04話.[泣いてねえよっ]
「つまり、責任を取るつもりがないならやめろ、と言いたいんですよね?」
冗談抜きで一時間が経過した頃、やっと横田はそう聞いてきた。
俺はそういう風に考えているからそのまま頷く。
「……なるほど、確かに俺は短慮だったかもしれません」
「だけどこれも結局、自分が巻き込まれたくないだけなんだよな……」
期待されても応えられないから期待されない人間でいた方がいい。
大事なところで動いてくれない人間の周りには人なんて残らない。
誰かといたいのは確かだが、そういう重い感じになり始めるとリセットしたくなるんだ。
「……でも、おかしいじゃないですか」
「確かにそれは俺も思うよ、三上の成績で叩かれるなら俺なんてぼこぼこにされてるからな」
「そういうの嫌なんですよね、なんにもできない自分が嫌な人間みたいに思えてきて」
俺と違って生きるのが難しそうだった。
俺なら仮にそういう人間がいてもなにかができるわけではないから近づくことはしない。
「小学生時代に親に虐待されていた同級生がいたんです、だけど、結局なにもできないまま転校してしまいましたからね」
「話しかけたのか?」
「はい、それはもう何度も。でも、俺にできたのはそれぐらいだけでした」
俺は○○だから少しだけでも動けたのならいいことだろ、なんて言えるわけがなかった。
多分そんなことを言えば完全に怒られて俺達の関係が終わりかねない。
こういうところが昔とは変わってしまっていて救いようがないというか。
昔の俺ならなんでも口にしていたのにな……。
「今更だけどさ、どうして来たんだ?」
「それは……生意気なことを言ってしまったからですよ」
「横田の言っていたことは事実だからな」
不安だとかなんだとか言っておきながら大事なところでは動けないってださい話だ。
俺みたいな人間の方が近くにいない方がいいに決まっている。
まあ、結局は求めてしまって駄目になるわけだが……。
「すみませんでした」
「いいって、三上からすれば動こうとしてくれただけでもありがたいことだろ」
この話はもうこれで終わりだ。
部屋にいても意味がないのと、飲み物を出していなかったことを思い出して一階へ。
「終わったの?」
「おう、特に問題もなくな」
まだ複雑そうな顔をしていたから髪をぐしゃぐしゃにしておいた。
そうしたら呆れているような顔になったからよかった。
「お姉ちゃんはそろそろ行くね」
「おう」
バイトをするようになってから大人びた感じのする姉。
元々、色々な面で優秀だったからおかしくはないのかもしれないが、俺といるときはそういう雰囲気を出さない明るい姉の方が好きだったりする。
「月さんは変わりましたね」
「元々、ああいう感じなのかもしれないぞ?」
「でも、明るい月さんが偽物というわけではないですよね? 俺は明るい月さんの方が好きですからね」
「大胆だなー」
それこそ勘違いさせていそうだ。
だって自分のために一生懸命動いてくれる人間なんだぜ?
