『サマーウォーズ』のミッドポイント

 創作論を語らなければいけない(思い出した)。


 シド・フィールド氏が映画の脚本を分析して見出した「三幕構成」は、映画だけではなく、物語全般に通じる、ストーリーの基本だと考えている。

 小説のストーリーを分析したことはあまりないが、映画や1クールアニメは逆に、分析的に見ることが癖になっている。それで映画やアニメが楽しめないということはなく、ある程度分析的に見ることは、ストーリーを楽しむとともに、作り手の技巧も味わうことができるはず、と前向きに考えている。


 三幕構成ではストーリーは時間順に第1幕、第2幕、第3幕の3つに分けることができ、2時間の映画ならそれぞれがおよそ30分、60分、30分という配分になっている。

 第1幕はどこの誰のどんな話か、という紹介、第2幕は登場人物が遭遇する波乱万丈のストーリー、第3幕は第1、第2の区間を通して得られた結論。

 第2幕はその中間に「ミッドポイント」という重要なイベントがある。これは映画の前半と後半を分けるターニングポイントで、起承転結の「転」とも言える。つまりたいがいの物語はここに大きいサプライズが仕込んである。終盤にもサプライズが用意されるが、普通はミッドポイントの方が衝撃が大きい。


 少し前に細田守監督の『サマーウォーズ』を見た。もう何度も見たので、軽い気持ちで見始めたが、始まると目を離すことができず、最後までじっくり見てしまった。

 この映画も三幕構成でできている。

 特にミッドポイントが分かりやすい。


ミッドポイント――誕生日の前日の朝、祖母の栄が誰にも知られずに息を引き取る。


 ミッドポイントの役割もこの映画ではかなりよく分かる。

 ミッドポイントより前の展開;

 今や人間の生活に欠かせないインフラとなったネットサービスのOZ、それがラブマシーンというAIによりクラックされ、世界中が大混乱となる。しかし、陣内家の各人の努力、とりわけ栄の莫大な人脈を辿っての叱咤激励で、トラブルは一度収まる。ほっとしているところに10年も音信不通だった侘助が現れ、ラブマシーンの開発者は自分だと告げる。激昂した栄は薙刀で侘助を殺そうとする。


 ミッドポイント後;

 世界を混乱に陥れたラブマシーンは陣内家が作り出した身内の不手際である。

 ラブマシーンはまだ生きていて、改めて世界を危機に陥れる。

 陣内家の心の拠り所だった栄はもういない。

 男はいくさだと燃え上がるが、女は葬式の準備に忙殺される。


 ミッドポイントの後というのは、登場人物たちが立ち向かう、が何なのかがはっきりする。

 ミッドポイントより前に現れる試練は弱く、偽物の場合もある。主人公たちは一度は勝利できたりする。しかし、ミッドポイント―—物語の中盤で、彼ら・彼女らはそれまで乗り越えてきた試練がまだまだ序の口で、これからが本当の戦いだと理解する。


 『サマーウォーズ』で言えば、ラブマシーンに打ち勝って世界を救い、身内の恥を始末しなければいけない。それは栄の敵討ちでもある。


 また、後半、真の敵が分かったからと言って、すぐには全力が出せないところも注目点と言える。「いくさだ!」といきり立つのは男衆ばかりで、女たちはそんな男らを馬鹿にしながら、葬式の準備に精を出す。

 仇討ちと葬式と、二つの課題で陣内家はそれぞれ割れてしまい、女は大家の葬式に直面して悩み、男はラブマシーンに負け続ける。


 「本当の敵が分かっても、正しい戦い方が分からない」、というのがミッドポイントから第2幕の終わりまでの状況なのだと思う。だから見ている方がはらはらする。


 『サマーウォーズ』は終盤になって、栄の遺書が読まれる。これは第3幕の入り口。その後は男女が分裂することはなく、力を合わせて勝利を勝ち取る。


 物語を作る場合は、時系列が逆になる。作者は主人公たちが直面する「本当の課題」を早いうちに見つけておく必要がある。そして、その課題が明らかになるサプライズを仕込む。

 課題は困難なほど盛り上がるが、解決できないと話をまとめられないから、困難な課題を解決する道筋も決めておかなければいけない。その上で前に戻って、どうやって主人公たちが課題にたどり着くか、を考える。

(もちろんこれは、1話からこつこつと話を書いていくスタイルを否定するわけではない)


 サプライズはもう一つあって、それが課題を解決する答えを導く。こちらは小さいサプライズ。『サマーウォーズ』は「家族力を合わせましょう」というサプライズも何もない答えだが、それが栄の遺書に書かれていたことがサプライズになる。

 ミステリーだと真犯人という最大にサプライズはここかもしれない。

 第3幕のサプライズは、「カタルシス」という言い方をした方がいいかもしれない。

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