1-2

 夕食を彩る話になればいい、と思ってオレは朝の出来事を話した。

 元々の原因は、思い返せば九時間前のことになる。

「ほう、革命団に喧嘩売ったってやつか!」

 隊長は乗り気でいたが、エリスの咳払いで身を引く。他に居る面子は、オレと澪にエリス、そして隊長。たった四人しかいないのに、長さ十四メートルもあるテーブルに着いている。エリスは上座呼ばれる特等席に居て、彼女から見て左にオレ、正面に隊長がいて右隣に澪がいる。

「リオン。その話もよろしいのですが、任務はどうなさいました?」

 同じような顔と髪型をしたメイドが料理を運んできた。オレは彼女らを一瞥し、口を開く。

「あぁ大したことはなかっ……大したことはありませんでした。それほど大きな魔物も見られず、比較的おとなしく害をなさない魔物ばかりで。追い払っておきました」

「ありがとう。特に異変は無い、ということね」

 思わず砕けた口調で話すところだった。隊長が顔を隠し、笑っている。澪はというと苦笑を浮かべていた。一方メイドたちは無表情でスープを差し出す。

「オニオンスープ、ですわね?」

 エリスの質問にメガネをかけているメイドが「はい」と頷いた。彼女もまた表情が無く、のっぺりとした顔で食材の説明をしている。その隙に隊長は皿を掴み、一口でスープを飲み干した。

「おかわり!」

「……はしたないです、隊長。止めてください」

「ううむ。どうしてもクセが抜けなくてな」

「豪快でいいじゃないですか。悪くありませんわ。リオンは気にしすぎですよ」

 穏やかな声色でエリスは制すと、メイドを下げさせて銀製のスプーンでスープを掬う。オレも澪も彼女と同じように飲んでゆく。適度な温度で口の中が温まり、ちょうどいい甘さがする。今日のものは辛味が少なめ。なんとなく隊長ががぶ飲みしたくなった理由が分かる。

「それで、話していいか?」

 おかわりを貰った隊長は「話せ話せと」せかす。それに苦笑しつつ、少しずつ思い出しながら語っていった。



 初めに訪れた一区は城下町からやや外れたところにある。治安は少々悪めであるが、このところ事件を聞いたことは無い。

 ポツポツと立っている木造家屋にある煙突からいい匂いが漂っている。きっと菓子でも焼いているのだろう。他にあったものは野菜作りの畑。牛や豚を育てている農家は今日も呑気で、いかに平和か身を持って実感した。

 だが、南西に行くと寂れた大きな教会がある。別に、この国は独自の宗教などもっていない。それどころか宗教は広まっていないのだ。この教会はずっと昔からあったらしい。そこの周りには沢山の墓があり、誰も近づいたりしない。単に墓と教会が怖いからではない。むしろ墓参りに訪れる人はいる。ここにある物は、七年前起きた魔女の災厄による、犠牲者の墓だ。毎日誰かが必ず訪れるところで、むしろ神聖な雰囲気がある。

 じゃあ何が怖い、かというと教会には「黒百合革命団」が住んでいるからだ。黒百合、というのは真っ黒で孤高な雰囲気のある菖蒲を称えた言葉であるらしい。彼が自分で名づけたのではない。エリスが菖蒲を「黒百合みたいね」と発言したことがきっかけである。

 それに対して澪が「菖蒲という花がありますが」と呟いた。プルメリアでは見ない花なので知らないが、紫色の小さな花、だという。まぁ、アイツには黒百合という名がお似合だし違和感はない。

 彼ら革命団は市民に手を出さないのだが、国で禁止されている魔法を使うし、魔法禁止令を撤廃しろとうるさい。

 それで、オレは見回りで教会近く……の墓を見た。荒らされている気配は無く、そのあたりは手入れされているので雑草はない。ただ、革命団リーダーの菖蒲がいたのだ。ある墓に上で立っており、何かを見つめている。

