第60話 クリスマス編②

 12月24日 クリスマスイブ


 カップルが多い街並みを、僕は歩いて行く。


 今まで、そんなことはなかった。


 ましてや……


「真尋くん、何だかワクワクしますね」


 こんな可愛い彼女がとなりにいて、一緒にクリスマスの街を歩くだなんて。


 もう付き合って、だいぶ時間が経つのに。


 何だか、未だに実感が湧かないというか、改めて困惑してしまう。


「あの、和沙ちゃん。ちゃんと効率の良いスケジュールを立ててくれたって言ったけど……まずはどこから行くの?」


「私が真尋くんに、プレゼントを買ってあげます」


「えっ? でも、明日のクリスマスパーティーで、プレゼント交換をするでしょ?」


「はい。でも、それはそれとして、別にプレゼントをしたくて」


「じゃあ、僕も和沙ちゃんに何かプレゼントを……」


「良いんですよ、それは」


「いや、でも……」


「真尋くんを、私の好きに出来る。それが何よりのプレゼントですから」


「和沙ちゃん……」


「さあ、行きましょう」


 僕は和沙ちゃんにリードされる形で、歩みを進めた。




      ◇




 やって来たのは、女性ウケが良さそうな、雑貨屋だ。


 クリスマスとあって、店内は繁盛している。


「あの、和沙ちゃん。プレゼントって、何をくれるの?……なんて聞いたら、ちょっと野暮かな?」


「いえ、大丈夫です。ネックレスをプレゼントしようと思って」


「ネックレス……今まで、つけたことがないからなぁ。自信がないというか……」


「だからこそです。私、新しい真尋くんが見たいので。今の謙虚な感じも良いですけど、もっと自分に自信を持って、キラキラと輝く真尋くんが見たいです」


「あはは……期待に応えられるように、がんばるよ」


 苦笑する僕のそばで、和沙ちゃんは真剣にネックレスを選ぶ。


「う~ん……真尋くん、好きな色は何ですか?」


「えっ? そうだな……青色とか?」


「じゃあ、これにします」


「決断はやっ」


「実は、前から目星を付けていたんです。もちろん、真尋くんの好みも把握済みです」


「さ、さすが、和沙ちゃん」


 そして、そのネックレスを購入すると……


「真尋くん、早速コレつけて下さい」


「あ、うん」


 僕は受け取ろうとするけど、なぜか和沙ちゃんが至近距離に寄った。


「えっ?」


 ふわっと、良い香りがする。


 今さらだけど、和沙ちゃん、香水をつけているのかも。


 麗美ちゃんはよくつけているけど、和沙ちゃんは真面目だしそんなイメージはないから。


 何だか、ドキドキしてしまう。


「あ、あの、和沙ちゃん?」


「せっかくだから、わたしがつけてあげます」


 和沙ちゃんは、僕に抱き付くような形で、ネックレスをつけてくれる。


 何だろう、決して嫌な気持ちじゃないけど……ソワソワして落ち着かない。


「……よし、これでオッケーです」


「あ、ありがとう。でも、どんな感じか、自分じゃ分からないな。鏡がないし……」


「大丈夫です」


 和沙ちゃんは、スマホを取り出すと、パシャッと1枚。


「こんな感じです」


「ああ、なるほど……うん、悪くないかも。和沙ちゃん的には、どうかな?」


「はい、すごく似合っています。だから、これから一生、そのネックレスは外さないで下さいね」


「い、一生? ちょっと、怖いこと言わないでよ」


「ごめんなさい、ヤンデレチックになってしまって」


 和沙ちゃんはくすりと笑う。


「真尋くん、そろそろランチに行きませんか?」


「あ、そうだね。お腹も空いた頃合いだし」


「はい、じゃあ……」


 歩き出そうとした時、和沙ちゃんの肩にポンと手が置かれる。


「時間よ」


「「えっ?」」


 その声に振り向くと、麗美ちゃんがいた。


「和沙たん、ざーんねん♪」


 ゆかりちゃんもいる。


「あれ、2人とも、いつの間に……」


「あたしら、2人の後を付けていたんだよ~」


「えっ、そうなの?」


「悪い子が、ズルをしないようにね」


「そ、そんなこと、しませんよ……でも、もう時間ですか? わたしの体感では、もう1時間くらいあるはずだと……」


「和沙、効率良くとか言っておきながら、だいぶ真尋とイチャつきながら、ダラダラと非効率なルートを歩いていたわよ」


「そ、それは……真尋くんと、2人きりでクリスマスの街を歩くのが、楽しかったから……」


「まあ、その気持ちは分かるけど。どちらにせよ、時間の割り振り的に、ランチタイムは私の時間だから」


「うぅ……仕方ないですね」


 和沙ちゃんは、名残惜しそうに僕から手を離す。


 代わりに、今度は麗美ちゃんが、僕の腕に抱き付いて来た。


「さあ、真尋。私と楽しいランチタイムに行きましょう?」


「あ、うん」


「何よ、乗り気じゃないの?」


「そ、そんなことないよ」


「うふふ、お店はもう予約してあるから。そこのお2人さんに、私たちのラブラブっぷりを、見せつけてあげましょう」


「ちっ、性格の悪い女め~!」


「久しぶりに、麗美さんがムカつきます……」


「おほほほ!」


 そんな2人の声をご機嫌な高笑いで吹き飛ばす麗美ちゃん。


「行くわよ、真尋」


「あ、はい」


 そして、麗美ちゃんのターンが始まる。




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