歩兵がトラックから飛び移ろうとしています!取り付かれて特攻されるとまずいです!」

「仕方がない、武装ドローン射撃用意!飛び移ってくる歩兵だけに火力を集中しろ!」

「はい!」

 周りを武装ドローンで固め臨戦態勢をとるオドマンコマにIRISの歩兵が次々と飛び移ってくる。

「ゲバルトだ!」

 そう叫んで飛び移ってくる歩兵を、武装ドローンのアサルトライフルが撃ち倒していく。しかし数人の歩兵がオドマンコマの装甲表面の点検用ハシゴに掴まり、離れようとしない。

「くそ、しぶといですね」

「装甲表面にパルス電流を流せ!」

「了解!」

 バンという重い衝撃音とともに電流が流れて装甲がフラッシュし、掴まった歩兵が落ちていく。しかし歩兵たちは飛び移ってくるのをやめない。

「このままでは埒が開きません!」

「そうだな……閃光弾は危険だ、トラックの運転席を狙おう」

「了解。武装ドローンに指示します」

 武装ドローンはアサルトライフルから弾を吐き出し、トラックの運転席を襲う。トラックは停止したが、少しするとまた動き始めた。戦闘員が運転を交代したのだろう。

「くそ、もうあと3分と持ちません!」

「あと1分で無人機部隊が到着する!それまで耐えるんだ!」

「こりゃあ、囮でもないとどうにもなりませんよ!」

「ならば囮を出そう」

「え?」

「こちら第132無人機大隊、側方からIRISの歩兵歩兵を攻撃すると同時に総員退避済みの第13補給拠点に爆弾を仕掛ける作業を行う。進路を北西に変針してくれ。現在の速度なら2分でIRISの歩兵からも見える位置にある」

「わかりました。進路を変更します」

 オドマンコマは進路を北西に変え、補給拠点に向けて突っ走った。

「見えました!第13補給拠点です!歩兵に向けて射撃しています!」

「人影も見えますね……IRIS兵の死体のようです」

「となると離反に見えるわけか。無人機関銃装置だとは思うまい」

「IRISの歩兵が補給拠点に向け転進!攻撃をかける模様です!」

「このまま突っ走れ!全員、補給拠点の爆破の衝撃に備えろ!」

 補給拠点の前方からIRISの歩兵が接近すると、補給拠点は大爆発した。IRISの歩兵が吹き飛んでいく。一瞬遅れて、オドマンコマを衝撃波が襲った。

「よし、このまま逃げるぞ!サンドストーム起動、目くらましをかけろ」

「はい!」

 オドマンコマの周囲に砂が巻き上がり、オドマンコマの姿を隠す。砂煙が晴れた時、オドマンコマの姿はどこにもなかった。

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