第52話 まさかのピンチ!? ゆかりに伸びる魔の手!?

 京都の街は、とても賑わっている。


 僕たち以外の学校の生徒も、修学旅行で来ているし。


 外国人の観光客も多いから。


「あ、ねえねえ。お団子屋さんがあるよ~」


 ゆかりちゃんが元気よく言う。


「良いわね。着物の雰囲気と合うし」


「わたし、お団子好きです」


「まーくんも、お団子で良い?」


「うん、良いよ」


 僕ら一行は、お団子屋に入った。


「いらっしゃいませ~」


「すみません、お団子4つ下さい」


 注文をすると、僕らは長台の椅子に座った。


「背もたれが無いから、ちとキツいね」


「ええ、そうね」


「でも、それがかえって良いんだと思います。そういう今よりも不便な環境だったから、昔の人は体が丈夫だったんだと思います」


「なるほどね、確かにそうかもしれないわね」


「むむ、体が丈夫ということは……それだけ、セッ◯スも激しかったのかな?」


「こら、ゆかり」


「だと思いますよ。昔は避妊の概念も無かったでしょうし」


「てことは、子作り放題ってことか」


 そう言って、ゆかりちゃんを初め、麗美ちゃんと和沙ちゃんも、キランと光る目で僕を見た。


「あの、3人とも。たぶん、クラスのみんなが……あっ」


 僕は店から少し離れた物陰に、見覚えのある顔を見つけた。


 クラスの男子たちが、恨めしそうな目でこちらを睨んでいる。


「綿貫の野郎、下僕とはいえ、着物姿でさらに可愛くなったあの3人と……」


「羨まし過ぎる……」


「もげろ……」


 冷や汗が垂れてしまう。


「ほら、あそこ。監視の目があるから、あまり僕とそういった会話はしない方が良いよ」


「はぁ~、息苦しいなぁ。あたし、息をするようにエロ発言をしちゃうのに。ついでに、おっぱいもさらしでキツいし」


「ゆかり、いちいち胸のデカさをアピールしないでくれる? それとも、それ以外はスッカスカだから、固執しているのかしら?」


「何だと~!?」


「相変わらず、この2人はうるさいですね。真尋くん、いっそのこと、2人きりでゆっくりと、京都の街を回りませんか?」


「こらー、和沙たん! 抜け駆けをするな!」


「そうよ、騒がしいのはゆかりだけよ。あ、そうだわ。いっそのこと、ゆかりだけいなくなれば、もっと落ち着いて、京都の街を楽しめるわ」


「なっ……」


 ゆかりちゃんは、また強く言い返すのかと思ったけど……意外にも大人しく口をつぐんでしまう。


「……何だよ、そんな風に言わなくたって良いじゃん」


「えっ、ゆかり?」


 麗美ちゃんがわずかに困惑した目になる。


 ゆかりちゃんが、スッと立ち上がった。


「ゆかりさん、どうしましたか?」


「……あたし、1人で行く」


「えっ、ゆかり……」


 麗美ちゃんが止める間もなく、ゆかりちゃんは団子屋から駆け出して行った。


「はい、お団子、お待たせしました~」


「あの、すみません。お代はお支払いするので、失礼します」


「お客さん?」


 僕らは急いで団子屋を後にした。


「ごめんなさい、私が言い過ぎたわ……まさか、ゆかりがあんな風に傷付くなんて」


「いえ、私の方こそ……調子に乗り過ぎました」


「2人とも、反省は後にしよう。今はゆかりちゃんを追いかけないと」


「真尋……」


「真尋くん……」


 僕も責任を感じていた。


 ゆかりちゃんは、いつも明るくメンタルが強いと思っていたけど……何だかんだ、繊細な女子高生なのだ。


 だから……


「……あっ」


 ゆかりちゃんの姿を見つけた。


 しかし……


「ねーねー、君、どこの高校?」


「メッチャ可愛くね?」


「ていうか、乳デカくね?」


 他校の男子に囲まれていた。


 しかも、ヤンキーっぽい。


「……あの、ちょっとあたし、いま気分が悪いから」


「えっ? じゃあ、休憩しようよ。俺たち、良い場所しっているから」


「まあ、むしろ、疲れちゃうかもだけど……ヒヒ」


 他校男子たちが、ゲスな笑みを浮かべて言う。


「はぁ、キモ」


「「「なっ……」」」


「言っておくけど、あたし、あんたらみたいなシケや野郎のシケたチ◯コなんて興味ないの。いつも、もっとすっごいので愛してもらっているから」


「テメッ、このクソ女ぁ!」


 他校男子の1人が、ゆかりちゃんに殴りかかろうとした。


 その瞬間、僕は駆け出していた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」


 その声に、ゆかりちゃんが振り向く。


「まーくん!?」


「あっ?」


 遅れて、ヤンキー男子が振り向いて――


 バキッ!