「……おい黒百合」

「ん? なんだ。白薔薇か。朝から貴様の顔を見るなど、今日は運が悪いみたいだな」

「それよりお前、どこに立っているのか分かっているのか?」

 菖蒲は怪訝そうな顔をしたが、オレから目を逸らした。それから背負っている大きな剣に手をかけた。

「誰の墓だろうが関係は無い。そんなこと、興味などないからな。所詮、人間死んだら土になる。もういない人間に構っている暇があるなら、今を優先した方が有意義だ」

 ふわりと菖蒲が下りて、オレに背を向ける。墓には興味が無い、と言いたげな顔をしている。確かに菖蒲からすればどうでもいい墓だろう。しかし、その墓は俺にとってどうでもよくない。

 奴が踏みつけていた墓は、オレのお母さんの墓だ。

「ンのやろぉ!」

 激情に任せたオレは菖蒲目がけ拳を構えた。

 くるりと振り向いた彼は、オレの制裁を避けようとしたが、遅かった。



「――で、オレの拳は菖蒲の腹にドスン! ……っていう事だ」

 まぁ、とエリスは口に手をあてた。

 話が終わると飲み終わった皿を戻しにメイドが動き出す。代わりに取り分け皿が置かれ、中央に数個のパンと、人数分のステーキが置かれた。香ばしいスパイスの残り香がする。

 エリスはパンを取って、ちぎり食べる。少し責める目つきで見て来るのだが、何も言わない。

「ヒュー、やるなぁ」

 一方隊長は面白がっている。器用にナイフを扱って、隊長は肉を切った。

「でもアイツが悪いから……」

「程々にしろよ? リオンはカッとなると周りが見えなくなる。気をつけろ」

 澪に釘を打たれてしまった。はいはい、と促しステーキを一口サイズに切り分ける。サクッとしたいい感触がする。きっと上質な牛の肉だろう。使われている香辛料の配合も上手い。ツンと刺激する香りはほのかに甘い。エリスの好きなローズマリーでも使ったのだろう。それでいて、口に運ぼうとするとペッパーの刺激がする。ゆっくり噛んでゆくと肉そのもののうま味、ハーブの心地よさが口内を彩る。肉自体あまり固くないので簡単に飲み込められる。きっと、この柔らかさなら子供も容易に食べられそうだ。

 こんなうまさを知ってか知らずか、隊長は肉汁を散らしつつ頬張っている。

 もう少し落ち着いて欲しいのだけれど、仕方のない事だ。

「はー。食った食った!」

 余韻を楽しむためか、隊長はパンを手に取る。もちろんエリスのように食べ方ではない。ガブリと猛獣のように、食す。

「いつみても、モルスの食べっぷりは見ていて飽きませんわね」

「いやあれはやりずぎだろ」

「リオンは大人しすぎるだけだ」

 苦言を発した澪は、パンと肉を交互に食べている。既に肉は切り分けられていて、フォークで肉を、片手でパンをいただいていた。

「まぁいいだろ? みんな一緒の食い方だと気持ち悪いし」

 ガハハと笑う隊長は、メイドを呼んでワインを準備させる。ついでに、とオレはオレンジジュースを頼んだ。

「そうかもしれないですが……隊長、今度の女王誕生祭でそのようなマネはしないでくださいよ」

「わーってる!」

 本当に分かっているのだろうか。

 オレが最後の一切れを食べ終わると頼んだ飲物と、デザートのケーキが出される。

「あ、これ……!」

「知っているのか?」

 嬉しげな澪に話を聞くと、老夫婦経営の茶店にあるケーキらしい。確かに、素朴な雰囲気はある。真っ白なクリームの上にはおまけ程度にイチゴが一つ。それ以外飾りは無い。

「私が直々に頼みましたの。あまりにもおいしかったので、つい」

 照れ笑いするエリスだが、きっとその老夫婦は腰を抜かしたのではないだろうか。

「っていうか……また抜け出したのですか?」

「まぁ酷い言いかた。視察ですわ。視察」

 彼女が何時外へ脱走したか考えるのはよそう。ともかく、このケーキを楽むことにする。

[newpage]

 翌日、他の兵士たちとともに朝ごはんを終えた後のこと。謁見の間と呼ばれるだだっ広い広間に全兵士が集められる。オレたち白薔薇は横一列で並ぶ。

 見上げる先には玉座に座るエリスがいる。左右には小じわの目立つ大臣たちとエリスの周りを整える女官が待機。このときのエリスを前にすると、つい怯んでしまう。見えない何かが圧倒するのだ。

