第2話 ザ・溜まり場

 さて、我が家の玄関口を開きまして、


「おっじゃまっしま~す♪」


「お邪魔するわね」


「お邪魔します」


 迎え入れるは、3人のお姫さま、三大美女様たち。


「ど、どうぞ~……」


 僕は半笑いで、為す術なく彼女たちを受け入れる他ない。


 彼女たちにとって、ここは他人の家にはずだが、遠慮なしに廊下を突き進んで、


「とりゃ~っ!」


 鞄を投げ捨て、ソファーにダイブした。


 まあ、それをしたのはギャル子の前島さんだけで。


 モデル女の市野沢さんと、優等生の天音さんは、ちゃんと丁寧に鞄をおいて、同じくソファーに座ったり、テーブルの前に座ったりする。


 そして……


「ねえねえ、まーくん。お腹すいたぁ」


「真尋、ちょっと足を揉んでちょうだい」


「真尋くん、何か飲み物をお願いします」


 お姫様たちは、遠慮なく僕に言ってのけた。


「えっと……ちょ、ちょっと待ってくれる?」


 僕は鞄を下ろして手洗いうがいををする。


「あの、みんなも手洗いをうがいをした方が……」


「え~、面倒くさいよ~!」


「でも、それは大切なことね」


「やりましょうか」


 駄々をこねる前島さん。


 一方で、市野沢さんと天音さんは立ち上がる。


「真尋、洗面台使うわよ」


「あ、うん」


「お借りします」


「あ、はい」


 そして、前島さんが勝手にテレビを付けてケラケラ笑い、他の2人が手洗いうがいをしている間に、僕はお菓子とジュースを用意する。


「はい、前島さん」


「わーい!」


 彼女は嬉しそうな顔で、クッキーを頬張る。


「クッキーを食べて渇いたお口をジュースで一気に濡らす……たはぁ~!」


 まるで仕事終わりにつまみとビールをたしなむおっさんみたいだ。


「あら、ゆかり。もう勝手に始めているの?」


「私もジュースをいただきますね」


「あ、うん」


 他の2人も戻って来た。


「じゃあ、真尋。約束通り、足を揉んでちょうだい」


 市野沢さんはソファーに座ると、長くきれいなあしを見せつけて来た。


 太ももからひざ、ふくらはぎにかけて、どこもほっそりしていて、きれいだ。


「あ、あの」


「何よ、嫌なの?」


「嫌というか……僕なんかが触っても、良いのかな?」


「良いのよ、気にしないでちょうだい」


「市野沢さん……」


「だって、別に真尋のこと、男として見てないし」


 スッパリ斬られた。


「アハハ! それは同感! あたしもだし~!」


「同じく、わたしも」


 前島さんはお腹を抱えて笑い、天音さんはメガネを押し上げて言う。


「だって、私たちは3人とも、彼氏がいる訳だし」


 そう、これなので。


 2年生に進級して同じクラスになってから、彼女たちにひょんなことから僕の現状を知られて。


 半ば強引に家にお邪魔されて。


 そのまま、彼女たちの溜まり場と化した。


 学校から徒歩5分圏内にあり。


 親は海外赴任でおらず。


 いるのは、気弱で冴えなくぎょしやすい、童貞野郎の僕だけ。


 だから、彼女たちは目を付けて、ここで思い思いに過ごしていらっしゃる。


 例えそんな召使い的な扱いだとしても、こんな美少女たちとお近づきになれるんだから、良いじゃんと言われるかもしれない。


 けど、彼女たちはみんな彼氏持ちだ。


 しかも……


「つーか、この前かれぴとエッチしたんだけど、すぐにゴムが切れちゃった~」


「ゆかりは発情しすぎなのよ。その点、私はちゃんと回数をコントロールしているわよ」


「さすが、モデルの麗美さん。自己管理は抜群だね。そういや、和沙たんは?」


「私はそんなに、エッチに興味がないので」


 天音さんは、勉強ノートを広げてそこに視線を落としながら言う。


「そっか。この中で唯一、まだ処女なんだっけ」


 この始末である。


 彼氏持ちで非処女。


 天音さんだけは、まだ処女みたいだけど。


 ちなみに、その彼氏さん達はみんな僕よりもずっとイケメンで高スペックらしい。


 何だかやるせない……


「ちょっと、真尋。ボーっとしてないで、早く揉んでよ」


「あ、はい」


「よっ、女王様ぁ~!」


「貴族階級ですね」


「ちょっと、やめてよ2人とも」


 楽しく談笑する3人。


 そして、コキ使われる召使いの僕。


「えっと、太ももは触らない方が良いよね?」


