第22話 もうすぐ夏休み♪

 気温がグングンと上がり、セミの鳴き声が聞こえて来る。


 段々と夏休みが近付いて来た。


 そんな今日この頃、僕の周囲で変化が起きていた。


 それはあの3人が、僕の家にあまり溜まらなくなったこと。


 何やらここしばらくは、放課後になると3人で仲良くどこかに行く。


 少し前までは、ギスギスしていたのに(自分で言うのもなんだけど僕のせいで)。


 そんな彼女たちの姿を見て、クラスの男子たちはフィーバしている訳で。


 僕としては正直ちょっと寂しく思いつつも、久しぶりに自由な時間がたくさん出来て、ちょっとホッとしている。


 幸か不幸か、僕は絶倫体質であり、体では彼女たちの欲求に応えてあげることが出来ていた。


 しかし、心はすり減っていたので(僕ごときがハーレムの主だなんて申し訳ないという気持ちも相まって)。


「はぁ~……」


 学校が終わって自宅に戻ると、僕はソファーにどっかりと身を沈めた。


 タイマーでクーラーを効かせておいたので、すっかり涼しい空間となっている。


「ふはぁ~……」


 アイスでも食べようかな?


 けど、動くのが面倒だし、このままでも良いかな~。


「ほげええぇ~……」


 あまりにもリラックスし過ぎるせいで、未だかつてない声が漏れてしまう。


 それでも構わない。


 いま僕は、ようやくこの家の主として、堂々とまったりタイムを過ごすことが出来ている。


 ピンポーン。


 おや? 何やらチャイムの音が。


 でも、どうせ何かの勧誘だろうから、居留守を使っちゃおうか。


 この至極の時を、誰にも邪魔されたくないし。


 無視するに限る……


 ピンポーン。


 また鳴っている。


 けど、出ない。


 ピンポーン。


 またまたなっている。


 けど、出ない。


 そろそろ、あきらめてくれるだろうと思ったけど……


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!


 えぇ~、めっちゃ連打されてんだけど!?


「こらー、まーくん! 早く開けろよ~!」


「真尋ぉ~、聞こえているんでしょ~?」


「真尋くぅ~ん」


 ……空耳だと思いたい。


 けど、すっかり聞き馴染んだ彼女たちの声が、しかと聞こえている。


 僕はソファーからずり落ちると、プルプル這いつくばってから、立ち上がる。


よろめいたまま玄関へと向かった。


 ピンポン連打が響く中、恐る恐るドアを開いた。


「こらー、警察だぞ~!」


「……むしろ、こっちが警察に突き出すよ?」


 僕はぬっと顔を出して言う。


「おっ、まーくん出て来た!」


 ゆかりちゃんがピョンと嬉しそうに飛び跳ねる。


 ご自慢の巨乳がブルルン!と激しく主張して来た。


「真尋、この私を待たせるなんて、良い度胸じゃない?」


 麗美ちゃんが相変わらず挑発的な上から目線で言って来る。


「ごめんなさい、急にお邪魔しちゃって」


 和沙ちゃんは、相変わらず控えめで、他の2人よりは優しい。


「いや、あの……いきなりどうしたの? 最近めっきり来なくなったから……」


「寂しかったっしょ?」


「いや、まあ、少しだけ……でも、それ以上にリラックス出来ていたというか……」


「真尋、立ち話も何だから早く中に入れてちょうだい」


「そうだよ~。いつも、あたし達の中に入って来てばっかりだしさ~」


「分かったから、家の前でエグい下ネタ言わないで」


「お邪魔します」


 こうして、久しぶりに3人の進撃を許してしまう。


「わぁ~い、涼しいや~。まーくん、冷たいジュースちょうだい!」


「私はアイスティーね」


「じゃあ、わたしはアイスコーヒーで」


「はいはい……」


 せっかくのリラックスタイムが強制終了したことで、僕のテンションはダダ下がりだった。


 クラスの男子たちにそんなこと言ったら、ボコボコにされるだろうけど……


「……お待たせしました」


 僕は3人様にご所望の品を提供する。


「わーい!」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


 3人は各々、喉の渇きを潤した後。


「まーくん、海に行こうよ!」


「へっ? い、いきなり、どうしたの?」


「ふふふ、実は計画を練っていたの。もうすぐ夏休みでしょ?」


「そ、そうだけど……」


「安心して下さい。ちゃんと宿題もやるプランを盛り込んでいるので」


「ちょ、ちょっと待ってくれる。落ち着いて、1から話してもらえるとありがたいかなって」


「落ち着くのは、まーくんの方でしょ~? 何なら、1発抜いとく?」


「いや、良いから」


「私から説明するわね」


 麗美ちゃんが軽く咳払いをした。


「まず、ここしばらく3人で真尋の家に来なかったのは、ゆかりと和沙も一緒になって、モデルの仕事、というか2人に関してはバイトをしてもらっていたから」


「な、何でまた?」


「夏休みに遊ぶ資金を貯めるためよ。あと、水着を買うため」


「み、水着……ですか?」


「もう、3人それぞれが飛び切り可愛い水着を買っているから。楽しみにしていてね」


「鼻血を噴き出すなよ~?」


「恥ずかしいですけどね……」


 三者三様の表情で言われる。


「も、もちろん、君たちと遊ぶのは良いんだけど……さすがに、ずっとは無理だよ?」


「「「ジーッ……」」」


「いや、そんな目で見られても……」


「「「ジーッ……」」」


「………………」


 どうやら、この夏に僕は死ぬかもしれない。







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