第59話 クリスマス編①

 ハラハラ、と雪が降って、本格的に街が冬の色に変わって行く。


 そして、大事なイベントが近付いていた。


「で、クリスマス、どうする~?」


 ポリポリ、とお菓子を食べながら、ゆかりちゃんが言う。


「そうね、やっぱり普段とは違う場所で、豪勢に行きたいわね」


 爪のネイルを直しながら、麗美ちゃんが言う。


「だとすると、高級レストランと高級ホテル、でしょうか?」


 ノートにペンを走らせながら、和沙ちゃんが言う。


「いや、僕らは学生だし、そんな背伸びをする必要はないでしょ」


 苦笑しながら、僕は言う。


「ていうか、いつも通り、このまーくんの家でパーティーで良くない? みんなでせっせと、飾り付けとか、お料理とか用意してさ~。あとは外せないのが、プレゼント交換」


「そう言われてみると、確かにその方が良いかもしれないわね」


「慣れ親しんだ場所で、のんびりしましょうか」


 3人が頷き合う。


「まーくんも、それで良いよね?」


「ああ、うん」


 こうして、我が家でのクリスマスパーティーが決まった。




      ◇




 僕はホッとしていた。


 あの3人のことだから、いつもみたいにケンカして、僕と2人きりの時間を奪い合うかと思ったけど……そんなことは無かった。


 ちゃんとみんなで、クリスマスを楽しもうってスタンスで、安心したよ。


 ピロン♪


「んっ?」


 スマホにメッセが届く。


『まーくん、みんなでパーティーは25日にするとして、24日はあたしと2人きりでデートしよ♪』


 僕は愕然とした。


 ピロン♪


『真尋、25日はみんなでパーティー、24日は私と2人きりでデートよ、分かった?』


 僕は愕然とした。


 ピロン♪


『真尋くん、25日はみんなで楽しむとして、24日はわたしと2人きりでデートですよ?』


 僕は驚愕した。


 えっ、ちょっと、待ってこれ……


「結局、いつも通り!?」


 ああ、そういえば、何か聞いたことがあるかも。


 カップルにとって、クリスマスと言えば、イブ。


 そして、家族と過ごすのが、25日みたいな。


 そうだよなぁ、あの3人が大人しく、普通に仲良くするはずないよなぁ……完璧に、自分だけ抜け駆けしようとしているし。


 僕は少し悩んでから3人ともに、


『24日は、25日の準備で忙しいから……』


 と遠慮がちに送った。


 すると……


『はぁ? まーくんって、バカ?』


『真尋、恋人のクリスマスを、何だと思っているの?』


『真尋くん、楽しいクリスマスにしたいですよね?』


 ……怖い怖い怖い。


 やっば、これどうしよう。


 みんなでワイワイのパーティーをする前に、それぞれと恋人みたいなクリスマスデートをしないとだなんて……


 僕の体は1つしかないし……


「……はぁ~」


 ソファーに座って、ため息をこぼす。


 でも、やるしかないよな。


 僕はあくまでも、冴えない陰キャくんだ。


 そんな僕が、まるでモテハーレム王みたいな、同日に複数の女子とデートするだなんて……

 あっ、でも前に、僕はハーレム王だ、みたいな啖呵たんかを切ったような気もするし……


 てことは、その言葉の責任は、ちゃんと取らないとダメか……


 僕はケンカになることは分かりつつも、個別に来たメッセに対して、あえてグループの方で返信した。


『みんなの気持ちは分かったよ。でも、僕の体は1つしかないから、時間をちゃんと割り振ろう』


 みんな、憤慨するかと恐れたけど……


『まあ、仕方ないか~』


『それが現実的ね』


『では、効率よく割り振りましょうか』


 意外と、素直に従ってくれた。




      ◇




 12月24日 午前10時


 僕は待ち合わせの場所に立っていた。


 朝の早い時間だけど、イブとあって街を行き交う人たちは多い。


 もちろん、カップルの存在が目立つけど……


「真尋くん」


「あっ、和沙ちゃん」


 いつもよりも、オシャレした姿の彼女に、束の間、見惚れてしまう。


「か、可愛いね、その服装と髪型」


「あ、ありがとうございます……真尋くんも、すっかりチャラ男ですね」


「いや、チャラ男って言わないで」


「真尋くん、時間がもったいないから、早く行きましょう。私、ちゃんと予定を立てているので」


 意外にも強引に、和沙ちゃんが僕の手を引っ張る。


「か、和沙ちゃん。慌てると、転ぶよ」


「その時は、守って下さい」


「わ、分かった」


 こうして、せわしないクリスマスが始まる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る