第61話 クリスマス編③

 クリスマスと言えば、豪華なディナーのイメージだけど。


 ランチタイムもまた、悪くないかもしれない。


「わぁ、すごいね……」


 目の前にあるのは、見たことないくらい、オシャレで美味しそうな料理たち。


「えっと、これは……」


「高級フレンチよ」


「マ、マジか……でも、僕そんなにお金を持っていないよ?」


「大丈夫、ここは私が出すから」


「いや、そんな、悪いよ……」


「良いの、私がそうしたいから。それにディナータイムよりも割安だから、遠慮しないで」


「そうは言っても……」


「ほら、せっかくのクリスマスに、そんな暗い顔をしないの。そっちの方が、よっぽど私に悪いわよ?」


「う、うん。分かったよ」


 僕はナイフとフォークを手に取った。


 とりあえず、前菜と言われて出て来た、四角い緑色の料理を食べようとする。


「こ、これは何かな?」


「テリーヌよ。キャベツでお野菜を巻いて切ったお料理。きれいな断面でしょ?」


「た、確かに……麗美ちゃんは、こういう所によく来るの?」


「こんなこと言うのもなんだけど、私がモデルをやっている雑誌は、若いギャル系というよりも、上品な女子向けだから。会食でこういう良いお店に来たりするの」


「そうなんだ……麗美ちゃん、何だかカッコイイね」


「やだ、そんなこと……真尋の方が、カッコイイわよ。特に最近は、何だかたくましくて……」


「そ、そうかな?」


「うん。ただ私たちの言いなりになって、好き勝手されていた時とは違う……もうすっかり、ハーレム王の貫禄がついた感じ♡」


「ハ、ハーレム王って……改めて言われると、何だか恥ずかしいね」


「でも、実際にそうでしょ? 本当は、最初に私が真尋の魅力に気付いたのに」


「そ、そうだったね」


「まあ、良いけど。何だかんだ、ゆかりと和沙も含めた4人でいるのが、1番楽しいしね」


「うん、それは……僕もそう思うよ」


 照れながらそう言うと、麗美ちゃんはニコッと笑う。


「真尋、フレンチ食べ慣れてないでしょ?」


「う、うん」


「じゃあ、あーんしてあげようか?」


「えっ? いや、そんなマナー違反なことは……」


「マナー違反なのは、あなたのココでしょ?」


 瞬間、僕はビクッと震えてしまう。


「あっ!?」


 テーブルの下で、麗美ちゃんの靴のつま先が……僕の股間を刺激したから。


「れ、麗美ちゃん……」


「小柄で優しいくせに、ここだけは怪獣みたいに凶暴なんだから」


「そ、そんなにグリグリしないで……」


「ふふ、いつも私たちの奥をグリグリしまくっているのは、この子でしょ?」


 グリグリ。


「はうっ!?」


 僕が声を上げると、


「お客様、いかがなさいましたか?」


 上品な黒服のウエイターさんが、気遣うように声をかけてくれる。


「い、いえ、何でもありません……ごめんなさい」


「左様でございますか」


 ウエイターさんは一礼をして去って行く。


「ちょ、ちょっと、麗美ちゃん……」


「なーに?」


 麗美ちゃんが意地悪な笑顔を浮かべる。


「あまり、その……イジめないで下さい」


「うふふ、何だかんだ、真尋は優しいM男くんね。とても可愛いわ」


「M男とか言わないでよ」


「ええ、そうね。私の彼氏で、未来のダンナさま♡」


「しょ、将来のことは分からないけど……」


「でも、私と結婚したら、きっと私に似て、スラッとした美人の子が生まれるわよ」


「はは、だと良いんだけど……でも、僕に似て背が低くなったら、どうしよう」


「それはそれで、可愛いじゃない。私はどんな子でも愛すわ。愛する真尋の子なら」


 ただでさえ、慣れないフレンチで緊張している所に、そんな生々しい話をされて。


 僕はグルグルと目が回ってしまいそうになる。


「あれ? 麗美ちゃん、そう言えばこの飲み物って、お酒じゃないよね?」


「……うふふ」


「ちょっ、麗美ちゃん!?」


「……なーんてね。もちろん、ジュースよ。私たち、まだ高校生だもの」


「はぁ~、もう驚かさないでよ。麗美ちゃんって、本当にドSだよね」


「嫌いになっちゃうかしら?」


 麗美ちゃんが、潤んだ瞳で僕のことを見つめて来る。


「いや、嫌うってことはないよ……正直に言って、麗美ちゃんとのこういうやりとりは、ドキドキするっていうか……うん、楽しいよ」


 僕がまた照れながらそう伝えると、麗美ちゃんは頬を少しばかり赤く染めた。


「や、やだ……ちょっと、暑いわね。やっぱり、間違えてお酒を飲んじゃったかしら?」


「麗美ちゃん?」


「冗談よ。でも、早くお酒を飲める年齢になりたいな」


「お酒に興味があるの?」


「ていうか、お酒を飲んだ後のセッ◯スに興味があるの」


「ぶふっ!?」


 僕は飲みかけのジュースを噴き出した。


「ゲホッ、ゴホッ……ちょっと、麗美ちゃん」


「ふふ、やっぱり、真尋ってば可愛いわね」


 頬杖を突きながら、麗美ちゃんは楽しそうに笑って、僕のことを見つめていた。




      ◇




 初めての高級フレンチは美味しかったけど、でも気持ちが休まることがなかった。


「ねえ、真尋」


 麗美ちゃんが、僕の腕に抱き付きながら言う。


「このまま、2人でもっと良い所に行こうか?」


「えっ?」


「ホテル……クリスマスで夜は埋まっているだろうけど……昼なら空いているはずだから」


「いや、でも……それこそ僕らは未成年だから、ダメでしょ?」


「大丈夫、私って大人っぽいから」


「そ、そうだけど……僕はチビで見るからに学生だから、ダメでしょ?」


「股間のアレは、誰よりも怪獣くんなのにね」


「その怪獣って言うの、やめてよ」


「もう、ワガママなんだから~」


 その時、背後からポンと肩を叩かれる。


「お2人さん」


 振り向くと、ゆかりちゃんがニヤリと笑っていた。


「次は、あたしのターンです」


「えっ、嘘。もうそんな時間なの?」


「麗美さ~ん、往生際が悪いっすよ~?」


 ゆかりちゃんがニヤけたまま言うと、麗美ちゃんが悔しそうに唇を噛む。


「あきらめて下さい。さっき、わたしに対しても無慈悲だったので」


 和沙ちゃんが淡々としながらも、明らかな不満をにじませて言う。


「ぐっ……」


「はい、ドーンと」


「きゃっ」


 麗美ちゃんが押しやられて、代わりにゆかりちゃんが僕の腕に抱き付く。


「まーくん、この麗美さんと気取った料理なんか食べて、疲れたっしょ?」


「何ですってぇ?」


「いや、まあ、楽しかったよ」


「真尋……ありがとう」


「むっ……でも、あたしと一緒の方が、もっと楽しいかもよ~?」


 ゆかりちゃんは、さらに強く僕の腕をホールドする。


 そのご自慢の巨乳で。


「まーくん、気取った高級フレンチさんで、無駄なカロリーいっぱい取ったでしょ?」


「いや、それは……どうなのかなぁ? よく分からないけど」


「ってことで、これから……ちょっと、カロリー消費しちゃう?」


「えっ?」


 戸惑う僕に対して、ゆかりちゃんは得意げに笑った。




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