第29話 静かな2人の時なので……

 別荘暮らしの夜は、もっと騒がしくなると思っていた。


 けど、家の中はシン、と静まり返っている。


「じゃあ、先に休むわね」


 麗美ちゃんが言う。


「あ、うん。おやすみ」


「おやすみなさい」


 複雑そうな面持ちのまま、麗美ちゃんは部屋に消えて行った。


「まーくん、あたし寝るから」


 ゆかりちゃんも。


「う、うん。おやすみ」


「ばいび~」


 ちゃっちゃと手を振って、ゆかりちゃんも部屋に消えて行った。


「……2人きりになってしまいましたね」


 和沙ちゃんが言う。


「そ、そうだね」


「あ、なってしまいました、は違いますね。2人きりになれて、嬉しいです」


 あの2人が不機嫌モードでそっけなかった分、今は普段がクールな和沙ちゃんがニッコリと微笑んでくれる。


「真尋くん、良ければ2人で、少しお話でもしませんか?」


 和沙ちゃんはソファーに腰を下ろし、隣をポンと叩く。


「あ、じゃあ……せっかくだし」


 僕は彼女の誘いに乗って、ソファーに腰掛けた。


「それにしても、今日の夕ごはん。麗美ちゃんと和沙ちゃんも一緒に作ったんだよね?」


「はい。わたしはサラダを担当しました」


「すごく美味しかったよ」


「真尋くんにそう言ってもらえて、すごく嬉しいです」


「まあ、本当はもっとゆっくり味わいたかったけど……」


「ケンカ、しちゃいましたもんね」


「うん……」


 ゆかりちゃんと麗美ちゃんは、普段から互いに少し言い合う所があった。


 けど、それはあくまでも冗談の範疇はんちゅうに収まっていた。


 それが今回は、お互いに感情を剥き出しにして、衝突してしまったのだ。


 ていうか……


「……原因って、僕だよね?」


「ええ、そうですね」


 和沙ちゃんはハッキリと頷く。


「す、少しはフォローしてよ」


「だって、事実ですから。真尋くんのご立派さまを巡って、あの2人がヒートアップしたのです」


「ご立派さまって……というか、僕のサイズは公表しない約束で計らせてあげたんじゃないか」


「すみません、つい勢いで……」


「はぁ~……とにかく、今はあの2人を仲直りさせないとだな」


 この別荘暮らしは、少し長丁場になるみたいだし。


 初日からこの調子では、後が持たない。


「いっそのこと、今から話を……いや、でももう寝ているかもしれないし……」


 僕は躊躇ちゅうちょしながら、う~んと腕組みをしてうなる。


「だったら、2人をおびき出しましょうか」


「おびき出すって……どうやって?」


「真尋くん……」


「えっ?」


 ふいに、和沙ちゃんが色っぽい顔になり、つややかな声を漏らす。


「まずはキスから、しましょうか……」


「あっ、でも、まだ歯磨きを……」


「平気です」


 和沙ちゃんは僕の頬に手を添えると、優しいキスをしてくれた。


 少し前まで未経験だったとは思えないくらいに、上手だ。


「……か、和沙ちゃん」


「真尋くん、聞こえましたか?」


「え、何が?」


「今、2人の部屋からわずかですが、物音が……きっと、動揺し、興奮しているのです」


「ま、まさか……」


 僕は恐る恐る、2人の部屋のドアに目を向ける。


 一見すると、静かに寝静まっているような感じだけど……


「じゃあ、もう1度キスをしましょう。今度は大人のキスです」


「お、大人のキス?」


有体ありていに言えば、ベロチューです」


「ハッキリと言い切ったね~」


 僕は半笑いしてしまう。


 以前の和沙ちゃんなら、照れてそんなことは言えなかっただろう。


 果たしてそれを成長と呼ぶべきかどうか、迷い所ではあるけれども……


「今回は、わたしが主導権をいただいても良いですか?」


「しゅ、主導権……ですか?」


 僕が聞き返すと、和沙ちゃんはコクリと頷く。


「じゃあ、行きますよ」


 その後、和沙ちゃんが意外にも巧みに僕のことをリードしてくれる。


 他の2人にも負けないくらい、濃厚でトロトロのキスだ。


「……どうですか?」


「何ていうか……上手になったね。って、ごめん。上から目線で……」


「いいえ、構いません。いつも、麗美さんには見下される真尋くんですから。わたしのことは、見下して下さい」


「えっ、いや、そんなこと言われても……」


 ガタタッ!


 ふいに、麗美ちゃんの部屋から物音が聞えた。


「ふふ、動揺していますね」


「和沙ちゃん……もしかして、この状況を楽しんでいる?」


「いけませんか?」


「そんなことはないけど……」


「あと、この前4【ピー!】をした時に気が付いたんですけど」


「お、おおぅ……」


「ゆかりさんは、ご自慢の胸の力に頼り過ぎて……他のテクがおろそかになっていると思います」


「あ~……それは言えているかも」


 ガタタッ!


 今度はゆかりちゃんの部屋の方から、物音が聞こえた。


「ふふ、こちらも動揺していますね」


「和沙ちゃん……そんな腹黒い子に育てた覚えはありません」


「あら、ごめんなさい。勝手に育っちゃいました。この調子で、胸も育ってくれるとありがたいんですけど」


 和沙ちゃんは気持ち、自分の胸を持ち上げて言う。


 ボリュームはまだ他の2人に及ばないけど。


 少しずつ着実に、成長しているように思う。


「どこを見ているんですか?」


「いや、和沙ちゃんがアピールして来るから」


「じゃあ……もっとアピールしても良いですか?」


 和沙ちゃんはパジャマのボタンに指をかけた。







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