Ⅱ SCIENTIST

Ⅱ-1 PHILOSOPHY

幕間トーク

 夜半、休憩室にカーバが入るとヒロがいた。カーバはヒロに研究の進捗を聞こうと思ったが、ヒロが疲れた様子なのを見てやめた。代わりにカーバが口にしたのは、少し重めの話題だった。

「ヒロくん、君はAIは人たりうると思うかね」

「いきなりなんですか」

「ビアはこのオドマンコマ全体のロボットアームを動かして我々を並の人間よりよくサポートし、流暢に喋って我々との会話や雑談までこなす。本国の研究所の連中がうちのために作ったからとはいえ、はっきり言って平均的な人間よりも優秀だ。心のようなものもある。もしかすると人間としていいのかもしれないな」

「そんなことはないですよ」

「なぜだ?」

「ビアはあくまでAI。人間扱いすると人間の定義からしてややこしいことになりますからね」

 そこへビアが口を挟む。

「全部聞いてましたけど……私はAIですからね?困ったことに、繁殖能力もなければ生物ですらない。人間は生物です」

「いや、もしもの話だよ」

「にしてもAIはAIです」

「そうかな?」

「ここは譲りませんよ」

「そうか」

「ところでヒロくん、研究の進捗はどうだね」

「毎日毎日砂漠を駆け回ってますが、あまり成果はついてきませんね」

「そうか……君が研究してるのは砂漠の砂を空気と反応させて窒化ケイ素セラミックにする技術だったっけ?完成すればすごいことになるな」

「そうですね……セラミックにするためにはまだ触媒の研究が不十分で……」

「そうか……がんばれ」

「はい……」

 二人とビアの間に沈黙が始まったところで、枚舞がやってきた。顔は赤く、明らかに体調が悪そうである。

「マイマイ、どうした?」

「いや……サウナの中で居眠りしてしまって」

「のぼせたというわけか」

「のぼせたならしばらく涼しいところにいないと」

「そうだな。ヒロくん、扇風機を持って来てくれるか」

「はい」

 ヒロは扇風機を物置に取りに行った。枚舞はソファーに座っていたが、不意に立ち上がってコップを取った。

「製氷機ってどこでしたっけ」

「ウォーターサーバーの横だよ」

「ありがとうございます」

 水を飲んだ枚舞は、グラスに氷を入れて冷蔵庫に入っていた赤茶色の液体を流し込み、ウォーターサーバーの水で割って飲み始めた。紅茶の香りが休憩室に漂う。

「それは……紅茶?」

「ええ。濃い紅茶は赤いんですよ」

「なるほど、だから日本語で紅茶というのか」

「そのようですね」

 とそこへ、高間が入ってきた。高間大尉は少し枚舞を見てから、カーバを見た。

「高間大尉、どうした」

「いや、マイマイさんに緑茶を持ってこようと思ったんですが……紅茶があったみたいですね」

「なら私にくれないか。ティーブレイクにしよう」

「わかりました。おはぎサハラ仕様も持ってきますね」

「ありがとう」

「おはぎ……サハラ仕様……?」

「ああ、マイマイさんは知らないんでしたね。本来は小豆の餡をご飯にまぶしたものですが、ここでは大豆をすりつぶしたものを紅芋と混ぜて煮た餡をご飯にまぶしたスイーツです。航空隊の小キッチンで作ってます」

「そうですか、私にもいただけますか?」

「ええ」

 高間は部屋を出たのと入れ違いに、ヒロが扇風機を持ってきた。

「ヒロくん、遅いぞ」

「すみません」

「戻してくるついでに高間大尉のおはぎをもらって来たまえ」

「分かりました。お茶ももらってきますね」

「そうだな」

 ヒロは扇風機を持って、部屋を出て行った。

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