「良いわよ、別に。けど、スカートの中に手を入れたら、怒るわよ?」


「は、はい」


 美人に威圧されると怖いなぁ。


 僕は軽く震えながら、市野沢さんの脚を揉み始める。


「んっ……あっ……」


「ちょっと、麗美。あんたエッチな声を出してんじゃないわよ~」


「別に違うから。ただ、真尋が思った以上に上手なのよ」


「てか、彼氏さんにもやってもらってるんでしょ? 同じモデルの」


「そう。まあ、彼も下手じゃないけど……んっ、くっ」


 麗美さんが、わずかにビクビクとした。


「真尋、ちょっとストップ」


「えっ?」


「あまり連続でされると、敏感になっちゃうから」


「あ、ごめん」


「ゆっくりと、下の方に下りて行って。特にふくらはぎの所がキテいるから」


「わ、分かったよ」


 僕は言われた通りにする。


「んっ……そう、そうやって、ふくらはぎ、ちょっと凝っている所があるでしょ?」


「あ、裏側の方が……」


「ちょっと、揉みほぐしてくれる?」


「い、良いの?」


「私が良いって言っているんだから、いちいち聞かないで」


「あ、すみません」


「よっ、パワハラ女王!」


「ゆかり、黙ってなさい」


「へ~い」


「ふむ、この問題はこう解くのですね」


 そして、僕はゴクリと息を呑み、市野沢さんのふくらはぎに触れた。


 ふわっと、包み込んであげたくなるくらい、繊細で美しいおみ脚だ。


「で、では、行きます……」


「はい、どうぞ」


 僕はなめらかなそのふくらはぎに触れて、少し固い部分を見つめた。


 そして、言われた通りに、そこをコリッと……


「んッ……あッ、あ~ッ! そ、そこそこ……き、効くぅ~!」


「うわ、麗美ってばエッロ! えーぶいかよ~!」


「そ、そんなことないわ……んあああああああああああぁん!」


 市野沢さんはのけぞって天井を仰ぎ、高らかに嬌声きょうせいを響かせた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 天井を向いたまま、荒く吐息を漏らしている。


「あ、あの、市野沢さん……大丈夫?」


 僕が問いかけると、息を切らせながら、


「お、お水をちょうだい……」


「あ、ジュースは……」


「太っちゃうから、お水」


「は、はいはい」


 僕は慌てて立ち上がる。


「水道水じゃなくて、ミネラルウォーターね」


「えっと……あ、ありました」


「ちなみに、氷もいらないから」


「りょ、了解です」


 僕はまさしく女王様に命じられる召使いよろしく、コップに水を注いで彼女の下に運ぶ。


「ど、どうぞ」


「ありがと」


 受け取った市野沢さんは、コクリと飲む。


 白く細いのどが小さく動いた。


「……ぷはっ。真尋」


「あ、はい」


「あなたって、まだ童貞よね?」


「そ、そうだけど……」


「え、何々? まさか、筆◯◯しすんの?」


「しないわよ、バカ」


「わたしは別にしてもらって構いませんよ?」


「だから、しないって。私は自分のグレードに見合う男としか、エッチしないの」


「で、ですよね~……あはは」


 僕は苦笑する。


「でも、あなたのマッサージテクだけは、認めてあげるわ」


「そ、そうですか」


「え~、良いな~。ねえ、まーくん。あたしも揉んで~」


「えっと、足を?」


「ううん、おっぱいを」


「へっ!?」


「ほれほれ~、揉みたいだろ~?」


 前島さんは、自分の豊満な胸を下から持ち上げ、揺らしながら僕にアピールして来る。


 な、何か別の生き物みたいだな……


「ああ、でもそれも良いかもね。あなたみたいに胸が大きいと、胸を支える上の筋肉が凝っているだろうから。リンパの流れを良くする意味でも、揉んでもらったら?」


「だよね~♪」


「いや、その……さすがに、それは童貞の僕には荷が重くて……」


 ボソボソと、小声になってしまう。


 すると……


「……ぷひゃッ! 自分で童貞って言うとか、まーくんウケんだけど~!」


 メッチャ笑われた。


「確かに、面白いわね」


 市野沢さんも、


「まあ、童貞に罪はありませんから」


 天音さんも、


「……あはは」


 こんな感じで、僕の日常は彼女たちに浸食されつつある。







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