 集まった兵を一瞥し、彼女は立ち上がる。

「本日も見回りなどしてほしいのですが、祭事の手伝いをお願いします」

 凛とした声が広まる。体が石のように固まるのが分かる。

「その祭事は城下の方々が決めてくださったもので、私達も手伝いましょう。それで、その祭事なのですが……プルメリア復興祝いのものです」

 おぉ! とざわめきが沸く。そういえば、プルメリアが完全復興して落ち着いたのはここ最近だ。女王としてエリスが立ち上り、最低限の復興がしてから今の白薔薇が出来た。元々はただの精鋭部隊であったことが懐かしい。

「更に付け加えると」

 オレの横にいた隊長がエリスに背を向け、声を張り上げる。

「復興祝いは女王誕生祭も兼ねている」

 先ほどまでのざわめきは、一気に熱を帯びて完成へと変貌した。そして体から力が抜ける。

 エリスは恥ずかしそうに微笑み、顔を赤くしている。

「ええ……復興祭の日、私は十七歳の誕生日を迎えるのです」

 どこからか「ケーキ作らなきゃなぁ!」「でっかい花束も!」などの声がする。それと共に拍手が起きていて、気が付けばオレも手を打って彼女を祝っていた。今思えば、よくエリスを支持して復興をさせたものだ。十歳の女の子に復興が出来るのか。疑った人もいたけれど、エリスは的確な指示を飛ばし、みんなを勇気づけ、誰よりも動いていた。自分達よりも幼くて、しかも女の子があんなに奮闘していて、自分たちは何をやっていたんだろう。そう思う人が増えて、少しずつ国は元に戻って、今に至る。

 玉座の前のエリスは女王から一変し、ただの気品がある女の子になっていた。



 解散後、オレはエリスに呼ばれ彼女の部屋に行く事になった。澪は休みが与えられており自由、隊長は準備に向かっている。

 改めて自分たちは自由気ままだと気づかされた。少人数だから仕方がないのだろうけど。

「エリス?」

 ノックをして扉を開ける、瞬間エリスが抱き着いて来た。柑橘系の香水をつけたのだろう、甘酸っぱい匂いがする。

「リオン、私本当にうれしいの!」

「あぁ、うん、とにかく落ち着けって」

「落ち着いていられない! わざわざ私を祝ってくださるのよ。今までちょっと大きなパーティーだったのに、むしろそれでよかったのに、わざわざお祭りですよ」

 オレから離れ、彼女は無邪気に部屋を駆け回る。

 転んだら危ない。そう声をかけたかったが止めておく。

 こんなにも楽しそうで嬉しそうなエリスは、久しぶりに見る。いや、初めてかもしれない。

「にしても……もうそんなに時間が経つのか」

 オレの呟きに、エリスはハッとなる。それから小さな声で「ごめんなさい」と口にした。オレが気を悪くしたのかと思ったのだろう。

「気にするな。もしあの場にエリスがいなかったら、今頃……」

「……死んでいた?」

「多分、いや。死んでいただろう」

「…………魔女の襲来。あの魔女のせいで私も全て失いましたわ」

「でも焼け野原だった城下町がほぼ元通りになるなんて凄いよな。もっとも、エリスの指揮あってこその話だけれどさ」

 少しして、彼女は柔らかな笑みを浮かべた。けど、まだ何か言いたげである。

 七年前のことは思い出していい気分にならないので、話しを切ろう。過去を悔やむより今を見なくては。ふいに、外が気になった。少しばかり騒がしい。

「とにかく、エリスのおかげで今がある。みんなはそれを感謝している。……もっとも、アイツらは別だけれど」

 もしかしたらと勘がうずく。バルコニーへ行くと、予想通りの光景が目に入る。

「革命団……!」

 追って来たエリスは、城の中庭で喧嘩紛いをする連中に目を細める。

 中庭はとても広く、三区にある市場はまるまる入れるだろう。祭りのメインステージはそこで行われる。部隊準備で忙しい時に革命団は妨害しに来ていた。被害はそこだけだろうか。中庭に通じるホールも荒らされていそうだ。