「ぐあっ!?」


 人生で初めての痛みを感じた。


 僕は右こぶしの震えを感じた。


「……ってぇ……んだ、この野郎ぉ!?」


「はぁ、はぁ……」


 僕は息を切らしながら、尻もちをついた奴を見下ろす。


「……すな」


「あぁ!?」


「僕のゆかりちゃんに、手を出すなぁ!!」


 自分でも驚くくらい、腹から声が出た。


「ま、まーくん……」


 ゆかりちゃんが目を丸くしていた。


「はぁ? キモいんだよ、クソ陰キャ野郎ぉ。武士のコスプレしているからって、調子こくんじゃねえぞぉ?」


 ヤンキー達が、僕を睨み付けて、迫って来る。


「まーくん!」


「僕のことは良いから、逃げろ!」


「カッコつけてんじゃねえよ、クソがぁ!」


 お返しの拳が放たれる――


 ガシッ、と。


「あっ?」


 殴られるのを覚悟して堪えるように目を瞑っていた僕。


 けど、衝撃は訪れなかった。


「危ない所だったなぁ」


「……み、みんな?」


 先ほどまで、僕のことを恨めしそうに睨んでいた、クラスメイト達がいた。


「おい、クソヤンキー共。俺らのダチに手を出してんじゃねえよ」


「あぁ!? やんのか!?」


 一触即発、このままだと、大騒ぎになって……


「すみません、誰か助けて下さい!」


 その時、麗美ちゃんが声を響かせた。


 すると、周りの大人たちがやって来る。


「君たち、大丈夫か?」


 駆け寄って来る大人たちを見て、


「……ちっ、ズラかるぞ」


 ヤンキーたちは、大人しく去って行く。


 彼らも、そこまでバカじゃないようだ。


 問題を起こせば、修学旅行が台無しになることを理解している。


「ゆかりちゃん」


 僕は彼女のそばに寄った。


「まーくん……」


「大丈夫? ケガはない?」


「うん……まーくん、ありがとう。けど、驚いちゃった」


「僕もだよ」


 背後から足音がした。


「ゆかり……」


 振り向くと、麗美ちゃんが眉尻を下げていた。


「さっきは、その……言い過ぎたわ、ごめんなさい」


「わたしも、調子に乗り過ぎました……」


「麗美、和沙たん……ううん、良いの。あたしこそ、スネちゃって、ごめん」


 ゆかりちゃんが笑うと、麗美ちゃんと和沙ちゃんも笑った。


「いやー、良かった、良かった。カス共に、俺たちの3大美女が汚されなくて」


 クラスメイト達が言う。


「みんな、ありがとう」


「いやいや、綿貫。お前こそ、やるじゃん。見直したよ」


 肩を組んで言われる。


 ロクに友達もいない僕は、同級生の男子にそんなことをされるのは初めてだったから、照れてしまう。


「ところで、綿貫……お前、さっき『僕のゆかりちゃん』って言ったけど……あれ、どういう意味?」


「えっ? あっ……いや、その……」


 みんなの目が、また怖くギラつく。


 どう言い訳をしようかと、考えていた時、タタタと音がした。


 むぎゅっ、と柔らかい感触が、僕の腕に抱き付いた。


「えっ?」


「言葉通り、そのまんまの意味だよ」


 僕の腕に抱き付きながら、ゆかりちゃんは言う。


「あたし、まーくんの彼女だから」


「「「「「「なっ!?」」」」」」


 男子たちはもちろん、麗美ちゃんと和沙ちゃんも目を見開いた。


「ねっ? まーくん♡」


「ゆ、ゆかりちゃん……」


 笑顔の彼女に対して、僕は声が震えてしまう。


