第46話 たこ焼きで鬼畜る!?

 新幹線内で、みんなワイワイと賑わっていた。


 そのテンションのまま、新幹線を降りてからも元気が良く、先生に注意されていた。


 一方で……


「……はぁ~」


 僕は疲弊していた。


 あの予想だにしない、襲撃があったせいで……


「まーくん、大丈夫?」


「ああ、うん」


「そんなに一生懸命、オ◯ったの? もう、言ってくれれば、あたしが手伝ってあげたのに」


「あはは、公共の場で、そんなことダメだよ……」


「真尋、本当に元気がないみたいね」


「ちょっと、わたし達もおふざけが過ぎたみたいですね」


「そっかぁ。ごめんね、まーくん」


 3人が申し訳なさそうに言ってくれる。


「いや、大丈夫だから……あはは」


 僕の笑い声に、力は無かった。




      ◇




 大阪。


 笑いと食い倒れで有名な街。


「わーい、たっこ焼き、たっこ焼きぃ~♪」


「こら、ゆかり。またハシャぎ過ぎて、真尋を疲れさせないでちょうだい」


「分かっているけどさ~……まーくん、ベッドの上では疲れ知らずなのに」


「そうですよね」


「ほら、またお下品なこと言わないの」


「全く、上品ぶっちゃって。いつも、まーくんの上で下品な顔を晒して……むぎゅぎゅっ!?」


「はいはい、静かにしましょうね~?」


 麗美ちゃんが怖い笑顔で、怒りのアイアンクローをゆかりちゃんに決める。


「じゃあ、たこ焼きを作りましょうか」


 和沙ちゃんは、淡々として言う。


 修学旅行のイベント第1弾は、大阪にてたこ焼きを食べること。


 しかも、自分たちで作る体験まで出来ちゃうのだ。


 グループごとに席に座って、たこ焼きを作って食べると。


「わーい、たこパだ、たこパだ♪」


「じゃあ、生地を入れましょうか」


「あ、僕がやるよ。たこ焼き器、熱いし」


「あら、嬉しいわ、真尋」


「ちっ、イチャついてんじゃねーよ、タコが。たこ焼きだけに」


「真尋、このバカ乳女の口に原液をぶち込んでやりなさい」


「何だと、この鬼畜な女王様めぇ~!」


「早く作った方が良いですよ」


 相変わらず、わちゃわちゃとした空気に苦笑しつつ、僕はたこ焼き器に生地を流し込む。


「そういえば、みんなって、たこ焼き器で作ったことある?」


「どうだったかしらね……初めてかもしれないわ」


「そっか。リア充な人たちは、みんなたこパとか経験済みかと思ったよ」


「まあ、セッ◯スは経験済みだけどさ~」


 ゆかりちゃんの発言に、男子たちの耳がピクピク動く。


「次に恥ずかしい発言をしたら、追放するから」


「え~! 鬼畜ぅ~!」


「まあ、最近はネット小説で、追放モノってブームですからね」


「和沙たん、何を言っているの?」


「真尋くんなら、分かりますよね?」


「えっ? ああ、うん。面白いよね」


「ちっ、オタク同士でイチャつきやがって……」


「ゆかり、あなただけ、真尋と相性が悪いみたいねぇ?」


「ぐぎぎ……セッ◯スの相性は1番良い……むぐぐっ!」


 ゆかりちゃんの隣に座っている麗美ちゃんが、怒りの笑顔で口を封じた。


「すみません、店員さん。ガムテープって、ありますか?」


「むぐぐぅ~!(鬼畜ぅ~!)」


 目の前で小競り合いをする2人に苦笑しつつ、


「そろそろ、具材を入れましょうか」


「うん、そうだね」


 僕と和沙ちゃんは、淡々とたこ焼きづくりを進めて行く。


「イエーイ! あたし、1番おっきぃタコさん入れるぅ~!」


「どうぞ、ご自由に。私は普通のサイズで良いわ」


「何だよ~、本当はまーくんのデカチ……」


「ぎろり」


「……デカ、デカチ……デカいチーズって、ありますか?」