「リオン」

 雰囲気が、空気が変わる。女王の声を聞いて、オレはすぐさま姿勢を整える。

「兵たちの安全確保をし、革命団を追い払いなさい」

「仰せのままに。我が女王エリス」

 白薔薇の一人として、オレは庭へ走って行った。


 行ってみると、被害はそんなに無かった。幸運なのか兵士たちが作った物は壊されていない。ちょっかいをかけているようだ。唯一の被害は城壁の焦げ跡だけである。掃除すれば綺麗になるだろう。

 黒百合革命団のメンバーだが、何人いるのか確認はとれていない。その場限りの者が多すぎるのだ。でも、リーダーが菖蒲と言う事は変わらない。彼が自分でリーダーと言っていたし。

 今いるのは菖蒲でなく、小柄な少女。最近見ないと思っていたら生きていた。

「あーっ白薔薇のナントカ!」

「いやナントカじゃない。オレはリオンだ」

 思わず冷静なツッコミを入れてしまった。場が一気に緩くなった気がする。

 肩まである赤茶色の髪と、好奇心に溢れた目。 間違いない。アレイだ。

 彼女が羽織っている黒いコートは足元まである。白いブラウスが目立つのだが、最も目を引くものは、チェック模様の赤いスカートから伸びる、鎧で覆われた足だ。日の光を反射する膝当ては見るからに高級感があふれているし傷はない。

 上半身だけ見れば女の子である。

「隙ありだな!」

 と、ヤツは二丁のうち一つの銃――引き金一つで高速の弾を発射する非常に物騒なもの――を向けて撃とうとしてきた。咄嗟に横へ避けるのだが、それはミスだと気づく。オレの後ろは、開けっ放しの扉だ。その向こうには荒らされず綺麗なままのホールがある。そこにはメイドらがせっせと掃除をしているのだ。

 彼女たちに当たったら……!

 着地するなり、腰にあるカバンから護衛用のナイフを引っこ抜いて、ブン投げる。

「避けろ!」

 銃を中心に魔法陣が浮かんでいる。何か仕込んでいる証拠だ。

 ヒッと兵士が腰を抜かしたと同時に、アレイは発砲した。

 奇跡的に弾は投げたナイフに当たった。キィンと金属音が鳴って、ナイフが宙を舞う。それから何事もなかったかのよう地面に突き刺さった。

「あれ、弾入れてたっけ? ……ま、いっか」

「よくねぇ!」

 瞬間、オレの前に無駄に綺麗な黒髪長髪野郎、菖蒲が姿を現した。

「よくやった、アレイ」

 菖蒲の出現に兵士たちは身を震わせる。オレからすれば、アイツらが魔法を使っただけで、怖くも何にもない。もう見慣れてしまったせいだろう。だけど、魔法を恐れる者は多い。災厄の事もあるし、意味が分からないから怖い、という人までいる。

「さっきの弾……」

「ああ。瞬間移動のためのものだが。それがどうした」

 主犯である少女アレイは、オレに銃向けてきた。威嚇のつもりだろう。それにしては、怖くない。彼女は口角をあげている。この状況を楽しんでいるようだ。

「アレイ。撃つな」

 菖蒲に肩までもない赤茶の髪を撫でられ、アレイは不満げに「うー」と鳴いた。

「で」

「ん?」

「何しに来たんだ」

 ナイフを拾い、前からいましたが、と雰囲気を出す菖蒲を睨む。少なからず、オレ以外彼を睨む奴はいた。

「お前は阿呆か。俺らがどうして活動しているのか。知っているだろう」

「いくら言っても魔法の使用は認めない」

 七年前の災害。あの光景がちらつく。

 もし、また魔法で同じことが繰り返されたら……

「お前は今まで何を見てきた」

「……は?」

 瞬間、菖蒲が地面に手のひらをかざす。気味の悪い紫色の魔法陣が、彼の手首を軸として浮かび上がる。魔術に見慣れていない兵士たちは悲鳴を上げだした。

「落ち着け! これはただの脅し――」

「だといいな」

 菖蒲が薄ら笑いを浮かべ、横に居たアレイが後退し周囲を確認した。

 彼が何をしでかすのか。脳内で予想はついていて、それを防ぐ案はある。だが体は動かない。ただ、怖い。七年前が過ぎる。

「魔法があれば生活に困ることは無くなる、それが分からないのか! 火を付けることも、水を出すことも、怪我を治す事も出来るというのに」

 魔法陣が菖蒲の手首を軸に浮かび上がり、手を拳にした。握りつぶすかのような動作だ。

 アレイは空に受かって一発撃つ。射撃音が発動条件なのか。そう考えている間にも兵士は逃げてゆくばかり。いや、逃げてもらった方が安全だ。首を捻ってホールを見やる。メイドたちは姿を消していた。

