第49話 全くもって一枚岩じゃない

 またしても、危険なビッチと相対することになってしまった。


 ただ今回は、前回のトイレほど密室じゃない、ホテルの一室。


 だから、まだ精神的には余裕があるけど……


「……ねえ、桜田さん。さすがに、ちょっとシャレにならないよ。もし、先生に見つかったらどうするの?」


「大丈夫だよ。先生にマークされているのは、女子側の方だから」


「そうかもしれないけど……この部屋の男子が戻って来るかも……」


「大丈夫、大丈夫。女子の部屋で盛り上がっているか、あるいはたどり着く前に先生に見つかって、こってり絞られている。どちらにせよ、すぐには戻って来ないよ♪」


「ぐっ……」


 この子、メチャクチャだけど、抜け目がないと言うか……


「安心してよ、ちゃんと用意して来たから」


 そう言って、桜田さんは、右手の人差し指と中指で、何かを挟んでいた。


 あれは……避妊具!?


「コハルが持っている中で、最大のサイズを持って来たけど……もしかしたら、それでもキツキツかもね」


「や、やめようよ、桜田さん」


「ううん、もう止まれない。コハル、狙った獲物は逃さないの。デカ◯ンハンターの名にかけて!」


「お願いだから、その称号を今すぐに捨ててくれ!」


 僕の切実な訴えも虚しく、桜田さんは舌なめずりをする。


「ふふふ、綿貫くん。覚悟は良いかな~?」


 桜田さんが歩み寄って来るので、僕はベッドから降りた。


 お互いに、ベッドを挟んで睨み合う形となる。


「てやっ」


 桜田さんはベッドに飛び乗った。


 ホテルの浴衣姿なのに、身軽な動きだ。


 そのまま、スプリングの勢いを活かして、僕の方に飛びかかって来る。


「うわっ!」


 僕は慌ててその場から飛び退くと、走って部屋のドアに向かった。


「あ、こら待て!」


 当然、その制止を聞くことなく、僕は部屋から飛び出した。


 いけないと分かりつつも、廊下を走り抜ける。


 確かに、こちらには見回りの先生はいないようだ。


「こら、待てー!」


 背後から、桜田さんが追いかけて来る。


 は、速い! 正に獲物を狩るハンターのごとし!


 このままだと、捕まってしまう――


「いや~、何だかんだ、まーくんのおチ◯ポ我慢できなくて、来ちゃったね~」


「はい、ゆかり、マイナス1ポイントよ」


「うるさいなぁ、もうそのルールやめようよ~、面倒だし」


「ひどいです。せっかく、わたしも我慢していたのに」


 目の前から、3人娘が歩いて来た。


 こ、これは……


「……んっ? って、まーくんじゃん!」


「あら、本当に?」


「これは、奇遇ですね」


 3人とも、僕の存在に気が付き、嬉しそうな顔になった。


「おーい、まーくん。そんなに急いでどったの? もしかして、あたしに会いたくて?」


「ち、違うんだ! 逃げている最中で!」


「逃げる? 誰から?」


 僕は3人のそばに寄った。


 そして、彼女たちの目に桜田さんの姿が映った。


「って、誰、この子?」


「確か、となりのクラスの子じゃない?」


「何か見覚えがあります」


 3人が口々に言うと、桜田さんは弾ませた息を整えながら、


「どうも、桜田小春ちゃんです♡ 2年A組の3大美女さま、こんばんは~♪」


 明るくニコッとあいさつをする。


「あなた、どうして真尋のことを追いかけていたの?」


 麗美ちゃんが問いかける。


「えっ? それはもちろん、綿貫くんのデカ◯ンを食べたいから♡」


「「「なっ」」」


「コハル、デカ◯ンハンターだし♪」


「何だと~!? まーくんのチ◯ポは、あたしのものだ!」


「いいえ、私のものよ」


「違います、わたしのものです」


 こっちはこっちで、対立してしまう。


「あらあら? 3大美女さんって、前はもっと仲良しじゃなかったっけ?」


「ええ。けど、真尋を好きになってからは、ケンカ三昧よ」


「なるほどね……じゃあさ、せっかくだし、4人で綿貫くんのデカ◯ン巡って、バトらない?」


「「「えっ?」」」


 目を丸くする3人に対して、桜田さんはニヤリとしている。


「あ、あのさ、先生もこっち来るかもしれないから、ここら辺で穏便に……」


 僕がたしなめようとした時、


「……面白いじゃん」


「えっ?」


「ええ、そうね。これを機会に、誰が女王かってこと、教えてあげる」


「裸の女王さまの間違いじゃない?」


「裸の王さまですけどね……まあ、構いませんけど」


「ちょ、ちょっと、みんな?」


「やった~、みんなノリ良いじゃん♪ 3大美女なんて、お高く留まっていると思ったけど」


「いや、お高く留まっているのは、麗美だけだから」


「何ですって?」


「何事も、謙虚が1番ですよ。わたしは麗美さんみたいに態度はデカくないですし。ゆかりさんみたいに乳もデカくもないですし。謙虚で可愛い女の子です」


「態度がデカいって……」


「おうおう、和沙たん。一丁前にケンカを売るようになったな」


「いけませんか?」


「えへへ~、面白くなって来たね~♡」


 女子4人が盛り上がる一方で、僕はひたすらに冷や汗を流していた。




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