第3話

 それから私とアムールトラとヒグマさんは、サーバルさんとカラカルさんに抱えられながらカフェへと運ばれました。

 2人はそこで応急的なサンドスターによる処置を受け、どうにか峠は越えました。


 私はといえば、カフェにたどり着いたところで安堵と疲労が一気に押し寄せてきて、そのまま気絶してしまいました。

 それでもそれからのやり取りは、ぼんやりながらも耳に入ってきていました。


 アムールトラはミライさんの提案で、彼女が運転するジャパリバスでセントラルパークの治療センターまで連れて行ってもらい、そこで左腕の再生手術を受ける事となったのです。


 その翌朝、私はカフェ2階の菜々さんのベッドで目を覚ましました。そしてすぐさま飛び起きて耳を澄ましてみたのですが、あたりは物音ひとつしません。どうやらアムールトラ達は、もう既に出かけてしまったようでした。


 それが分かった途端、あの悲しみがまた一気に押し寄せてきて、私は大粒の涙を流しながら激しく泣きじゃくりました。アムールトラがあんな大怪我をする原因となったのは私…、さらにその光景までもがありありと浮かんできて、涙が止まりません。


 しかし勢いよく鼻をすすった瞬間、外からアムールトラの匂いがしました。慌てて窓から表の様子をうかがってみると、一台のジャパリバスの前に人が集まっていました。そうです、村を救ってくれた英雄達を村人総出で見送っていたのです。


キュルル『まだ間に合う…!』


 私は勢いよく階段を駆け降りてそのまま店を飛び出すと、涙を拳で拭いながら必死に通りを駆け抜けました。アムールトラの前では絶対に泣かない、そう心に誓って。


 やがて人だかりが見えてきました。私は無我夢中でそれを押しのけたりかき分けたり飛び越えたりしながらバスへと向かいました。すると私の耳にアムールトラ達の声が聞こえてきました。私は彼女達に呼びかけようとしましたが、すでに息が上がっていて言葉が出せません。なので最後の力を振り絞り、どうにかバスの前へと飛び出しました。


 するとちょうど村人達とのお別れが済んだところで、ミライさんはすでに運転席に座っていて、他の5人は私に背を向けバスに乗り込もうとしていました。


ミライ「それではみなさん乗ってください、事態は一刻を争うんですから!可愛いフレンズさんがこんな目に遭うなんてっ…私の胸は今にも張り裂けそうですっ‼︎」


 こう息巻くミライさんを横目に、アムールトラは苦笑していました。

アムールトラ「そんなに焦らなくても私は大丈夫だよ、ミライさん。」


菜々「絶対に安全運転させるから、心配しないでね。」

 そう言いながら菜々さんが、ミライさんの隣に腰を下ろしました。


ヒグマ「どんな危機が襲ってこようが私が守ってみせる。任せてくれ。」


サーバル「無理しないでヒグマ、私達だっているよ!…でもやっぱりキュルルちゃん、起こしてあげた方が良かったんじゃないかなぁ。」


カラカル「目が覚めたら恨まれるでしょうけど、団長の命令じゃ仕方ないわ。…アムールトラだって辛いのよ。」


 そう言って3人は、名残惜しそうにバスの客席に乗り込みました。そしてアムールトラも乗り込もうとしたその時…


キュルル「待ってください!」


 私はどうにか声を絞り出しました。すると彼女はびっくりした顔をしながら振り向きました。また、他の5人も驚いた様子でバスの中から私を見ていました。


 私は荒い呼吸を落ち着かせようと必死でした。さらにアムールトラを前にした途端、胸の中に様々な感情が込み上げてきて、もう息が詰まりそうです。かろうじて涙を堪えている目も、一度まばたきをしたらどうなるか分かりません。それでもなんとか、この思いを言葉にすることができました。


キュルル「絶対…、絶対また会えますよね⁉︎」


 すると彼女は笑みを浮かべながら頷きました。

アムールトラ「ああ、必ず戻ってくるよ、約束する。…そうだ。」


 そう言うとアムールトラは、被っていた帽子を私の頭に被せました。そして、とても穏やかな口調で私にこう語りかけました。


アムールトラ「この帽子をキミに預ける。これはまだ動物だった私を助けてくれたヒトの形見なんだ、私が帰ってくるまで大切に守っていてくれ。」


キュルル「………!!!」


 私は奥歯が砕けそうになるくらい歯を食いしばっていましたが…、ああ、もう駄目です、堪えきれません。とうとう涙を流してしまいました。しかし幸いな事に帽子の陰に隠れていたので、おそらくアムールトラには見えていないでしょう。でも万が一ということがあります、私は無言で頷くと、絶対に涙を見られないようにバッと後ろを向いて叫びました。


キュルル「必ず守ってみぜまず!…大丈夫、私は強いがら泣ぎまぜんっ‼︎」


 所々涙で言葉がつっかかり、背中はブルブルと震えています。私が泣いている事は誰の目にも明らかでしょうが、私にはもう、こうするしかありませんでした。


 たとえ直接見ることはできなくても、フレンズとなった今の私には背後のアムールトラの様子が手にとるように分かりました。彼女は満足そうに微笑むと、しっかりとした足取りでバスに乗り込んでゆきました。


 そしてエンジンがかかり、バスが静かに発車しました。次第に音が遠ざかってゆきます。すると突然アムールトラが窓から身を乗り出してきて、晴れやかな顔でこう叫びました。

アムールトラ「行ってくる!しっかりね!!大好きだよー!!!」


 そんな彼女の瞳は、涙でキラキラと輝いていました。

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