「ゆかりさん、いい加減に下ネタはやめてもらっても良いですか?」


「今のは違うよ、バカ!」


「あ、ウインナーもあるよ」


「まーくん♡」


「いや、違うから。僕も迂闊うかつだったけど」


「わたしはあえての具なしで行きます」


「あら、和沙は通ね」


「そっかぁ。まあ、和沙たんの胸も、中身が無いからなぁ」


「……ゆかりさん、その立派なお胸に、ピック刺しても良いですか?」


 和沙ちゃんが、静かな顔で睨みながら、たこ焼きピックを構えた。


「うぅ……何でみんな、あたしに冷たいの?」


「あなたがふざけてばかりいるからよ」


「はぁ? あたしはいつだって真剣ですけど~?」


「だとしたら、大問題よ」


 閑話休題。


 ジュージュー。


「わーい、たこ焼き出来たぁ~!」


「あなたは何もしてないけどね。ただ、邪魔をしていただけ」


「はぁ~? あたし盛り上げ隊長ですけど?」


「そんなの頼んだ覚えはないわよ」


「むしろ、盛り下げマンじゃないですか?」


「ぐぬぬ……」


 ゆかりちゃんは、ちょっと涙目になって唸る。


「ちくしょう! こうなったら、ヤケ食いしてやる!」


 串でたこ焼きを差して食べ始める。


「あ、ゆかりちゃん、ちょっと待って……」


「うるせぃ、まー公!」


「まー公!?」


 僕の制止も虚しく、ゆかりちゃんは、パクッと食べた。


「……うあっちぃ!?」


「だ、だから言ったじゃないか」


「自業自得です」


「バカねぇ~」


「お、お水ちょうだい!」


 ゆかりちゃんが必死に求めるので、僕は急いでお水を注いであげた。


 コップを受け取ったゆかりちゃんは、ゴクゴクと飲む。


「……ぷはぁ。メッチャ美味いよ♪」


「説得力に欠けるわよ」


「良いから、良いから。黙って食べなさい」


「黙るのは、あなたでしょうが」


 そして、僕たちもたこ焼きを頬張る。


「……あつっ」


「ぷひゃひゃ! 麗美ざまぁ!」


「う、うるはい……あふっ」


「ふふふ、普段から人を虐げているくせに、良いザマだね」


 ゆかりちゃんにディスられる麗美ちゃんは、水でゴクリとたこ焼きを飲み込んだ。


「……ゆかり、もっと食べたいでしょ? 私の分もあげるわ」


「えっ、良いの?」


「じゃあ、一気に……3つ行きましょうか」


「いや、それは鬼畜おおおおおおおおおおおおおおおおぉ!?」


 本当にたこ焼きを3つ口に放り込まれた。


 ゆかりちゃんも悪いけど、麗美ちゃん……これは鬼畜だ。


「おおおおおおおおぉ~……」


「うふふ、良いザマね」


 向かい側で、2人が勝手にデスゲームをしている一方で、


「真尋くん、美味しいですね」


「あ、うん」


「そうだ。あーん、しても良いですか?」


「え、いや、でも周りの目が……」


「大丈夫ですよ、みんな自分たちのたこ焼きに夢中ですから」


 言われて見渡すと、確かにそれぞれのグループで盛り上がっている。


「じゃ、じゃあ……」


 僕が口を開いて待つと、


「はい、あーん」


 和沙ちゃんが、口にたこ焼きを入れてくれた。


「……あふっ」


 はふはふ、となりつつも……


「……うん、美味しい。あ、これ、さっき言った具なしのやつだね?」


「はい。お味はいかがですか?」


「これはこれで、すごく美味しいよ」


「嬉しいです」


 和沙ちゃんは、少し照れ臭そうに言った。


「この鬼畜女王さまああああああああああぁ!」


「くたばりなさい、バカ乳女あああああああああああああぁ!」


 向かい側の2人は、まだ不毛な争いを続けていた。




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