詰問エージェント

「なぜそこまで割れてるんだ……」

「あなたは中国人民解放軍総参謀部第二部特使処の上司、周寒梅大佐から命令を受けましたね?イエスと言おうがノーと言おうが裏付けは済んでるんですがね」

「……」

「自殺しようとしても無駄ですよ。すでに全ての情報は割れてますから。あなたから聞き出すべき情報などありません」

「随分となめられたものだな」

「事実です。あなたの写真も撮らせていただきました。第58研究所の技術は素晴らしいですが、世界の頭脳にはかないませんでしたね。あなたの動きは私たちには筒抜けです」

「まさか……」

「そうです。あなたはずっと見られながらも見られているとは思わず任務を遂行しようとしていたわけです。今日の午後には『リビアで中国スパイ検挙、抵抗したため射殺』の文字が世界のニュースに躍るでしょうね」

「ということは……私はこれから始末されるのか」

「とんでもありません。あなたにはこの研究所で雑用係として働いてもらいます。もちろん人に危害を加えるようなことをしたり情報を盗んだりすれば、私が駆けつけてボコボコにしたうえで射殺しますからね」

「……」

「私たちの仲間になっていただけますか?」

「なぜ君たちはこんなにスパイをなめた真似ができるんだ?」

「それはあなたのようにスパイをする人間が弱いのもありますが、それ以上に射殺したことにしてもその祖国からは何も文句を言われないうえ戸籍を比較的簡単に抹消できるからですね。この研究所にはぴったりな人材なんです」

「……弱い、ねえ」

「そうです。私のようなおもちゃを相手にしても勝てないですしね」

「たしかにさっきの立ち回りは強かったな」

「というわけで、あなたを雇用します」

「そうか」

「とりあえず身体検査をしますので、そこの部屋に入ってください」

「わかった」

 右側の扉が開き、陳枚舞は明るい部屋に通された。手錠が外れる。

「服を脱いでロボットアームに渡してください」

「はいはい」

 陳枚舞は服を脱ぎ、それをロボットアームに渡した。ロボットアームは服の中を確認し、何もないことを確認すると、陳枚舞の頭をなで始めた。

「何をする」

「髪の毛の間にカプセルやら何やらを隠されてると困りますからね。全身スキャンするまでしばらく待ってください」

「……」

 スキャンが終わると、声はいった。

「いいでしょう。毒入りの差し歯を出してください」

 陳枚舞は差し歯を吐き出すと、言った。

「チェックは合格か?」

「合格です。壁の扉を開けて作業服を出し、それに着替えてください」

「わかった」

 陳枚舞は作業服に着替えると、部屋にあった椅子に座った。

「これから料理を作ってもらいます」

「は?」

「ですから料理です。卵の補給がありましたので、チャーハンでも……」

「お前は何を言ってるんだ?正気か?」

「毒は自決用のものしか持ってませんでしたからね。159人も毒殺できないでしょう」

 補給物資に入ってる可能性は調べないんだな。そう思った陳枚舞に悲しい事実が伝えられた。

「補給物資はすでに全てチェック済みです。毒のカプセルが見つかりましたが、全て無毒化処理しましたよ」

「コケにしやがって……」

「あなた、趣味は料理でしたね。廊下の突き当たりにキッチンがあります。無人ですのでそこに行って、チャーハンと水餃子を作ってください」

「……わかった。香辛料はあるんだな?」

「世界の香辛料の8割を取りそろえております」

「昼飯は激辛麻婆豆腐にしてやる」

 陳枚舞はそう吐き捨ててキッチンに入った。

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