第30話 呆れる

亜希は、多恵に対する嫌な気持ちを拭えないでいた。多恵は、そんな事にも気づきもしなかった。自分は、いい事をした様な気分で、気持ちが高まっていたのだ。

亜希は、少し距離を置くようにしようと考えていた。仕事も辞めてしまおうかと思っていた。

亜希も、舞と同様に気持ちの落ち込みは大きかったのだ。

多恵は、周囲の事は気にかけているようでいて、マイペースだった。舞が大変な時も「自分も大変な時があったからとでも、頑張ったし」と周りに支えられていた事は全然感じていない様子だった。

多恵は、自分の事ばかり考えている人になっていた。いつしか、亜希も、舞も、何のアドバイスもしなくなっていたが、そんな事にも気づけない程だった。

ある時、亜希は、多恵との一緒の夜勤で、いつもは一緒に車に乗せて行ってたが、多恵から全く連絡も無く、連絡がないから先に行くねとLINEし、先に職場に向かった。

多恵は、「えっ?」と返事を返してきた。亜希が迎えにくるのが当たり前と思っていたのだ。

亜希は、「連絡も無いし、夜勤が変わったのかもなんなのかも分からないから」と返事を返した。多恵は、その日は電車とバスで通勤してきた。多恵にとっては意味が分からなかったが、亜希は、多恵に都合の良いように使われていると思っていたため連絡が来なければ迎えには行かないと決めていた。

本来なら、お願いして乗っていくと言うのが当たり前の構図なのだろうが、多恵には一般常識が欠けていた。亜希が、夜勤で仕事をフォローしていても、上司に、「私はやらなくて良いと言ってるけど、やってる」と亜希の目の前で言ったり、周囲も多恵の仕事が遅く終わらない事を知っていた為、呆れていた。

多恵は、周囲からも仕事のできない人間と思われている事に気づいていなかった。集中力がなく、一つのことが終わる前に色んな事に手を出して、どれも中途半端になっていたのだ。

亜希は、そんな多恵のフォローをいつもして仕事が終わるようにしてきたが、もうウンザリだった。証拠に写メを撮って、「この時間にこの様な状況で、自分で全てやっている様な事を話していますが、終わらないし後回しにする様に話しても、私の言う事は聞いてくれません。私も休憩時間を削ってやる時もあります。患者さんをこれでは見れないので、怖くて休憩が出来ません。きちんと、話して下さい」と介護主任に伝えた。介護主任は、話には聞いていたけど、と凄く呆れていた。直ぐに多恵に話してくれたが、多恵はきちんと理解出来ていない様子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る