第12話 下品で大きいこと

 おっぱい。


 大なり小なりあれど、やはりそれは男を魅了してやまない。


 つい最近まで童貞野郎で。


 今は麗美ちゃんとエッチしまくり(というか、搾り取られている)な僕だけど。


 まだまだ、童貞心は抜け切っていない訳で。


 そんなウブな僕にとって、情けないことに、やはり……



 ぷるるん♪


 たぷぷん♪



 ……この破壊力には、あらがえない。


「ねえ、まーくん。右のおっぱいと、左のおっぱい、どっちから揉む? それとも、両方一気に揉んじゃう?」


「いや、えっと……ま、まずは、周りから……とか?」


「やん、焦らしプレイ? ゾクゾクしちゃう。あたし、かれぴとエッチする時も、まずは周りから攻めさせているんだ」


「そ、そうなんですか……」


「って、ごめん。今はまーくんと嫌らしいことをするのに、他の男の話をしちゃって」


「というか、やっぱりこれは、前島さんの彼氏に悪い気が……」


「もう、じれったいな~!」


 僕は右手首を掴まれた。


 そのまま……


 むんず。


 ぽにゅっ。


「あっ!」


「あんっ♡」


 とうとう、前島さんの巨乳に触れてしまった。


 いや、ちょっと何コレ、すごいんだけど。


 麗美ちゃんも決して小さくない、むしろDカップで大きい方なのに……


「ちな、これFカップあるから……あれ、Gだったかな?」


 す、すげえ……


 2つカップ数が違うだけで、こんなにも世界が違うのか。


 でもボクシングだって、2キロ体重が違うだけで、全然世界が違うらしいし……って、何の話だよ。


「ほれほれ、まーくん。ご自慢のテクで、あたしをヒィヒィ言わせてみな~?」


 前島さんは露骨ろこつに挑発をして来る。


「ヒ、ヒィヒィって……」


 そんなこと言われても……


 とりあえずまあ、やるしかないのか。


 僕は開き直って、前島さんの胸を揉んだ。


「んっ……もっと、強く」


「こ、これくらい?」


 ぎゅむっ。


「んあっ!……も、もっと!」


「これくらい?」


 ぎゅむむっ!


「んくぅ~!……も、もっと強く! ちぎれるくらいに!」


「ち、ちぎれるって……」


「良いから、早く!」


 前島さんの妙な迫力に押されて僕は……


「……こ、こんな感じですかぁ~!?」


 ぎゅむむううううううぅ~!


「――んっはああああああああああああああぁん! おっぱいちぎれちゃうよおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」


 メッチャでっかい声で叫ばれた。


 この子、体は小さいのに、乳も声もデカすぎだろ。


「ご、ごめん、やりすぎた?」


「はぁ、はぁ……ううん、良い感じ。まーくん、意外とSの才能がある?」


「いや、ていうか、前島さんって……」


「ゆかりって呼んで。麗美のことも、名前で呼んでいるんでしょ?」


「じゃ、じゃあ……ゆかりちゃん」


「はああああああああぁイッ(ピンポンパンポ~ン♪)」


 閑話休題。


「じゃあ、まーくん。もう片方のおっぱいも揉んじゃおっか♪」


「いや、そんな笑顔で言われても」


「ほれ、つべこべ言わない!」


 また強引に手を握られ、むんず、と。


「んッ……まーくん、チビのくせに、けっこう握力あんじゃん♪ 男らしいぞ♡」


「ど、どうも」


 ちょっとだけ、褒められて嬉しくなってしまう。


 前島さん……ゆかりちゃんって、そういうの上手そうだよな。


 何かキャバ嬢みたいだな。


「じゃあ、あたしの掛け声に合わせて、揉んでみよっか」


「か、掛け声?」


「はい、ワンツー! ワンツー!」


 って、何のコーチだよ。


「こら、手が休んでいるぞ!」


「は、はい、コーチ!」


「誰がコーチやねん!」


 怒られた。


「はい、ワンツー!」


 もみみッ。


「んくッ……い、良い揉みしてんじゃないか」


「あ、あのさ、いつも彼氏さんともこんなノリなの?」


「ううん、かれぴにはもっと甘えるようにしているよ」


「で、ですよね~」


「今はまだ童貞臭いまーくんを鍛えてあげているの。ほら、ワンツー! ワンツー!」


 ええい、もうヤケだ!


「とりゃッ! とりゃッ!」


 もみみッ! もみみッ!


「はぁんッ♡ あぁんッ♡」


 その後も、僕はゆかりちゃんにリードされる形で、彼女の胸を揉み続けた。


「はぁ、ふぅ、はぁ、はぁ……」


 いつの間にか、お互いに良い汗をかいていた。


「こ、これくらいで満足してもらえたかな?」


「うん、そうだね……」


 すると、なぜかゆかりちゃんは、おもむろに制服のボタンを外し始めた。


「えっ? ゆ、ゆかりちゃん……」


「にひッ」


 いや、にひッ、じゃなくて……


 そして、あれよ、あれよと言う間に……


 ……たっぷん、と。


「んっ、ブラ外した反動で、メッチャおっぱい揺れた」


 上半身が裸の状態になっていた。


 ご自慢のおっぱい様が……!


 当然、僕は速攻で目を逸らす。


「ゆ、ゆかりちゃん! それはさすがにダメだ!」


「え~? 何がダメなの~?」


「き、君には彼氏がいて、僕にもか、彼女がいて……」


「……うん、そうだよね」


 ゆかりちゃんがしおらしい声をだす。


「ごめんね、まーくん。あたし、いつにないシチュでちょっと興奮しちゃった」


「あ、いや、分かってくれれば良いんだ」


「じゃあ、今から着替え直すから、ちょっとそのままでいてくれる?」


「りょ、了解だよ」


 僕は彼女に背を向けたままで言う。


「……なーんて言うと思ったかぁ!」


 ドーン!


