第66話 王様になっちゃった♪

 今までの僕なら、震えてこの時を待っていたかもしれない。


 ピンポーン。


 ほら、来たぞ。


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


 チャイムが連続して鳴り響く。


 ピンポンピンポンピンポンピンポポポポポン!


 僕はそこで、ようやく重い腰を上げると、玄関へと向かう。


 ガチャリ、とドアを開けた。


「こらー、まーくん! さっさと開けんかい!」


 ゆかりちゃんが目を尖らせて叫んだ。


 麗美ちゃんも和沙ちゃんも、声を荒げこそしないものの、僕のことをギロリと睨んでいる。


「3人とも、あけましておめでとう」


「うん、あけましておめでとう♪……じゃなくて、どういうことだ、まー公この野郎ぉ~!」


 ゆかりちゃんに胸倉を掴まれて、ぐわんわんととされる。


「あたしらが、どれだけあんたのせいで、ムラムラしたと思ってんだぁ~!」


「そうよ、そうよ! それをシカトするなんて!」


「ひどいです、真尋くん!」


 興奮する3人に対して、


「わ、悪かったよ。謝るから、落ち着いて」


 苦笑しながら、必死になだめる。


「とりあえず、上がるぜ」


 まだお怒りモードの3人は、ズカズカと家に上がり込む。


「で、まー公、どうやって責任を取りやがるんだぁ?」


「ゆかりちゃん、そのガラの悪い感じはやめようよ」


「良いから、さっさと責任を取れぇ~!」


「わ、分かったよ……」


 僕は吐息をこぼしてから、ベルトを外して、ズボンを下ろす。


 そして――


「「「……えっ?」」」


 僕のなんて、みんな見慣れているはずなのに、目を丸くしていた。


「な、何か、いつにも増して……ヤバくない?」


「うん……この年末年始、しっかりと休んだおかげで、すっかり元気になったんだ。ほら、人気の動画配信者も、クオリティを上げるために、毎日更新をやめたりするでしょ? アレと似たような感じというか……」


「「「きゃあああああああああぁ!」」」


 3人が一転して、喜びの顔で飛びかかって来たので、


「ちょ、ちょっと待って!」


「ダメ、もう待てない!」


「……待ちなさい」


 僕が声のトーンを落とすと、彼女たちはピタッと大人しくなる。


「この家では、僕がルールだ……ちゃんという事を聞かないと、シてあげないよ?」


 我ながら、とても恥ずかしい、マンガみたいなセリフを言ってしまう。


 けど……


「まーくんさま……ステキ♡」


「私が屈服するのは、あなただけよ♡」


「真尋くん、かっこいいです……♡」


 3人はすっかり、とろけた顔になっている。


「じゃあ、まずは3人仲良く……ご、ご奉仕してもらおうかな」


「「「はい、ご主人さま♡」」」


「ごしゅっ……く、苦しゅうない」


 やっぱり、慣れないことはするもんじゃない。


 自己嫌悪と羞恥心が半端じゃなかったから。




      ◇




 むわっとした蒸気が、部屋の中に漂う。


「こ、壊れるかと思った……ていうかもう、壊れてるかも」


「い、意識が何度も飛んで……あっ、和沙がまだ飛んでいるわ」


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 床のカーペットに倒れる彼女たちを、僕も息を弾ませながら見つめていた。


 けど、彼女たちほどのグッタリ感はない。


 ちゃんと、満たされてはいるけど。


「み、みんな、ごめんね。やり過ぎちゃったかも……何か飲む?」


「……ねえ、まーくん」


「えっ?」


「そんな風に優しいまーくんのことが、あたし達はラブな訳だけど……ここはあえて、もっとキツめに扱ってくれない?」


「キ、キツめに扱うって……」


「ほら、ソファーにどかっと座って『もっとご奉仕しろ』とか言ってよ」


「いやいや、そんな偉そうなこと……」


「……ねえ、真尋」


「麗美ちゃん?」


「私、普段はみんなから、女王さま扱いされているけど、たまに誰かに屈服したくて……さっきも言ったけど、それを許せる男は……あなただけよ」


「いや、僕なんてそんな、大した男じゃ……」


「……ま、真尋くん」


「和沙ちゃん?」


「……この中で1番、お前がブスでスタイルが悪いって、罵って下さい」


「一体、どんな世界の扉を開けちゃったのおおおおおおおおおおおおぉ!?」


 えっ? これって、僕のせいなの?


 僕はただ、しっかりと休んで、コンディションを整えて、最高の状態で、むしろ彼女たちにご奉仕したようなものなんだけど……


 何でそんな僕が、ドSの王様みたいな感じになろうとしているの!?


「まーくんさま……ううん、ご主人さま」


「いや、だから、それは……」


「……ご主人さま、お願いします」


「れ、麗美ちゃん……?」


「ご主人さま……わたしからメガネを奪い取って踏みつけて壊して、目がぼやけて見えないわたしをひたすらにイジめるプレイを……お願いします」


「和沙ちゃああああああああああああぁん!?」


 先ほど、満足させてあげたはずなのに……


 また3人が、吐息を乱しながら、僕の方に迫って来る。


「いや、みんな、落ち着こう。そもそも、僕は元々、冴えない陰キャだから、そんな王様みたいな真似は……」


「でも、これはキングサイズじゃん♪」


「笑顔で指差さないで……」


 その後……僕の奴隷になりたい願望が炸裂した彼女たちに懇願されるまま致しました。




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