「聞こえているんだろう、インチキ女王! 何故魔法を使わせない。お前を信じている庶民の思いを受け取れ! 魔法があれば国は発展して、更に栄える。どうしてそれが分からない……!」

 彼の主張は、アレイが空に向けている銃からも発せられていた。正確には銃口から、だろう。うるさいのか響くのか彼女は空いた片手で耳を塞いでいる。器用にもう一つの銃を持ちながら、だ。

 きっと、菖蒲の声は城内に響いているはずだ。ぞうにかして止めなければ。だが、まだ体は動かせられない。動けられるのならば菖蒲の顔を殴ってやりたい。

 だが彼の一人演説は続く。

 どうしようもできない自分が恥ずかしく、惨めだ。

「呑気に祭りを開くことが大切なのか? それは庶民のた――」

 フッと全身から力が抜け、オレはその場で座り込んでしまう。それと同時に菖蒲の演説が途切れる。

「……疲れた。もういいでしょう?」

腕を伸ばしていたアレイは片腕下げ、摩っている。どうやら術が切れたらしい。その中に行動封じの術もあったのだろう。体が自由に動く。

 菖蒲は彼女を叱ることなく、不機嫌そうに別の魔法陣を浮かばせている。

 剣を抜き、それを杖代わりにすることでやっと立てた。全身が痺れている。腕も、足も震えたままだ。このままではアイツらを攻撃する事なんて不可能。

「リオン!」

 振り向くよりも早く、澪が走りながら銀色の物体を投擲した。

 それはオレの頬に当たるか当たらないかで通り過ぎ、菖蒲の腕を狙う。

 案の定アレイの放った銃弾に、それは撃たれた。弾の威力の方が高かったのか、飛び道具はオレの足元に転がってきた。澪が投げたものは、錆びたフォーク。撃たれた箇所であろう、柄の部分はぐにゃりと曲がっている、

 澪はもう一つ持ってきたフォークを投げかけた。しかし、革命団は音もなく消え去ってしまった。

「……っはあぁぁ」

 一気に脱力感と疲れが沸いた。その場で座り込んで肩で息をする。

「リオン、平気か? 兵士やメイドはとっくに避難していて安全だ」

 脱力したオレに、澪は状況を詳しく話してくれた。

 そもそも、彼は城下町でお手伝いをしていたはずだ。もしかして革命団の声を聞いたのだろうか。それで、こっちに来た。

 やっと落ち着いて庭の様子が確認できた。損傷は少なめ。城壁・廊下に小さな焼跡があるぐらいで、椅子や机は無傷だ。

「……不思議だな」

「革命団のことか?」

 ああ、と頷くと澪も同意してくれる。騒ぎが収まったことを確認しに来たのだろう、腰を抜かしていたり逃げ出したりしていた兵士が戻ってくる。

「どうしてアイツらは物を壊さないんだ?」

 革命団は基本、魔法禁止令撤廃の主張をしてくる。それは城の門前でもあるし、今みたいの場内に入り込むことも。しかし物を壊したり人に攻撃したりはしない。

 それが、エリスを苦しめている。

「とにかく……作業を再開しないと、な」

 澪に肩を叩かれ、やるせない気持ちになる。体から痺れは無くなっていて、難なく立ち上がれた。

 兵士たちが不安げな顔で殺到してくる。怪我は無いか、とか。自分達に出来る事を聞いてきてくれる。本当に優秀な兵だ。出来れば、革命団に遭遇したら捕まえてほしいが。

「じゃあ、澪は戻って作業をしてくれ。後のみんなも同じ。で、オレはここに残ろうと」

 言いかけた時、伝令役の若者がヒィヒィと鳴きながらやってくる。全速力で走ったのだろう。

「どうした?」

「そ、それが、じょ、女王様が、リオン様に、いますぐ来い、と」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る