第9話 大好き

 柔らかな肌触りと吐息。


 それを間近で感じで、心拍数がドンドン上がっている。


「真尋……思い切り抱き締めて?」


 市野沢さんは、すがるような目で僕を見ていた。


 タオルを巻いただけの、あられもない姿のままで。


「……市野沢さん」


 いくら彼女が彼氏と別れたとはいえ。


 それでも、いきなりそんな関係になってしまうなんて……


「私って、魅力がないかな?」


「そ、そんなことはないよ。むしろ、僕にはもったいないくらいで……」


「だったら、遠慮しないで……」


「いや、でも……その、避妊具と言いますか……」


「あるよ」


 そう言って、市野沢さんは自分のバッグを引き寄せると、そこから鮮やかな柄の箱を取り出す。


 ゴクリ、と息を呑んだ。


「もし、してくれるなら、これを受け取って?」


 僕はその小さな正方形の包みを凝視しながら、ひどく葛藤し、また吐息を乱していた。


 もちろん、僕だって男だから性欲はあるし、童貞は卒業したい。


 けど、今こんな風に弱っている彼女を抱いてしまうだなんて……


「……真尋、好きなの」


 切実な瞳に訴えられた。


 僕の視界が、ぐらりと揺らぐ。


 理性が崩れ去った。




      ◇




「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」」


 2人でソファーにもたれながら、呼吸を弾ませていた。


 握り締めた手から、彼女の汗ばんだ体温が伝わって来る。


 僕は今、本当に市野沢さんと……


「……びっくりした」


「えっ? あ、あまりにもショボすぎて?」


 所詮、僕は童貞だから……


「あなた、自覚ないの?」


「あ、あるよ。僕が童貞でへっぽこ野郎だってことくらい……」


 まあ、正確にはもう童貞じゃないけど。


「違うわよ、むしろ逆」


「えっ?」


「真尋って、見た目に反して……すごく立派だったわ。陸斗……元カレよりもすごくおっきかった」


「そ、そうなの?」


「お友達に言われたことない?」


「いや、友達はいなかったから……今も昔も」


「そう……まあ、テク自体はまだまだだけど。でも、優しくする感じがすごく気持ち良かったし」


「そ、それは……良かった……のかな?」


 ふと窓の方を見ると、いつの間にか空が晴れていた。


「ていうか、カーテン開けっ放しでしちゃった」


「うふふ、誰かに見られちゃったかもね。私、真尋の上ですごく叫んじゃったし」


「た、確かに、あれはすごかった……普段の市野沢さんからは、想像できないくらいに……」


「こら、恥ずかしいことを思い出さないの」


 軽くほっぺをつねられた。


「ご、ごめんなひゃい」


「くす、可愛いわね、真尋は」


 そして、キスをされた。


 エッチの最中もいっぱいキスをされた。


「ねえ、もう1回しちゃう?」


 市野沢さんは、髪を耳にかけながら言う。


「いや、でも……いきなり、連続でなんて……」


「……とか言いつつ、もう元気になってる♡」


「えっ?……あっ」


 僕は自分の股間に目を向けて、少し驚く。


 というか、恥ずかしい……


「えいっ」


「わっ」


 ソファーの上に押し倒された。


「これから、私がみっちり指導してあげるから。今度は、真尋の方から押し倒してね?」


「み、みっちり指導?」


「そうよ。だって、あなたはもう、私の彼氏なんだから」


「か、彼氏!? 僕が、市野沢さんの!?」


麗美れいみって呼んで」


 彼女は頬を膨らませて言う。


「れ、麗美……ちゃん」


「大好き、真尋♡」


 また、口同士で深くキスをされる。


 僕はその後、彼女に精気を吸い尽された。







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