どちらの性別であったとしてもそういう人間というのは求められるもんなんだ。
外面も内面も格好いいとか不公平すぎだろと内で吐くことしかできなかった。
「大胆なのは先輩ですよ、体が冷えるかもしれないからってさらっと上着を掛けられるぐらいなんですからね」
「はいはい、やばい奴ですよ」
ちなみにその上着は未だに三上が持っていることになる。
彼が無理やり引っ張っていったせいでこんなことになったんだ。
しかも別れ際があんな感じだったから普段の倍以上に冷えながら帰ることになった。
「分かってるよ、横田や他のイケメンと違って俺なんかがやっても気持ちが悪いことはな」
「別にそこまで言っているわけではないですけど」
「もうしないよ、それに」
今日のあれを見たら彼のところに沢山行くようになる。
俺はなにもしないで逃げたような人間だからな。
力になってやれないから別にそれでも構わない。
彼はいい奴だからそんな存在と一緒にいるのが一番で。
「それに?」
「いや、なんでもない」
もう外は真っ暗だから帰らせることにした。
今日は三上もいないから送ったりはしないで部屋に引きこもる。
形だけでも動こうとしてくれる人間のところに行くものだよなあ。
自分がモテない理由が今日のでよく分かってしまったからなんか悲しくなったんだ。
ベッドに転んでいるとまじで涙が出てきそうだったから母の手伝いでもすることにした。
自分ひとりでやることはさせてくれないが、こうして手伝うことなら必ずさせてくれるからいまの俺にはありがたい。
「なにかあったの?」
「人と関わるのって難しいなと思ってさ」
「そうね、私でもそう感じるときはあるもの」
できたらふたりは待たずに食べることに。
バイト及び仕事組を待っているとかなり遅い時間になってしまうからだ。
母だって合わせたりはしないから俺だけが悪いわけではない。
「毎日家事をするって疲れないか?」
「お父さんが毎日頑張ってくれているのにそんなことは言っていられないわ」
「……そんなこと言ったら俺なんかなにもしてないからな」
「いいのよ、あなたはお勉強を頑張ればいいの。バイトだって禁止なんだからどうしようもないことでしょう?」
なんか痛くなったから自分から出したのにこの話は終わりにしてもらった。
その後はすぐに風呂に入って、湯冷めしないようにすぐに寝たのだった。
「一正君、おはよう」
「おう」
今日でテストも終わるからとりあえずゆっくりすることができる。
そうしたらふたりとは少し距離を置いてごちゃごちゃをなんとかするつもりだ。
相変わらず彼女は来てくれているが、なんか来てもらう度に申し訳なくて仕方がなかった。
友達になるとか言ってしまったからそれに引っ張られてしまっているだけなんだ。
で、最終日ということもあって結構早い時間に終わったから休んでいた。
「お疲れ様」
「三上もなー」
……いちいち離れた方がいいとか言えなかった。
俺はもう彼女といる時間も好きになってしまっているからだ。
こっちを馬鹿にしてくるわけでもないし、はっきりと嬉しいとか楽しいとか言ってくれる存在と誰が離れたいと思うのか。
それは横田に対しても同じだから恋的なものではないけどな。
「不安か?」
「うん、少しだけだけど」
「でも、頑張っていたことは俺も横田も知ってるからな、堂々としていればいいんだよ」
そのことを言うだけなら俺でも動けそうだった。
変えろとは言えないものの、頑張っていたことを否定することだけは許せない。
夜とかも一生懸命やっている子なんだし、他の努力している人間と同じぐらい、いや、それ以上の結果を出しているんだからもっと平和な感じでいけそうなのにと少しだけ悔しく感じた。
って、最近はマイナス思考をするようになってしまったな……。
「よし、飯でも食べに行くか!」
「うん、行きたい」
「じゃあ横田を――って、いたのか」
彼は目の前まで歩いてくると少しだけ怖い顔で「はい」と。
触れるとまた怖い思いを味わうことになるから気にせずに連れて行くことにする。
「今日は三上の食べたい物が食べられる店に行こう」
「ドリアが食べたい」
「それならファミレスだな」
……財布的にもありがたいからかなりほっとした。
しかも肉も食べられる店だから男でも満足できるからいい店だ。
