海に落ちた


※書きたいとこだけかいてる。

※新しい創作のblもの(動画のやつ)

※結丹×海花(かいな)

※これもいつか消して本編に組み込む







■□恋に落ちる瞬間なんて誰にも分からないよねって話□■






昔々の話。とある神の愛した娘がこの世界を護るために海にその身を投げたという。娘を好いてしまった海の神が、娘欲しさに海を荒らし、そうして。娘が手に入らぬのならとこの島の住人を人質に取ったという。…まぁ、よくある話だな…なんて、そんな冷めた顔をするなよ。これは大事な昔話なんだ。あ?なんで話をするかって?それは俺達の家に関係する話だからだよ。…さて、続きを話すぞ。どこまで話したっけな…。あぁ、そうだそうだ。住人を人質に取ったってとこからだな。俺達の家に関係するってさっきいっただろ?娘はこの島に移住した夫婦の神に使える巫女…ようは俺達の先祖だな。巫女さんでもあった。だからこそ、娘は二つ返事で海の神に嫁ぐ事を承知した。ただ、これでめでたしとはいかなかった。最初に“とある神が愛した”って言っただろ?そう。娘は海の神とは別にもう一人の神に愛されていた。娘も、その神を心から愛していたという。だから、神は酷く娘に腹を立てた。「私が居るのに、君は私を置いてあやつに嫁ぐのかと」そりゃそうだ。俺だってババアが俺を捨てて他の男に嫁ぐなんて言ったら囲ってやるぞ!?ぐらいには荒ぶ…あ、嘘だって…。お前顔綺麗だからその目付きはやめろ…?すげぇ胸が痛くなる…。あぁ、すまん。話を戻す、戻すから…。んん、まぁ、その神は酷く怒り、悲しみ、今すぐにでも海に身を投げ出そうとする娘を引き留めた。しかし、娘はついぞ神の訴えに首を縦にふることはなかった。何故だと神は悲しんだが、娘は笑ったと言う。優しく、笑ったと言う。「私はこの島も、貴方も愛している。欲張りだから、だから2つを護りたい。私はどう足掻いても、貴方を置いていってしまう。その別れが早いか、遅いかの違いだと思うの。なら、私は貴方達を護るためにこの身を、命を使いたいの」と。自己犠牲は美しいと言うやつはいるけど、置いていかれる側としてはたまったもんじゃないよな。眼の前で好いた女が死ぬなんて俺はごめんだな。そこは神様と同じなんだろうけどな…結局。神は娘の想いに負け、手を離した。娘の幸せそうに微笑む顔と、涙を最後に。二人は陸と海という別々の世界で生きる事になった。神は、娘の為にとこの島。そうそう、夫婦の神が祀られている神社。俺達の家のことだ。この神社にその身を置き、今も島を、この家を護る神となったという。ただ、神を置いていった娘の行為はやっぱり許すことが出来なかった。だから、代償が俺達にまわってきたんだよ。「祭(まつり)」の直系の血筋の奴は娘に似た綺麗な黒い髪と湖のような緑や青の瞳。霊力を持つ。こりゃもう呪いや執着だな。…で、だ。その中でも見目も麗しく、ゾッとするほど美しい青緑の瞳と強い霊力を持つ者が産まれる場合もあるんだが…そう、娘と瓜二つと言われる存在だな。そんな星の下に産まれた子供は娘と同じ名を受け継ぐって言うのが俺達「祭家」に産まれた奴の決まりだ。……ここまで話せば、聡いお前はもう分かるだろ。「海花(かいな)」。そうだよ。


