第71話 チョコトーク

 2月。


 1年を通して最も冷え込むこの時期に、しかし最もホットと呼べるイベントがある。


 そう、バレンタインだ。


 それを言うなら、クリスマスの方が盛り上がると言われてしまうだろう。


 けど、恐らくだけど、クリスマスは完成されたイベント。


 すでにカップル同士の男女が仲睦まじく過ごす。


 あるいは、家族、友人と……


 けど、バレンタインはある種の、不確定要素を含む、そのドキドキとハラハラ感。


 その点において、多くの学生たちにとって、最も印象深いイベントになるのかもしれない。


 まあ、バレンタインでも、既にカップルの男女同士は、完成された愛を確かめる程度なのかもしれないけど。


 ていうか、こんな考察をすることなんて……


 何だかんだ、僕もすっかり、恋愛脳になってしまっているのか……


「はぁ~、チョコが食いてえな~!」


「お前、アピール露骨すぎ」


「逆にモテないぞ」


 男子たちは表立って浮き足立つ。


 一方で、女子たちは、水面下でソワソワしている様子が伺えた。


 そんな中で、僕と仲睦まじい、あの3人は……


「きゃはは、ウケる~!」


「ゆかり、女の子が股をおっぴろげて、はしたないわよ」


「そうですよ、乳も下品ですし」


「何だと~!?」


 ……なんか、いつもと変わらない様子だ。


 ていうか、僕と関係を持ってから、いがみ合う場面の方が多かったと思うんだけど……


「まあ、和沙たんは可愛いし、麗美さんはお上品だからね、おっぱいが」


「まあ、可愛いと言ってもらえるなら、良しとしましょう」


「まあ、お上品であることは認めるわ、おほほ」


 なんか、久しぶりに仲の良い3人を見ている気がする。


 だから、周りの男子たちも、そんな彼女たちに見惚れていた。


 もう既に、僕と彼女たちの関係は知っているのだけど……


「ゆかりちゃんの、あのデカパイ型のチョコが欲しいわ……」


「麗美ちゃんの、あの美脚をかたどったチョコが欲しいわ……」


「和沙ちゃんの、あのメガネ型のチョコが欲しいわ……」


 ……ちょっと、気持ち悪い妄想をなさっている。


 けど、恥ずかしいことに、それを想像して、僕もちょっとだけ……そそられてしまった。


 まあ、自分で言うのもなんだけど、彼女たちは僕のことを好いてくれているから、チョコは間違いなくもらえると思うけど……


 って、何をドキドキしているんだ、僕は……




      ◇




 広いキッチンスペースで、カチャカチャと音が鳴っている。


「麗美さ~ん、湯せんこんぐらいで良いっすか~?」


「どれどれ……もう少し溶かしてちょうだい」


「あいよ~!」


「和沙はどんな感じ?」


「ちゃんと刻みましたよ」


「あら、良い感じじゃない」


「てか、麗美って、料理とか全然しなかったよね? 急にどしたん?」


「あら、それは昔の話でしょ? 真尋と付き合うようになってから、私も日々、己を磨いているのよ」


「さすが、プロのモデルさん。自分にちゃんと厳しく出来るんですね」


「へぇ~、あのワガママ女王さまがねぇ~?」


「ワガママなのは、あなたの性格とカラダでしょ?」


「いや~ん、麗美さんのエッチ~!」


「ふざけていないで、ちゃんと調理に集中しなさい。真尋のために、みんなで美味しいチョコをプレゼントするんだから」


「てか、意外だったなぁ。ワガママで腹黒い麗美さんは、絶対にまーくんへのチョコプレ、抜け駆けすると思ったのに」


「あら、知らないの? ヒロイン同士がギスギスしていると、面白みはあるけど、行き過ぎると読者のヘイトが溜まるのよ」


「急にどしたん?」


「例え話よ。今のご時世、ギスギスよりも、仲良しの方が好感度が高いのよ。あなた達も、真尋に愛想尽かされたくないでしょ?」


「うん、そうだね。あたし、もうまーくんのデカ◯◯ポなしじゃ、生きられないカラダになっているし」


「嫌らしい女ね」


「でも、麗美だって、そうでしょ? 調教するつもりが、とっくに調教されちゃって」


「だって、仕方ないじゃない……真尋のアレ、本当にすごいんだから」