食べようと思えばラーメンだって注文できるし、デザートだって結構あるし。
とにかく、安価で色々な物が食べられるというのは高校生的にはありがたかった。
「ふぅ、もうお腹いっぱい」
「だな」
普段飲めないからって炭酸を沢山飲みすぎた。
こういうところもモテない理由のひとつだと思う。
ただ、払ったからには沢山飲んでおかなければ損だという風に考えてしまうんだ。
「相川先輩」
「な、なんでそんなに怖い顔をしているんだ?」
「少し話したいことがあるだけですよ」
会計を済ませて退店してから話を聞くことにした。
そう焦らなくてもまだ昼だから時間は沢山ある。
「俺は悔しいですよ」
「な、なにが?」
「俺といるときより楽しそうじゃないですか」
おいおい、そこに嫉妬してどうするよ。
彼女に対してそう言うならともかくとして、現在は俺を見て言ってきているわけだし……。
やっぱり少しズレているのかもしれなかった。
そうでもなければ俺のところに来ないだろう。
「安心して、一正君を取ったりしないから」
「は? 俺的には別にそれでもいいんですけどね」
「どっちなの?」
「……ノーコメントで」
はは、なんかこういうところを見ているとごちゃごちゃも吹き飛んでどうでもよくなるな。
俺はやっぱり横田や三上といられないと嫌なんだ。
ひとりだとすぐに悪い方に考えてしまうからそういうのを防ぐ意味でも効果がある。
「ちょっと疲れたからもう帰るね」
「おう、家まで送るよ」
「うん、眠たいから早くしないと……ぐー」
「待て待て待て、危ないからまた背負って帰るわ」
今回もしっかり彼女を送って、とりあえず黙ったままの横田に意識を向けた。
一瞬だけ俺の方を見たものの、何故か別の方を向かれてしまったからなにも言えず。
「クリスマス、やっぱり無理でした、なんてことにはしないでくださいね」
「おいおい、俺と過ごしてくれる相手なんて横田とかしかいないんだぞ? 寧ろそっちがやっぱり他の友達を優先するとか言ったら泣くからな?」
「年上なのになに真顔で情けないこと言っているんですか……」
「そんなの関係ないだろ、俺は楽しみにしているんだから裏切るようなことはしないでくれ」
ん? もしかして家でやりたいことがあると言っていたのは……。
ははは、見た目も中身も格好いいくせにそれだけじゃないんだよなと。
髪をぐしゃぐしゃと撫でていたら「気持ち悪いですよ」と言われてしまったからやめたが。
「先輩は生クリームの方がいいんですよね?」
「ああ、だけど自分が食べたい方に合わせてくれればいいぞ」
「三上さんはチョコクリームの方が好きみたいなんですよね」
「それなら合わせればいい、俺は食べられればそれだけで満足できるから」
チョコクリームでも、生クリームでも食べられるから問題ない。
食べさせてもらう側なんだから文句なんか言うべきではないんだ。
嫌いな物は食材に申し訳ないから言わせてもらうが、それ以外では言う必要がない。
「それに俺的には横田が作ってくれた手料理の方が重要だからな」
「……そういうことは異性に言ってくださいよ」
「そんなの関係ないよ、俺が食べたいから言っているんだからな」
「ま……あんまり期待しないで待っていてくれればいいですよ」
「おうっ、いまから楽しみだ」
なんて、期待していたんだけどな。
終業式もHRも終わってさあ! となったタイミングで突然行けなくなったと聞かされた。
しかも狙ったかのようにふたりからだ。
前にも言ったように姉は友達と過ごすし、両親はふたりで食事に行くから俺はひとり残ることになるわけで。
「去年までと違うからなあ……」
ひとりでクリスマスらしさを味わおうとしても虚しくなるだけだから寝ることにした。
幸い、すぐに眠気がやってきてくれたから任せておいた。
「……誰だこんな時間に」
ソファで寝ていたから気づけたものの、そうでもなければ気づかれないままだぞとか内で文句を言いつつ開けることにした。
開けてから時間的に不味いだろと思ったがもう遅いと。
「はぁ、はぁ、相川先輩っ」
「おいおい、いま何時だと思っているんだよ……」
自分も分かっていなかったから確認してみたら午前一時四十五分で。
こんな時間に出歩いたら物凄く寒いし、男であろうと危ないから正直に言わせてもらった。
「すみませんでしたっ」