お前はその娘と同じ名前を継いでるんだ。




■□□■□□■□□■




随分と懐かしい夢を見た気がする。こんなときに?そう、こんなときだからだろう。走馬灯って奴だ。手足が重く、意識が遠のいていく。ごぽりと耳元で空気が水圧に耐えられずに弾け、陸へと上がっていく。何でこうなったんだっけ…と視線を腕や足に向ければぼやけた視界の中で黒い無数の蔦?のようなものが巻き付いているのが分かる。そこであぁ。となった。だから、あの話を思い出したのだろう。昔からそうだった。俺達の家系は個人の差はあれど常人よりは霊感なるものが強かった。故に怪異に狙われ、襲われることが多い。祖父の頃よりは凶悪な怪異…攫って娶ったりする…そんな奴らは減ったと言うが、妹達のようにか弱い者は悪戯や脅威の恰好の的となってしまう。俺は運良く自身である程度なら対処できるよう祖父に叩き込まれたから何とか生きてこれた。しかし、妹達は違う。霊感は俺よりも弱いが常人より…祖父と同じくらいしっかりと怪異を黙認できる程には強い。加えてまだ幼く、それらを対処する術を理解できる程の齢には達していなかった。そう、だからだ。今日もそうだった。運が悪かったんだ。深海に住まう悪霊の類が、釣りに来ていた俺達…妹達を狙ってきた。海月のような触手が伸びて、眠そうに目を擦る二花の腕に巻き付こうとしたのを間一髪で防いだ。しかし、その後、これ幸いとばかりに細い触手達が俺に巻き付き、そして海へと引きずり込まれていったのだ。怪異は、霊力の特段高い俺を手に入れたことに満足したのか、陸へと再度触手を伸ばしているようには見えない。よかった、というべきなのか…分からないが。ただ、妹達は無事だろうし、しっかりものの三花がきっと祖父を呼ぶだろう。勝ち気な一花が二花を落ち着かせているだろうし、多分、妹達は大丈夫だ。俺は分からないが。

コポコポと口の端から漏れている酸素に霞みだした視界、取り留めもない思考やまるで第三者から見たような現状の把握。これはそろそろ不味いのだろうと察するしかない。

ゆっくりと落ち始めた瞼に、意識に身を委ね、この怪異の食事になるのが最後かなんて冗談めいた最後を想像する。が、どうやらそれは叶いそうがなかった。ドボンと何かが海に落ちたのが視界の端に見えたからだ。何かは、真っ直ぐにこちらへと向かってくるとすぐに俺の腕を掴む。怪異に対抗するかの様に上へと引き上げようとするも、怪異がそれを許さない。それに気付いた何かが手をゆったりとした動きで水を撫でるように動かせば、今まで頑なに離れようとしなかった怪異達が水を揺らし、断末魔のような甲高い音を鳴らしてドロリと溶けていった。それを見届けると、俺の体は何かにひっぱられ、上へ上へと上がっていった。やがて、落ちた場所よりも少し先の海岸へとたどり着くといきなり流れ込んだ空気に気道が驚いて咳き込んでしまう。ゲホゲホと少量の水を吐いていれば、体がこれ以上冷えないようにするためか、体を横抱きにされた状態で浜へと上がった。


「っ、は…す、すまない…れ、いを…」


そこまできて、俺はやっと視線を何か…祖父とはちがう誰かへと向けた。真昼の高く登った日を背にしているため、表情がすぐには確認できなかったが、暫くして、その誰かは自分よりも幼く、背の低い…中性的な顔立ちをしていることを認識した。その誰かは、その美しい顔を今にも泣き出してしまいそうな程に歪め、そうして。


「君は…どうしてそうなのだ…」

「…?」

「どうして、誰かの為にその身を捧げる。どうして、そんなにも自分を大切にしてくれないのか…」


凛とした、少年とも少女とも取れる声が震えている。きっと、誰かと俺を間違えて吐き出された不満は酷く弱々しく、怯えて見えた。その姿が、俺には“誰か”と被って見えて、胸がぎゅっと苦しくなる。今まで感じたことの無い感覚に戸惑うも、けれど、それ以上に、悲しげな顔をどうにかしてやりたくてそっと頬に手を伸ばした。これは多分、妹達の泣きそうな顔に、似ているように感じたからかもしれない。兄心、というものだろう。下の子には笑っていてほしい。そんな、きっと、兄心だ。触れた頬は酷く温かく、そして柔い。驚いて見開いた春を告げる若草色に優しく、ゆっくりと口角が上がる。


「…お前を、かなしませるつ、もりは…なかった…すまない。けれど、無事なら、よかった…。だから」


笑ってくれ。そう言って俺の意識は落ちた。思いの外体力を。霊力を座れたのだろう。急に、どっと疲労が表れて、落ちてしまった。

遠くで、酷く焦った誰かの声と泣き声混じりの妹達、驚いた祖父の声が聞こえた気がした


「…そんなに死にたいのであれば、私の前以外で死んでくれまいか」


■□□■□□■□□■



美しいと思った。

身を捧げるといって笑った君の姿が。

美しく、残酷な、愛しい君よ。

どうして私に君の手を引かせてくれないのだろう。

ただ、君が隣で笑ってくれていてくれれば…私は…



■□□■□□■□□■




「お、起きたか。おひい。ほら、水飲んどけ。」


寒くて熱い。頭が重くて、視界がぼやけている。祖父に渡されたスポーツ飲料のペットボトルを受け取って、気だるげに体を起こせば、くらりと視界が揺れた。それにいち早く気付いた祖父が背中に手を回そうとするよりも早く、細く、しかししっかりとした掌が背を支えてくれる。誰なのだろうと視認する前に、祖父がニヤニヤと意地悪気に笑いながら口笛を吹いたのだけは見えた。


「そのまま私に身を委ねろ。力を抜いて寄り掛かれ。貴殿ほどなればどうということはない。楽になるだろう?」

「…お前、は?」

「飲め。疾く飲め。」


あの時聞こえた、凛として、冷たくも温かい声が聞こえたことに驚いて見上げようとするも、それよりも先に体を誰かにより掛かるように抱かれ、持っていたボトルを奪われる。そしてパキッという音をたてたかと思うと、手にボトルが戻され、飲むように指示される。多分俺は今熱でもあるのだろう。霊力の消費、体を冷やしたこと、体力の消耗、瘴気に当てられた。条件なんか有にこなしてしまっている。無理もない。だから、素直に飲むことにして、この状況を甘んじて受け取ることにした。こくこくと、冷えた水分が喉を通る。甘くも酸味のある味がおいしい。その様子に祖父が掌に錠剤を落とす。俺はそれも素直に口にいれてスポーツ飲料と共に飲み込んだ。一気に半分ほど減った辺りで体を支えている誰かがボトルを受け取り、蓋を締めた。


「ほ〜〜?お前さん、本命前だとはそーんな甲斐甲斐しく世話やくんだなぁ。結丹(ゆに)」

「ゆに…?」


ニヤニヤと笑いながら、俺を支える誰か…彼?なのか、彼女なのか?を…祖父は「結丹(ゆに)」と呼んだ。誰か…結丹は祖父のからかうような言動に眉を寄せ不機嫌そうに舌打ちをすると、ボトルを置いてから俺の肩に手を置いた。


「煩いな…。そもお前は丈夫だったろ?それに、“祭”の家では異端児だった」

「確かになぁ。見た目は“夫婦の神”の“妻”に似ているくせに不真面目で遊び呆けて、その上舞は一等美しい。霊力はんな強くねぇくせして術にもたけてるとくりゃまぁ、家族は嫌がるだろうよ。」

「“祭”の家では大抵は“巫女”の養子を継ぐはずだ、とな。私から言わせれば“あれ”の前までは“夫婦の神”の養子を継ぐもののほうが多く、“あれ”の方が異端なほど美しかったな。」

「は〜はいはい。ごちそーさんですよ〜。」

「…煩い」


頭上で繰り広げられる会話に頭がついていかないが、とにかく祖父と結丹が顔馴染みだと言うことだけはわかった。あと、強いてうなら俺は祖父の話した昔話の“巫女”に似ているということだ。それに、何故だろうか、結丹と呼ばれたこの人の温もりは安心できて、心地が良い。無意識に、首筋に擦り寄るようにして温もりを求めればピシリと結丹の体が硬直したような気がする。何かに、不味いことでもしたのかと見上げようとすれば、その前に肩を押され布団へと戻された。挙げ句、視界を掌でわられて表情がみえない。


「っ、疾く寝!疾く治せ!!」


それだけ言うと、ドタドタと音を立てて結丹は出ていった。それを見ていた祖父と言えば楽しげに手を叩いて声を上げて笑っていた。


「あっはは!!あいつ、ほーんとシャイだよなぁ。しても、お前も罪づくりだよなぁ。海花。」

「…容姿のことか…?」

「あいからわず飲み込みが早いねぇ。まぁ、容姿だけじゃあねえよ?性格もってことさ」

「……、性格。」

「そ、まぁ、その話は明日だな。お前は疾く寝、疾く治せ。霊力が吸われたんだ。いくら霊力が強かろうと無理矢理奪われりゃそれなりに消耗すんだろ。」

「…ん。」


頬に触れた冷たい祖父の体温が心地よく、擦り寄るようにして頷けば祖父が苦笑をしてから髪を混ぜる。


「本当に、無自覚ってのは怖いねぇ。そこはババア譲りか?…あとで結丹を寄越すよ。手でも握ってやりゃあいつから少し霊力ぐらい分けてもらえんだろ。…つっても、どーせ呼ばんでもすぐ来るだろうがな。」

