第2話
その夜、私はベッドの中でいつまでも起きていました。何度目を閉じても、今日あった出来事が次々と頭の中に浮かんできて眠れなかったのです。
キュルル「はぁ、もうアムールトラと一緒に旅をする事は出来なくなっちゃいましたね…。でもあの子達がここにいる間くらい、何かお手伝いしたいなあ…。」
ゾクリ
突然、私の全身の毛が逆立ちました。そして私はベッドから飛び起きると、キョロキョロとあたりを見回しました。
キュルル「なんでしょう…、近くにとても嫌なものがいます!」
フレンズになったせいで、今の私の感覚はヒトを遥かに凌駕していました。体がガタガタと震えて、とてももう一度横になる気にはなれません。たまらなくなった私はベッドから抜け出すと、そのまま家を飛び出してアムールトラ達が眠っているはずの宿屋に向かって走り出しました。
そして近道をしようと原っぱに足を踏み入れたところで、右側から何かの視線を感じ立ち止まりました。
そちらには、私の顔程の大きさの一つ目が闇の中に浮かんでいました。ギョッとしてさらに目を凝らしてみると、全身が紺色で私の腰くらいの高さの蛇のような体をした小型セルリアンが、じっとこちらを見ているのが分かりました。
するとそいつは突然全身を縮めた後、猛烈な勢いで私に飛びかかってきたのです。
キュルル「ゎ…、うあああぁーっ!」
ぱっかーん!
しかし、小型セルリアンの体が目の前で弾け飛びました。そして入れ替わりに空からヒグマさんが降りてきて、私の前に着地しました。彼女は先端に大きな熊の手の付いた武器を構えつつ、正面を向いたまま凄みのある声で怒鳴りました。
ヒグマ「無事か?こんな時間に何してるんだ!」
キュルル「ごめんなさい!私、なんだか嫌な感じがして、アムールトラ達に知らせようと思ったらセルリアンが現れて…。」
すると私たちの目の前に、さらに3体の小型セルリアンが体をくねらせながら現れました。
キュルル「ひっ…!」
ヒグマ「お前はじっとしてろ!あれくらい、私が一発で片付けてやる!」
その言葉が終わるやいなや、ヒグマさんはセルリアンに飛びかかりました。
しかし突然、彼女の足元の地面からいくつもの目玉の付いた紫色の巨大な塊が現れ、ものすごい勢いで体当たりしてきました。
ドガッ!!!
不意を突かれたヒグマさんはとっさにガードしたものの、そのまま地面に叩きつけられてしまいました。
ヒグマ「こいつはっ…セルリアンの集合体⁉︎くそっ、私が今まで相手してたのは分身で、本体は地面の下に潜んでたのかっ…!」
キュルル「ヒグマさんっ!」
私はすぐさま駆け寄ろうとしましたが、すでに彼女の体にはおびただしい数のセルリアンが絡み付いていました。
ヒグマ「来るな、お前だけでも逃げろ…!」
そう言い残して、ヒグマさんは大型セルリアンに取り込まれてしまいました。
そしてまるで高い塔のような大型セルリアンが、すっと私の方を向きました。その体のあちこちにある巨大な目が、ギロギロと蠢きながら私を睨んでいます。すると頭上のひときわ大きな目の下に、巨大な口がポッカリと開きました。
キュルル「あ…、あ……。」
私は頭の中では必死に逃げようと考えていたのですが、足がすくんで動けませんでした。
グオオオーン!
セルリアンの絶叫で、周囲の空気だけでなく地面までもがビリビリと揺れました。そして大型セルリアンが大口を開けて飛びかかってきました。
私は全身を縮こませ、思わず目を閉じました。すると、不意に体が浮き上がったような感覚がしました。
ガチィイイン!
セルリアンの口が勢いよく閉まる大きな音があたりに響き渡りました。そして恐る恐る目を開けると、誰かが私を右腕で抱き抱えていて、地面には見覚えのある青い羽のついた水色の帽子が落ちていました。
そして助けてくれた方の姿を目の当たりにして、私は目を剥きました。
キュルル「アムールトラ⁉︎」
オオオーーーン!
再び大型セルリアンが雄叫びを上げながら私たち目掛けて突進してきました。しかし…
アムールトラ「…失せろ。」
アムールトラの怒気のこもった唸るような声が、感情を持たないはずのセルリアンをも怯ませました。そのあまりに圧倒的な迫力に、私だけでなく夜の闇までもが震え上がったのではないかと思えるほどでした。
それと同時にその目が黄金色に輝き、全身から立ち昇った
ぱっかーん!
そして次の瞬間には、派手な破裂音と一緒にセルリアンの全身が弾け飛んでいました。
そして地面には、先程取り込まれたヒグマさんが倒れていました。どうやら救出が早かったので助かったようです。
そのキラキラしたかけらがあたりに散らばる中、私は泣きじゃくりながらアムールトラを見つめていました。
キュルル「ひっく…、ひっく…!」
そんな私をよそに、アムールトラは優しく語りかけてきました。
アムールトラ「ごめんね、怖い思いさせて。昼間はしゃぎすぎたせいかぐっすり眠っちゃっててね、キミの叫び声で目が覚めたんだ。やっぱり私は、もう少ししっかりしないと駄目だね。」
キュルル「えぐ…、うっうっ…」
アムールトラ「ほら、怖いやつは吹っ飛んだんだからもう泣かない。そんなんじゃおっきくなれないよ?」
しかしいくら優しい言葉をかけられても、私はとても安堵する事はできませんでした。それどころか悲しみが押し寄せてきて、声を発するのはおろか息をすることさえままなりません。そうしてやっとの思いで絞り出した言葉は、嗚咽で潰れた悲鳴のようなものでした。
キュルル「だって…アムールドラぁ…、腕が‼︎」
なんと彼女の左腕は、私をかばった際根本からセルリアンに食いちぎられていました。フレンズの特性上流血こそありませんが、断面からキラキラとサンドスターがこぼれ落ちています。
思うにその激痛とショックでいつ気絶してもおかしくありません。にもかかわらず、アムールトラは辛そうな顔一つせず私の頭を撫でながら笑顔を浮かべていました。
アムールトラ「安いもんだよ、腕の一本くらい…。大切なお友達を守れたんだから!」
そこへ、サーバルさんとカラカルさんが息を弾ませながらやってきました。
サーバル「宿から野生解放して飛び出すなんて、無茶苦茶だよ…あ‼︎」
カラカル「戦う前に消えちゃったら何にもならないじゃないっ!ヒグマだっているんだからそうそう危ない目には…て、アムールトラ、アンタっ…‼︎」
キュルル「う…、うわああああああぁっ‼︎」
とうとう私は堪えきれなくなり、アムールトラにしがみついたまま大声で泣きました。
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