「仕方がないだろ、両親が横田と過ごしたかったんだから」
俺がそれなら家族と過ごした方がいいと言ったんだ。
八つ当たりとかもするわけじゃないから気にしなくていい。
それに俺は毎年こんな感じだったから慣れていると言えばそうなんだ。
「それより今日はもう危ないから泊まっていけ」
「はい……」
客間に移動して布団を敷いていく。
普通に眠たかったから終えたら部屋へ~と動こうとしたときのこと、
「ここで寝ませんか?」
と、誘われたからもうひとつ敷いて寝ることにした。
「本当にすみませんでした」
「滅茶苦茶楽しみだったけどいいんだよ、俺じゃなくても家族を優先しろって言うよ」
三上の方もきっと同じような理由だろう。
ただまあ、聞いていた限りでは結構アレな両親だから禁止にしているだけかもしれないが。
「……なにか食べたんですか?」
「いや、虚しくなるだけだからやめたよ」
「は? お腹空くじゃないですか」
「いいんだよ、それより眠たいから寝ようぜ」
ちなみに作って持ってきてくれる予定だったケーキは綺麗に食されたらしい。
悪くなるぐらいならその方が絶対にいいから特に問題もなかった。
その後は話しかけられても無視をして寝ることに集中していたら、何故か俺は見下されることになったと。
「男相手に欲情するのはやめろ」
「ふざけないでください」
「もういいんだよ、クリスマスは昨日のことなんだからな」
言ったところで意味のない話だ。
それに寝て起きたら朝飯を食べればいい。
そうすればいま感じている空腹感なんてどこかにいってくれるから。
「そんな顔をするなよ」
「……どうせ見えてないですよね」
「見えてるよ、何時間暗闇の中にいたと思ってるんだ」
正直、気持ちよく寝られるわけがなかった。
手料理云々よりも横田や三上と過ごせるんだということでテンションが上っていたから。
せめて前日とかに言ってくれればもう少しぐらい俺だって上手くやった。
でも、当日に言われても上手く片付けることはできねえよ……。
「いいから寝ろ、若いときは寝ないと育たないぞ」
「これ以上伸びる必要はないですけどね」
こういうときに限って可愛げがないのは少しアレだな。
それでも説得力がなくなってしまうからなにも言わずに今度こそ寝ることに集中した。
そうしたら五時半ぐらいに目が覚めたから顔を洗って、歯も磨いて。
まだ気持ちよさそうに寝ているところで起こすのは違うからひとり家を出た。
「年末って感じがするな」
昨日までは特にそんな感じもしなかったのに面白い話だ。
で、相変わらず寒いから遠くには行かずすぐに戻ってきた。
「まだ寝てるのか」
彼に限ってはしゃぎすぎて疲れたということはないだろうからテスト勉強の疲れや、昨日のために一生懸命準備していたことでこれに繋がっているんだと判断する。
まあ、はしゃぎすぎて疲れてしまっていたんだとしても構わなかった。
家族といるとき普段みたいにぶすっとしていたら俺だったら怒るし。
「別に行きたくないならやめてもいいんだぞ」
起きているときに言えない情けなさを晒しつつ退出しリビングに移動。
たまには朝食でも作ってやろうと簡単な物を作っておくことにした。
食欲というのは全くなかったから作ったら部屋に引きこもる。
「ベッドの方がいいな」
掛け布団一枚だけだと俺には足りなくて寒かった。
あと、いまは誰かといたい気分じゃないからこう感じて当然なのかもしれない。
ださいから笑ってくれればいいが、特に横田や三上とはいたくなかった。
こういう点だよな、モテないし、頼られないのは。
年上なのに後輩より強く余裕を持って生きられていないから。
まあ、楽しませてやれなくて結局後で振られるくらいならモテない方がいいだろう。
「相川先輩、入っていいですか」
「待て待てっ、いまは――」
……酷い人間だ、全然可愛くなんかないぞ。
顔を見られたくなかったから違う方を向いていたらわざわざそっちに回ってきやがった。
「はぁ、なに強がっていたくせに泣いてんですか」
「な、泣いてねえよっ」
好き勝手言う可愛くない後輩は嫌いだった。
なんて、向こうの方が言うだろうから自嘲気味に笑うことしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます