第80話 これからはもう……

 3年生に進級して、クラスが変わって。


 まだ2週間くらいだけど、だいぶ慣れたというか、落ち着いて来た。


 けど……僕の心は、どこかモヤモヤしている。


 ふと、授業中に、彼女の背中を追ってしまう。


 意外にも、マジメにノートを取っている。


 授業外では、女子たちと談笑して。


 だから……


「良いよな~、桜田」


 ある時、クラスの男子たちに誘われて、一緒に昼ごはんを食べているのだけど……


「明るいし、スポーツ出来るし、意外と可愛いし」


「意外とっていうか、普通に可愛いだろ」


「乳も結構デカいし」


「友達も多いし」


「男子にも気さくだし」


「去年、A組の三大美女って言われてた子たちにも、引けを取らないんじゃないのか?」


 みんなして、口々に言う。


 桜田さん、意外と……


「ていうか、綿貫って、桜田と仲良いよな?」


「へっ?」


「まさか、桜田も……お前のハーレムメンバーじゃないよな?」


「いや、それは……違うよ」


「はぁ、良かった」


「じゃあさ、桜田のこと、紹介してくれね?」


「えっ?」


「おい、俺が先だぞ」


「いや、オレだろ」


「じゃあ、ジャンケンすっか」


 勝手に盛り上がるみんなを前に、僕は困惑するというか……




      ◇




 放課後。


 僕は久しぶりに、1人きりだ。


 孤独のアスファルトを噛み締める。


 まあ、家がすぐ近くだから、それも束の間のことだけど。


「……あっ」


 ふと、校門の方に振り返った時、見覚えのある人影が……


「……桜田さん」


 僕が名前を呼ぶと、彼女は最初、無表情に近い顔付きだった。


 けど、すぐニコッとしてくれる。


「綿貫きゅん、どうしたの?」


「あ、いや……最近、あまり話していないなって」


「うん、そうだね……」


 以前のように、明るく、正直ちょっとウザいくらいのテンションで絡んで来ない。


「……じゃあ、またね」


 桜田さんは、今までならあり得ないほど、あっさりと去って行く。


 その背中を見つめていた僕は、胸の奥底がザワつく。


「――桜田さん!」


 久しぶりに、大きな声を出した気がする。


 彼女は再び、振り向く。


「えっ……?」


「……今から、僕の家に来ない?」




      ◇




 彼女が僕の家に来るのは、初めてではない。


 何なら、この前までここで、2人きりでずっと……


「……実はさ、今日クラスの男子たちと話していて、桜田さんの話題が出たんだ」


「そうなの?」


「うん、みんな……桜田さんのこと、可愛いって」


「へぇ~」


「で、僕が桜田さんと仲が良い……というか、まあ、繋がりがあるからであって……紹介して欲しいって」


「そっか……まあ、それも男の付き合いだよね」


 桜田さんは、一瞬だけため息をこぼすも、すぐ笑顔になる。


「良いよ、誰にコハルを紹介して……」


「……僕って、ワガママだよ」


「へっ?」


「ゆかりちゃん、麗美ちゃん、和沙ちゃん。この3人を、モノにしてしまっているだけでも、十分すぎるほど、贅沢なのに……」


 僕は目の前の彼女を、真っ直ぐに見つめる。


「君を……桜田さんも、他の誰にも渡したくないって、思っちゃうんだ」


「……嘘でしょ?」


「いや、本当の気持ちだよ……これは」


 僕は胸に手を当てて言う。


「だって、コハルはゆかりんほど、胸が大きくないし」


「うん」


「麗美ちゃんほど、スタイルが良くないし」


「うん」


「和沙ちゃんほど、勉強も出来ないし」


「うん」


「あの3人よりも、魅力ないよ?」


「そんなことはない」


 僕はハッキリと言う。


「確かに、付き合いはあの3人との方が長いけど……でも、桜田さんもすっかり、僕の一部というか……とにかく、君との思い出が溢れて……だから、このまま、疎遠みたいになるのが、寂しいというか……辛くて……」


 いけない、油断すると、涙がこぼれてしまいそうだ。


 僕は必死に唇を噛み締める。


「……コハルも、辛かったよ」


 彼女の言葉に、ふと顔を上げる。


「綿貫きゅんと、気まずい関係になるのは……すごく寂しいし、辛い」


 切ないような微笑みを浮かべる。


「ねえ、本当に、コハルが欲しいの?」


「うん」


「そのせいで、あの3人を失うかもしれないよ?」


「それは……僕が説得する」


「そっか……」


 桜田さんは、ゆっくりと頷き、微笑む。


「……じゃあ、キスして」


「えっ?」


「誓いのキス……仮で良いから」


「桜田さん……」


 僕はそっと、彼女の両肩に触れる。


 そのまま、優しくキスをした。


 思えば、こんな風にするの、久しぶりだ。


 やがて、そっと離れる。


「……ありがとう、真尋きゅん」


「うん……あっ、名前」


「ダメ?」


「いや、良いよ……小春ちゃん」


「……やば、子宮が疼く」


「そ、そんなに?」


「もう、早速、真尋きゅんのデカ◯ンが欲しくなっている」


「あの、小春ちゃん? 元に戻るのが早すぎ……」


「てーい♪」


「えっ」


 僕は押し倒される。


「コハル、決めたよ」


「な、何を?」


「これからはもう、真尋きゅん以外のおチ◯ポ、入れないって」


「そ、それは、嬉しいような、困るような……」


「困るって何よ♡ まあ、女子とはたまーに、遊んじゃうかもだけど、許してくれるよね?」


「そ、それは……まあ、僕に止める権利はないから。情けない、ハーレムの主であるし……」


「情けないなんて、そんなことないよ。真尋きゅんは、誰よりも優しくて、強いよ」


「そ、そうかな?」


「うん。少なくとも、このデカ◯ンはワールドクラスの器だよ♡」


「あの、恥ずかしいから、指差しはやめて……」


「じゃあ、早くコレ、コハルにぶっ刺して♡」


「……はい」


 その後、メチャクチャしました。


 というか、されました。




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