「アレって? ぼかさないで、ちゃんと良いなよ。ここはあんたの家で、今はあたし達しかいないんだから」


「うぅ~……私も、真尋のデ、デカ……デカ◯◯ポに夢中なの」


「和沙たん、今の録音した?」


「えっ?」


「はい、バッチリ」


「ちょっ、どういうこと!?」


「冗談ですよ、麗美さん。ちなみに、わたしも真尋くんのデカ◯◯ポが大好きです」


「随分とあっさり言うわね……」


「てかさ~、今日の男子たちのヒソヒソ話、聞こえたっしょ?」


「えっ?」


「ああ、聞こえましたね。変態チックなことで」


「でもさ~、ちょっと憧れるよね~。あたしのこのデカパイ型のチョコとか~」


「嫌らしいわね」


「でも、実際に型を取るのとか難しそうだから……いっそのこと、直にかけちゃおうかな」


「あなた、本気なの?」


「もちろんだよ。裸エプロンで、オパーイだけ放り出して、そこにチョコソースをたっぷりとかけて……『まーくん、召し上がれ♡』……みたいな♪」


「ドスケベすぎるわ」


「麗美さん、この包丁って、お肉も切れます?」


「ちょっ、冗談だって! でもさ、2人もやってみたくない?」


「何がよ?」


「麗美さんは、そのおみ足に。和沙たんは、そのメガネに、チョコソースをたっぷりとかけて……まーくんに食してもらうの♡」


「「…………」」


「いま想像したっしょ?」


「べ、別にしてないわよ」


「わたしはガッツリとしました」


「和沙?」


「良いね~。じゃあ、やっぱりそっち路線で行く?」


「ダメよ、そんなの……正直、ちょっとそそられるけど」


「えっ?」


「と、とにかく、それは……また将来の楽しみにとっておきましょう」


「将来ね~……てか、誰がまーくんの正妻になるの?」


「私でしょ」


「わたしです」


「うわ~、2人とも我がつよいわ~、ひくわ~」


「じゃあ、ゆかりは降りなさい」


「はぁ~? あたしがまーくんのお嫁さんですけど~?」


「それなら聞くけど、ゆかりがお嫁さんになったら、真尋に何をしてあげられるの?」


「えっ? おっぱいをあげるの。可愛い赤ちゃんと一緒に♡」


「このド変態が……ギャルホルスタインね」


「真尋くんは気弱ですが、何だかんだ優秀な人です。だから、そんなケモノ風情として堕落させる訳には行きません。わたしが良き伴侶となって、一緒に勉強して行くのです」


「まあ、その考えは素敵だと思うけど……やっぱり、私みたいにお上品に、真尋をメロメロにしてあげないと」


「てか、麗美って臭いよね」


「はっ!? 私のどこが臭いって言うのよ!?」


「めっちゃキレるし……いや、ほら……メス臭いっていうか」


「それはあなた達も同じでしょう? 真尋の前だと、嫌らしく発情しちゃって」


「ていうか、まーくんが悪くない? あの凶悪なデカ◯◯ポで、あたしたちのことをメロメロにしちゃってさ~」


「確かに、言われてみればそうね……」


「じゃあ、チョコに毒でも仕込みますか?」


「「いや、こわっ」」


「冗談ですよ」


「和沙たんが言うと、ちょっと笑えないんだよ」


「でも、アレですね。何だかんだ、この3人で話しているのが、すごく楽しいです」


「……ええ、確かに。私もそう思うわ」


「あたしも~!」


「じゃあ、みんなが真尋くんのお嫁さんってことで」


「でもそれだと、正式に籍は入れられないわね」


「良いじゃん、そんなの。大事なのは、心だからさ~」


「カッコイイこと言っちゃって」


「2人とも、チョコソースが出来たので、後は型に流して固めるだけですけど……どうします?」


「よし、和沙たん。あたしのおっぱいにぶっかけろ!」


「ちょっと、やめなさい!」


「麗美さんも、ご自慢の美脚にかけてもらえば?」


「……って、ダメよ!」


「いま一瞬、迷いましたね。じゃあ、わたしのメガネ型チョコだけでも作りますか。お二方よりも、簡単にできそうですし」


「「あ~、ズルい!」」




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