第79話 アップダウン

 今日は体育があった。


 特に女子サイドはハッスルしていた。


 だから、別に明日からでも良いのにと思うのだけど……


「……ハァ、ハァ。やっぱり、綿貫きゅんのおチ◯ポ、すっご」


 ソファーの上でぐったりして、桜田さんは言う。


「てか、ホントに立派なお家だよね。綿貫きゅんのおチ◯ポと一緒で」


「いや、桜田さん家も同じくらいでしょ?」


「ごめんね、コハルはそこまで立派なモノを持っていなくて」


 桜田さんは、自分の胸を持ち上げて言う。


「そ、そこもそれなりに大きいよ?」


「それなりとか(笑) でも、ア◯コの締まりとか、コハルの圧勝でしょ?」


「…………」


「その無言は、肯定と受け取っておこう」


 起き上がった桜田さんは、ハダカのまま水を飲む。


「ぷはっ……」


 僕はそんな彼女を、ついつい見てしまう。


 確かに、ゆかりちゃんほど巨乳じゃないし、麗美ちゃんほど美脚でもない。


 けれども……全体的にスラッと引き締まったバランスが、素晴らしい。


 バスケの時も動きが良かったし、きっと普段から鍛えている。


 だから、彼女が言う通り、あ◯この締まりが……すごい。


 これから1週間も、あの名器と付き合っていたら……


「……もぎ取っちゃおうかな~」


「へっ?」


「コハルのこれ圧で……うっかり、綿貫きゅんのデカ◯ン、もぎ取っちゃうかも♪」


 桜田さんは、ニヤッと小悪魔みたいに笑う。


 もちろん、そんなことあり得ないけど……


 でもそれくらい、彼女のアレはすごい。


 油断すると、本当に持って行かれたりして……


「てかね~、コハルね~、綿貫きゅんのチン様の型をとって、特製のマシンを作ろうと思っていたの」


「はっ?」


「けど、3年生になって、こうしてお近づきになれたし……その必要もなくなったかなって♪」


「……何か恥ずかしいから、それは勘弁して欲しいな」


「じゃあ、本物の君が……コハルをたっぷり満足させて♡」


 愛らしい表情で見つめて来る桜田さんを前に、僕は思わず息を呑む。


 そのまま、頷いてしまった。




      ◇




 一週間後。


「こはるんるんるん、こはるんるんるん♪」


 桜田さんは、いつなく上機嫌だ。


「はぁ~、綿貫きゅんとのイチャラブ生活のおかげで、お肌の調子が絶好調だよ~」


「そ、それは良かったね……」


 僕はたっぷりと、精気を吸われた気がするけど……


「こらー、こはるん!」


 廊下の前方に立ちふさがる2人がいた。


「おやおや、ゆかりんに麗美ちゃん、ごきげんよう~♪」


「ちっ、こはるん。余裕をかましやがって~! よくもうちのまー公を好き勝手にしてくれやがったな~!」


「ちょっと、ゆかり、落ち着きなさい。またそんなはしたない言葉遣いを……」


「うるせえ! 麗美こそ、この1週間、ずっと辛そうだったじゃんか!」


「ま、まあ、それはそうだけど……」


 ゆかりちゃんは怒り、麗美ちゃんは憂いの瞳を向けて来る。


 僕は何だか、申し訳ない気持ちになってしまう。


「でも、仕方ないじゃん。そっちは負け犬なんだから」


「むきぃ~!」


「あ、おサルさんかな~? キャハハ!」


 その時、


「――こんにちは」


 タンッ、と静かに廊下を踏み締める音。


「か、和沙ちゃん……」


 難関大コースで、特別クラスの彼女とは、久しぶりに顔を合わせる……


「お~、和沙ちゃん。生きていたか~」


「どうも、桜田さん。何だか、うちの真尋くんが大分お世話になっちゃったみたいで、ありがとうございます」


「どういたしまして。けど、何だか彼女というか、奥さんみたいな物腰だね?」


「ええ、そうですね。だって、私はすでに、真尋くんを両親に紹介していますから」


「はっ……?」


 コッ、と靴音を鳴らして、和沙ちゃんが僕の方に歩み寄って来る。


「ありがとうございます、わたしの旦那さまを鍛えて下さって」


「だ、旦那さまって……」


「もちろん、まだ未来の話ですけど」


 和沙ちゃんは、ふっと微笑む。


 穏やかさの中に、確かな自信を感じさせる。


 ポカン、としていたゆかりちゃんと麗美ちゃんは……


「……って、和沙たん! 抜け駆けするなぁ!」


「そ、そうよ! 私たちだって、真尋と結婚するんだから!」


「ええ、そうでしたね」


 和沙ちゃんは、余裕の微笑みを崩さない。


「第2夫人のポジション、がんばって争って下さい」


「「はぁ?」」


「正妻はわたしがいただきます。真尋くんとは、同じメガネ同士ですし」


「いや、それ関係ないでしょ」


「キスする時も、お互いにメガネがぶつかって……ふふ、初々しい思い出です」


「こらー! 勝者の余裕をただよわせるな~!」


「あ、そうだ。桜田さんには、浮気相手のビッチポジションをあげますね」


 和沙ちゃんは、微笑んだままで言う。


 そこに全くの悪気はない。


 この物言いには、さすがの桜田さんも、怒るかと思ったけど……


「……そっか」


 何だか、肩を落としたように頷く。


「やっぱり、コハルは……お邪魔ムシかな?」


「桜田さん……?」


「ううん、何でもないよ」


 桜田さんは、ニコッと笑う。


「約束の1週間は過ぎたし、これからはまた、元通りってことで」


 パンッ、と手を叩いて言う。


「じゃあね」


 そして、去って行った。


「こはるん、何だか様子が変だったね」


「ええ、いつもの彼女らしくなかったわ」


「少し、言い過ぎてしまいました……」


 3人娘も神妙な面持ちになる。


 僕はまた、桜田さんを視界に収めようとするけど。


 もう、彼女の姿はそこに無かった。




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