 バイン!!


「はぐッ!?」


 あまりの衝撃にソファーから転げ落ちた僕は、床に強く鼻を打ちつけた。


「……ぬおおおぉ~!?」


 その場で悶えてしまう。


「やだ、大変! まーくんのお鼻を癒してあげないと!」


 次の瞬間、僕は抱き起こされると……


 むにゅっ。


「……むぐっ!?」


 息を失った。


 こ、呼吸が……


「どうでちゅか~? あたちのおっぱいは~?」


 こ、これは……まるで赤子……


「むぐぐ! むぐぐ!」


 うっかりそのプレイにおちいりそうになったけど。


 僕はギリギリで人としての尊厳を思い出し、精一杯の力で巨乳さんを押し返す。


「……ぷはっ!」


 ブルルン!


「あんっ」


 ゆかりちゃんは尻もちをついた。


「あ、ご、ごめん」


「いたた……もう、まーくんの照れ屋さん♡」


「いや、ていうか、軽く死にかけたんだけど……」


「てか、このままパコッちゃう?」


「はっ? パコッ……」


「本番エッチ、しちゃう?」


「いや、えっと……ダ、ダメでしょ、それは」


「とか言いつつ、今ちょっと迷ったでしょ?」


 そう言って、ゆかりちゃんはカバンを開けた。


「ジャーン!」


「な、何で学生カバンの中に……」


「だって、制服のままパコりたいじゃん♪」


「わ、分からないけど……」


「んじゃ、童貞くんを筆◯◯しするよ~♪」


「も、もう童貞じゃないんですけど……」


「ノンノン、心のお皮をむきむきします♡」


 も、もう言っていることがメチャクチャだ……


「さあ、さあさあ、どうする?」


 ど、どうするたって……



 ピンポーン。



 ハッとした。


 僕は身動きが取れないまま、玄関の方に顔を向ける。


 ま、まさか……


 ブブブ。


 スマホが震えた。


 その画面に表示されているのは、麗美ちゃんの名前だった。


「わ~お♡ これはまた、何と言うタイミング。てことは、今そこに麗美がいんのか~♪」


 この危機的な状況に際して、なぜかゆかりちゃんは楽しげだ。


「わ、笑っている場合じゃないでしょ!」


「てか、電話に出なくても良いの?」


 言われて、僕はまた震えるスマホを見た。


 僕の方が震えたい気持ちだ。


 仕方なく、通話ボタンを押す。


「……もしもし」


『……あっ、真尋。ごめんね、急に』


「い、いや、良いんだけど……」


『あの、いま真尋の家の前にいるんだけど……上がっても良いかな?』


「え、えっと……」


『というか、今ってお家にいる? もしかして、出かけていたりとか……』


「そ、それは……」


 くそ、何て答えるべきなんだ……


 その時、ふと僕の視界の端っこで、ゆかりちゃんがニヤリと笑った。


「――んっはああああああああああああああああぁん!」


 そして、めっちゃ大きな声で叫んだ。


 ちなみに、僕は何もしていない。


「えっ!?」


『……えっ?』


 スピーカー越しに、麗美ちゃんの声のトーンが下がる。


『ま、真尋? いま、女の声が……えっ?』


「い、いや、これは……ちょ、ちょっと、ゆかりちゃん!」


 僕が声を絞って必死に叫んで止めようとするけど……


「あぁ~ん! 真尋って童貞を卒業したばかりのくせに。まだ心は童貞のままなのに……しゅごいよおおおおおおおおおおおおおおぉ!」


「わあああああああああああああああああああぁ!」


 絶叫する僕たち2人。


 一方……


『……真尋? どういうこと?』


 電話の向こうで、麗美ちゃんはどこまでも静かな声音だった。


 それがマジで怖すぎる。


『……開けて?』


「いや、その……」


『……開けて?』


「……少々お待ち下さい」


 僕は立ち上がる。


「あたしも行こうか?」


「ゆかりちゃん、とりあえず服を着てくれ!」


「え~? 面倒くさいな~」


「良いから、早く!」


「ほ~い」


 投げやりな返事をされてしまう。


 僕はゲンナリしながら、玄関へと向かう。


 そのドアが何よりも重く感じた。


 ていうか、既に隙間からゾクゾクするようなオーラが染み込んでいて……


 ぎいいぃ……


「…………」


 無言で佇む麗美ちゃんがいた。


「……あ、あの」


 僕が何か言おうとすると、


「この、浮気者」


「はぐッ!?」


 一瞬にして言葉のナイフに刺された。


「お、修羅場? 修羅場なの!?」


 そして、全く空気を読めない、というか読まないゆかりちゃんが背後からやって来た。


「……あら、ゆかり。そこで何をしているの?」


「何っていつも通り、まーくんのお家にお邪魔しているだけだよ?」


「ふぅ~ん? いつも通り……ねえ? すごく下品で大きな声が響いていたんだけど。あなたのおっぱいくらい、下品で大きな、ね」


「あらま~、麗美さんってば~。もしかして、嫉妬ですか~? ぷくく」


 プチリ。


「……話をしましょう。朝までかかっても構わないわよ」


「おっ、朝まで生ハ(ピンポンパンポ~ン♪)」


 とりあえず、まあ……


「真尋、良いわよね?」


 笑顔で刺される。


「……イエス、マム」


 あまりの恐怖に、なぜか軍隊式の返事をしてしまった。







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