 目の前の男子たちも震えていた。


「ちょっと、待ちなさい!」


「待って下さい!」


 ふにゅっ、ひにゅっ、と柔らかい感触がした。


 何と、麗美ちゃんと和沙ちゃんも、僕に抱き付いている。


「私も、真尋の彼女だから」


「わたしも、真尋くんの彼女です」


 そして、ゆかりちゃんに負けじと、カミングアウトをした。


「そうよね、真尋?」


「真尋くん?」


 傍から見たら、超ハッピー、幸せ者なんだろうけど。


 僕は体から血の気が引いて、ガタガタと震えてしまう。


 百万歩譲って、この中の1人とだけ付き合っているなら、まだギリッギリ、許されるかもしれない。


 けど、みんなが憧れてやまないこの3人を、一人占めしているなんて……もうクラス裁判にて、極刑にされてもおかしくないレベルだ。


「「「「「「……わ、綿貫の、どこが良いんだ?」」」」」」


 もはや、生きるしかばね状態の彼らは言う。


「えっ? うーん、やっぱり、可愛い所かな」


「文句も言わずに、言うこと聞いてくれるし」


「何よりも、優しいですし」


 3人は言う。


 正直、ちょっと嬉しく、ジーンとしてしまう。


 そこで終わってくれれば、まだ良かったんだけど……


「「「あとは、チ◯コがすっごくデカいこと♡」」」


 普段はいがみ合っているくせに、ここぞとばかりに声を揃えて言う。


 そういえば、元々は仲が良い子たちだったね。


 僕という、恋愛要素が無ければ……


「「「「「「あがががががががが!?」」」」」」


 あまりにも衝撃的すぎる発言の連続に、とうとう男子たちが壊れた。


「み、みんな、その……何て言って良いか……」


 僕がしどろもどろになっていると、彼らはブクブクと泡を吹きながら……


「「「「「「……昨日の風呂で、もいでおくべきだったか」」」」」」


 メッチャ怖いことを言われた。


「はぁ~? まーくんのチ◯コをもぐだって~?」


「そんなことをしたら、許さないわよ?」


「徹底的に……追い詰めますからね?」


 けど、3人のカウンターパンチが盛大に決まって、


「「「「「「ガハッ……!?」」」」」」


 それがトドメとなり、とうとうみんな死んでしまった。


 死屍累々ししるいるいとは、正にこの事か……


「……ねぇ、まーくぅん♡」


 ゆかりちゃんが、甘ったるい声で言う。


「えっ?」


「さっきは、ちょーかっこよすぎて、ますます、まーくんに惚れちゃった♡」


「そ、そっか……」


「だからね……今すぐ、まーくんとパ◯りたい♡」


「いやいや、自由行動とはいえ、学校行事の最中だし……」


「もう、固いのはこのデカ◯ンだけで良いんだぞ♡」


「ぜんぜん上手いこと言っていないよ!?」


「ちょっと、ゆかり。勝手に1人だけ、真尋とイチャコラしないでくれる?」


「あーら、ごめんあそばせ~? でも結局は、このゆかりちゃんこそ、正妻、正ヒロインなんだよ。残念だったね、脇役の乳なしズ☆」


「だから、私はちゃんとある方だって、何度も言っているでしょうが」


「あ、さっきのお団子、持ってくれば良かったです。その串で、この憎たらしい水風船を割って、しぼませて……ブツブツ」


 さっきまで、何か良い雰囲気だったのに。


 結局、またいつもみたいな感じになってしまった。




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