第63話「つぶらな瞳」
にゃ〜さんは鳴き声を発することはなく、つぶらな瞳でジッと陽の目を見つめて訴えかける。
一般的には、猫が目を合わせてくるのは喧嘩をする合図のようなものだが、仔猫時代から飼い猫で過ごしているにゃ〜さんの場合は気持ちを伝えようとしている時が多かった。
それを知っている陽は、にゃ〜さんが何を言いたいのかを考える。
「佳純をいじめるなって?」
「にゃっ!」
そして状況から予想してみると、にゃ〜さんはとても大きな声で鳴いた。
おそらく肯定をしているのだろう。
離れていた期間があるとはいえ、陽がにゃ〜さんを買いに行った時にも佳純は付いてきており、それ以降も仔猫だったにゃ〜さんをとてもかわいがっていた。
だからにゃ〜さんにとって佳純はもう一人の飼い主であり、いくら陽であろうとも佳純を泣かすことは許せないのかもしれない。
「いじめてないんだけどな……」
「うそ、いじわるしてるもん……」
陽がポリポリと頭を掻きながら否定すると、子供のように拗ねている佳純がすぐに否定をした。
言葉はわからずとも表情から感情を察することができるにゃ〜さんはそれを見て、再度つぶらな瞳で陽を見つめる。
「にゃ~さんを味方に付けるのはずるくないか……?」
「陽がいじわるするせいだもん……」
「にゃっ! にゃにゃっ!」
佳純の言葉に呼応するように声をあげるにゃ~さん。
そんなにゃ~さんを見た陽は、本当にこの猫は人間の言葉がわかるんじゃないか、と疑問を抱く。
「にゃ~さん、佳純も悪いんだぞ?」
「にゃ~?」
敵意を向けてくるにゃ~さんに対して一方的に責めているわけじゃないと説明しようとする陽だが、にゃ~さんはかわいらしく小首を傾げた。
陽が何を言ってるのかわからない、そんな感じに見える。
「とぼけてやがる……」
「にゃ~さんは猫なんだから難しいこと言ってもわからないに決まってるじゃん」
「言うほど難しいことか……?」
「ね、にゃ~さん。難しいよね?」
「にゃっ!」
佳純が笑みを浮かべてにゃ~さんに聞くと、にゃ~さんは元気よく鳴いて答えた。
それを見た陽は、(やっぱりわかってるだろ……?)とツッコミを入れたくなる。
しかし、その気持ちを押し殺して陽は状況打破に出ることにした。
「まぁそれはいいや。それよりも、佳純がどうしても嫌だって言うのなら、また一つだけ佳純の要求を呑むよ」
「――っ!?」
棚から牡丹餅。
嫌でだだを捏ねていただけなのに、陽からの思わぬ提案で佳純は目を輝かせる。
「だから、俺の言うことも聞いてくれ。そうすれば俺も佳純の言うことを一つ聞くからさ」
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