アップルパイと機関砲
枚舞はアップルパイが焼けるのを待ちながら、考え事にふけっていた。
「この研究所のために働きつづけるのもいいかもしれないな」
そう思った枚舞は、本国と縁を切る決意をした。
「本国からはとっくに見放されてるだろうしな。そもそも死んだことになっているんだ」
アップルパイが焼き上がったそのとき、突如としてパラパラという音が研究所に響始めた。何やら轟音も聞こえる。
「IRISの襲撃か」
すぐに察しはついた。だが不思議なことに、研究所は増速はおろか発進もせずに止まっている。焼き上がったアップルパイを食堂に持っていくと、子供たちしかいなかった。枚舞はアップルパイを子供たちに取り分けると、ブリッジへ向かった。
「所長、何が起きてるんですか」
「ああ、マイマイ。IRISの大部隊に囲まれた」
「防衛協定は?」
「リビア軍に協力を要請してるんだが、あと3時間はかかるらしくてね。私たちでなんとかするしかないみたいだ」
「といいますと……」
「技師長、特殊発射管を使おう。武装ドローンを発射してくれ」
「わかりました」
「それからビア、IRISを攻撃しろ」
「はい。迫撃砲戦を用意します」
「なるべく急いでくれよ」
「はい」
研究所内に警報が鳴り響く。研究員をはじめとする大人たちは全員、武装ドローンの用意にかかっている。だから食堂にいなかったのか、と枚舞は気づいた。
「敵はRPGを持っている模様です!」
「よろしい、合図をしたら破壊力の大きな兵器を持っている敵から仕留めていけ」
「はい」
「リビア軍第118中隊から通達です。『駐屯地にIRISの攻撃あり、部隊出撃不能』とのことです」
「なんだと……IRISめ、何が狙いだ」
「IRISの街宣車が出てきました!」
IRISの街宣車がオドマンコマの正面に止まり、ハウリングをひとしきり響かせた。
「前線基地の諸君、聞け!我々は
「よろしい、外部スピーカーを起動しろ」
「所長、何をするつもりです?」
「説得を試みるんだよ」
「たしかにまずは説得ですが……」
「スピーカー起動!」
「OKです」
「よろしい、IRISの諸君。我々は独立した移動研究所だ。我々を破壊したり、物資を奪ったりすればサハラ諸国の協力と承認を得たNATOの圧倒的な軍事力が諸君に向けて火を噴くぞ。それでもいいなら我々が相手をしてやろう。それから、我々は人類の発展を背中に負っているのだ。それが分かるなら去れ。分からないならゴー・トゥー・ヘルだ」
「うるさい。攻撃するぞ」
「ゴー・トゥー・ヘルを選ぶんだな?……ビア、威嚇射撃だ」
「はい」
迫撃砲が火を噴き、オドマンコマの周囲に煙が立ちこめる。
「これでもゴー・トゥー・ヘルしたいか?」
「攻撃開始だ!」
街宣車が後退すると、あちこちから機関砲や野砲の砲弾が飛び始めた。オドマンコマは無傷だが、これでIRISはNATOに対し明確に敵対してしまった。それに気づかないのだろう、RPGまでがオドマンコマに向けて飛んでくる。
「武装ドローン、攻撃開始」
「はい」
武装ドローンの下部に搭載された軽機関銃がIRISの兵士に向けて火を噴いた。IRISの兵士は隊列を乱し、突っ込んでくるがそこに迫撃砲が炸裂し、オドマンコマに接近することもできないまま兵力を打ち減らしていく。30分もしないうちに、IRISの兵士は敗走を始めた。
「リビア軍第118中隊駐屯地との連絡が途絶しました」
「それって……」
「全滅した模様です」
「嘘でしょ……」
枚舞は自分がかつていた駐屯地が全滅したという事実に驚いていた。
「IRISの戦力は相当あるってことか……」
立ち尽くしていた枚舞は、アップルパイの存在を思い出してすぐに皆にアップルパイを配り始めた。
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