「?」

「見てろ?3、2、」


祖父がいち、と呟くと同時に出ていった筈の…彼?彼女?が襖を勢いよく開いた。ぴしゃりという音と共に。なぜだかちょっと拗ねたような表情で立っている。


「ほらきた」

「…海」

「怖っ!?いやいや、いくら可愛げあるおひいだろうが孫には手ぇださねぇよ!?俺はババア一筋なんだ!?」

「…じーちゃん、ばーちゃんをババアって言うのは…」

「いんだよ、ババアも俺をやれバカだの色ボケだのジジイだの言ってたんだからさ。…と、じゃあよく休めよ。海花。んで、治せ。」

「…ん、あり、がと…」

「いんだよ。たまにはしっかり休んどけって。んで甘えとけ。あとは結丹に任せっから」

「…うむ」

「あぁでも、手ぇ出すなよ?まだ、俺はそこまでは許してないからな?いくらおひいが可愛かろうが、女じゃ無かろうがな。」


じゃあな!とそれはもう爽やかに祖父が笑いながら襖を閉めると同時に出すか戯けが!?という悲痛ともいえる程の声を上げ、近くにあった座布団を思い切り襖に叩き付けた。外れるのでは?と思える程の音を立てたがどうやら外れることは無かったらしい。少しして、息を深くついた結丹は座布団を拾うと、その上に片膝を立てて腰掛けた。まるで武人のような姿だなんて見ていると、ふと、視線がこちらへと向いた。


「何だ?」


先程とは打って変わって冷たい声色に首をかしげればまた深々と息をつかれた。


「おこっている、のか…?」

「何故だ」

「声色が先程とは違うからだ」

「…別に腹を立ててなどいない。本来はこんな感じなのだ。先程は旧知の者と話した為気が緩んでいただけだ。」

「…そう、なのか…。何だかすまない。…今更だが、伝染るかもしれない、ので…。俺は一人でも平気だ。出ていっても構わない…。祖父が勝手を言っただけだからな…」


そう言って、俺は寝返りをうち、結丹に背を向ける。考えて見れば結丹は他人…いや、祖父との話から察するに昔話の巫女を愛した神…なのだろう。幼くは見えるが。今まで見かけたことなど無かったのも含め、色不思議ではあるが悪いものではない。寧ろ安心感すら感じる。だが、それらはとりあえず片隅にでも置いておいて、これ以上迷惑はかけられまい。目をつぶり、意識を手放そうとすればまたもや上から深々とため息が聞こえた。


「…君は、本当に何でも一人で抱え込むのだな。」


くるりともう一度寝返りをうち、そちらを見上げれば結丹は少しだけ表情を和らげている。なんというか、この神らしき存在は見た目に引っ張られているのか酷く子供らしく感じてしまう。そこは愛らしく感じるが、やはりこれ以上は甘えられない。そう言葉にしようとする前に、結丹の細くもしっかりとした掌が口を塞いだ。


「海も言っていた。甘えろと。だから、君はその通りにしてしまえば良い。私はそも病にはかからぬ。故に心配はない。それに」


口を優しく塞いでいた手が頬へと伸びる。少し温かく心地がいい温もり。祖父とはちがう温もりがやはり心地よく、何故だが縋りたくなってしまう。するりと頬を手に寄せ、離さないようにと手首を柔く掴む。迷惑はかけられないと言ったくせに、何故か話したくないと体が駄々をこねる。その様子を結丹は見つめ、やはりかと言葉を零す。


「…君は霊力を奪われたんだ。だから、今は飢餓…肉体的な意味ではなく、霊力的な意味で空腹なのだ。だから、波長の合うものの霊力を無意識に求めてしまう。海の時もそうだったのだろう?だから、私が傍に付き、君に少しずつ霊力を与えていく。そのためにこの部屋へと来たのだ」


言って、優しく頬を撫でる。その心地よさに息をつき目を瞑れば不思議と意識は微睡んでいく。溶けるように揺蕩い出した思考はゆっくり、ゆっくりと夢の世界へと旅ただせようとしだした。それを拒むようにして目を開けば、まるで愛しいと言われているかのように細められた瞳と目があった。


「眠れよ。愛しい君よ。」


どくりと胸が締め付けられる。得も言えぬ感情が全身を締め付ける。何故、そんな悲しげな声で言うのだろうか分からない。ただ一つ、分かるのはきっと。そうきっと。


俺はこの時に神に恋をした。同時に、あぁ、この恋は叶わないと自覚したのだ


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創作SS収納部屋 杏鳥 @koinatu_awayuki

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