第25話 海ドキッ!!

 ざざ、という海のさざ波の音を聞いていると、束の間、心が落ち着く。


 けど、背後からザッザッ、と砂をかく音が聞こえると、僕はドキッとした。


「お~い、まーくーん!」


 僕を呼ぶ声に振り向く。


 そこには予想通りの……いや、予想以上の水着美女たちがいた。


「ひゃっほ~!」


 元気印のゆかりちゃんは、そのイメージに合うイエローのビキニ。


 ちゃんと、サイズは選んで買ったはずだろうけど……ちょっと動くだけで、そのご自慢の巨乳がダイナミックに揺れて……すごい。


 まるで別の生き物みたいにリズムを刻みながら、僕の視線を釘付けにしようとする。


「真尋ぉ~」


 一方、麗美ちゃんも決して負けていない。


 バストサイズこそ、ゆかりちゃんには及ばないものの、本人が言うように美乳だし。


 その形のきれいなバストを包み込むのは、純白のビキニ。


 彼女のきれいな脚線美も相まって、清楚かつ大人な女性の雰囲気を漂わす。


 さすが、JKながらも人気のモデルさんだ。


「ま、真尋くん……」


 そして、最後は和沙ちゃん。


 他の2人に比べてあまり自信がなさげだけど、こちらも決して引けを取っていない。


 ただ、予想に反して、明るく可愛らしいピンク色のビキニだ。


 彼女の性格上、もっと大人しめの寒色系を選ぶと思っていたのに。


 けど、控えめなバストを両手で隠すそのいじらしさは、やはり和沙ちゃんだ。


 麗美ちゃんみたいにプロのモデルさん仕様の体つきではないけど。


 ほっそりしていて、庶民的というか、一般的というか。


 ある種、一番男ウケが良いかもしれない。


「「「ど、どうかな?」」」


 3人は僕の目の前にやって来ると、照れ臭そうに言った。


「み、みんな、可愛いよ」


「あたしが一番?」


「はぁ? 私でしょ?」


「わ、わたしだって、負けていませんよね?」


「え、えっと……」


 答えに困った僕は、


「と、とりあえず、せっかくだから海に入らない?」


「っしゃ、定番の水かけっこしようぜ~!」


「嫌よ、そんな野蛮なこと。あなた1人でやっていなさい」


「ったく、これだから、気取った麗美さんはダメなんですよ~」


「ムカつくわね」


「ま、まあまあ。せっかくの海なんだから、みんなで楽しく行こうよ」


 僕が笑顔でなだめると、睨み合っていた2人はとりあえず、お互いの矛を収めてくれた。


「じゃあ、まーくんにぶっかけちゃうね。いつも、ぶっかけられているお返しだぞ♪」


 バシャッ。


「うわっぷ!?」


「ぷひゃひゃ! まーくん、ウケる~!」


「ゆ、ゆかりちゃん……」


「あら、楽しそうね。私も真尋をいじ……からかっちゃおうかしら?」


「いま絶対にいじめるって言いかけたよね?」


「それっ♪」


「うわっぷ!……ひ、ひどい」


「まーくんもやり返しなよ~!」


「ええ、どんと来なさい。まあ、倍返しするけど」


「そんなの怖くて出来ないから!」


「てか、和沙も参加しなよ」


「いえ、わたしは……」


「それっ!」


 バシャッ。


「きゃあっ!」


 ゆかりちゃんが放つしぶきが、和沙ちゃんの顔面にクリーンヒットした。


「こら、ゆかり」


「ありゃ、やり過ぎちった。ごめ~ん、和沙た~ん!」


「あううぅ~……」


 和沙ちゃんはポタポタと垂れる顔の雫を拭っている。


「和沙ちゃん大丈夫……あれ? メガネは?」


「へっ? あっ……」


 和沙ちゃんは慌てて両手でメガネを探る。


「お、落ちちゃったみたいです」


「それは大変だ。すぐに探そう」


「なになに、どしたの~?」


「和沙ちゃん、メガネが落ちちゃったみたい」


「うそ~!? マジでごめ~ん! 手伝おっか?」


「いや、みんなして来ると、踏んづけちゃうかもしれないから。2人はそこで大人しくまっていて」


「分かった~」


 僕は海面に顔を付けて、中の様子を探る。


 浅瀬だから、そんな見つからないことはないと思うけど……


「……ぷはっ。ごめん、和沙ちゃん。ちょっと探すの手間取っちゃって」


「いえ、そんな。わたし、自分で探します」


「良いよ。だって、あまり見えていないんでしょ? 僕に任せてよ」


「真尋くん……頼もしいです」


「じゃあ、もう1回……」


 僕は息を吸って、再び顔を潜らせた。


 早く見つけないと、和沙ちゃんの大事なメガネが、遠くに流されてしまう。


(……おっ、あった!)


 僕は海中で、ゆらゆらと揺れる和沙ちゃんのメガネを見つけた。


 取ろうと手を伸ばす。


 けど、その前に障害物が立ちはだかった。


 うっかり、それに触れてしまう。


「ひゃんッ!?」


 可愛らしい声と共に、ビクビクッと震えた。


(こ、これって、まさか……和沙ちゃんの脚!?)


「ま、真尋くん、くすぐったいです~……」


(ご、ごめん!)


 動揺した僕は、和沙ちゃんの脚を掴んだまま、メガネに手を伸ばす。


(届けぇ!)


 そして、見事にキャッチした。


 ホッとするけど……


「きゃっ」


 バシャッ!


 海面の衝撃が、海中の僕にまで伝わって来た。


 さらに、その直後、僕の眼前に大きな物体が迫る。


 それが顔面に直撃した。


(むごっ!?)


 大きくて、けど柔らかい……こ、これって、もしかして……


(今度はお尻!? 和沙ちゃんのお尻!?)


 海中でもがいた僕たちは、


「「ぷはっ!!」」


 同時に海中から顔を上げた。


「はぁ、はぁ……か、和沙ちゃん、ごめん」


「はぁ、はぁ……い、いえ」


「はい、これ……メガネ」


 僕は差し出すけど。


「あの、ごめんなさい。よく見えないので、かけてもらっても良いですか?」


「えっ? あ、うん。分かった」


 僕は和沙ちゃんにメガネをかけてあげようとする。


 改めて見ると、和沙ちゃんも他の2人に負けないくらい、可愛い顔をしているよなぁ。


 メガネを外した顔をまともに見るのは、初めてかもしれない。


 エッチをする時も、メガネをかけたままだったから。


「……ちゅっ」


「……へっ?」


 あ、あれ?


 一瞬、唇同士が当たったような……


「……ご、ごめんなさい。良く見えないので」


「あ、う、うん……そうだよね」


 目の前で恥ずかしそうに言う和沙ちゃんを見ながら、僕は苦笑してしまう。


「……って、さっきから何をイチャコラしてんだ~!」


「そうよ、2人だけズルいわ。この私を差し置いて!」


 他の2人がご立腹な様子で叫ぶ。


「ち、違うよ。僕はただ、和沙ちゃんを助けるために……」


「とか言って、本当はエロいことが目的だったんだろ~?」


「真尋……悪い子には、お仕置きよ? ちょっとこっちに来なさい」


「ひ、ひいいいいいいぃ~!?」


 僕が怯える一方で……


「……これで、1歩リードです」


 和沙ちゃんが、何かこそっと囁いたような気がした。







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