冴えない僕の家に可愛くイケてる女子たちがやって来て溜まり場にする。

三葉 空

第1話 クラスの三大美女

 両親が海外出張でいなくなって、早1年。


 慣れない家事の連続にも、さすがに体が追い付いている。


 朝は早起きをして、お弁当を用意する。


 そして、朝食も。


 食べ終わった後は、ちゃんと自分で洗い物をして。


 自分で戸締りを確認して。


「行って来ます」


 誰にともなく言って、僕は家を出た。


 綿貫真尋わたぬきまひろ、それが僕の名前だ。


 名前は中々にイケているが、僕自身はすこぶる冴えない男子だ。


 チビで、メガネで、おまけに童貞。


 高校2年生ともなれば、周りには経験者がチラホラいる。


 とはいえ、昨今は童貞率が高くなっているから、童貞に関してはそこまで恥ではなく。


 むしろ、ある種のプラス査定なのかもしれないけど。


 どちらにせよ、僕が冴えない奴であることに変わりはない。


 両親が高給取りだから、広い庭付きの一戸建てに住んでいる訳だけど。


 ちなみに僕が通う池戸いけど高校は、徒歩5分圏内にある。


 本当に僕自身が冴えない分、周りの環境には恵まれている。


 校門をくぐり、玄関口から入り、下駄箱で履き替える。


 階段を上がり、2階にある2年A組の教室に入る。


「でさ~!」


「キャハハ!」


「うっせーよ、バカ!」


 朝から賑やかな声を響かせている。


 そんなリア充の声が大きいから、その割合が多いように思われがちだけど。


 ちゃんと僕みたいに冴えない連中もいるから、ちょっとだけ安心する。


 ただ、我が2年A組は、他のクラスから注目される理由があった。


 それは……


「ゆかり~、あんた何でちっこいくせに、胸はそんなデカいんだよ~!」


「麗美って、本当にスタイルが良いよね~、大人びているし~!」


「和沙ちゃんって、きれいな黒髪だよね~、頭も良いしすご~い!」


 三大美女と呼ばれる、素晴らしき女子たちがいるからだ。


 このクラス、ひいては学年でもトップクラスの逸材。


 その1、小柄ながらも巨乳のギャル娘、前島まえしまゆかり。


 金髪で、短くボリュームのあるツインテ。


 モジャツインテとでも言おうかな?


 性格は明るく、活発だ。


 その2、背の高いモデル女子、市野沢麗美いちのさわれいみ


 栗色のロングヘアーで大人びた雰囲気。


 女子高生ながら、プロのモデルをしているほど。


 前島さんとはタイプが違うが、こちらも社交的。


 その3、黒髪メガネの優等生、天音和沙あまねかずさ


 黒髪のロングヘアーはどこまでも清楚で可憐。


 メガネもとてもよく似合っており、外したその素顔も可愛いと評判。


 成績優秀で、学年でもトップクラスの実力。


 前の2人に比べて大人しめだが、誰もが認めるイケてる女子。


 そして、何とこの3人は……


「麗美ぃ~、和沙ぁ~、今日も一緒にお昼食べようね~!」


「良いけど、また私の前でドカ食いしないでよ。今、ダイエット中なんだから」


「大変ですね、モデルさんは」


 仲良し3人組なのだ。


 この三大美女が揃った時の絵面が半端ないと、男女問わずに大騒ぎだ。


「いや~、やっぱり良いよな~、三大美女たち」


「お前、誰が好みだよ?」


「俺はゆかり派」


「俺は麗美派」


「俺は和沙ちゃん派だなぁ」


 やいのやいのと言い合って盛り上がる男子たち。


 一方、僕は自分の席に黙って座り、ひっそりと息を潜めていた。


 恐らく、まだ誰も知らないだろうけど……


 僕はみんなが憧れてまない、あの三大美女たちと大きな接点があるのだ。




      ◇




 放課後になると、僕は足早に教室を出た。


 スタスタスタ、と廊下を歩いて行く。


 何事もなく下駄箱で履き替え、玄関を出て、校門をくぐった時。


 僕はホッとした。


「ふぅ、今日は大丈夫かな……」


 とひと息を吐いた時。


「――ま~く~ん!」


 背後から思い切り抱き付かれた。


 至極のボリューミー&柔らかさを誇る物体が押し付けられる。


「はうっ!?」


 僕はあまり衝撃に硬直した。


「どうして~、そんなに~、早く行っちゃうのかな~?」


 ギギギ、と顔を向けると、間近で小悪魔みたいに笑う女子がいた。


「ちょっと、ゆかり。そんな風に脅したら、可哀想じゃない」


「そうですよ」


 他の女子2人もやって来る。


 というか、彼女たちは……


「……前島さん、市野沢さん、天音さん……な、何か用かな?」


 僕は冷や汗を垂らしながら、彼女たちに問いかける。


「決まってんでしょ? 今日もこれから……お楽しみターイム♪」


 前島さんが、また僕の間近で、小悪魔スマイルを浮かべる。


「うふふ」


「お世話になります」


 市野沢さんも微笑み、天音さんは静かに佇んでいる。


「……あぁ」


 僕は観念するしかなかった。







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