第62話「嫌」

「――なんで、そんないじわるばかり言うの……?」


 陽に突き放されると理解した佳純は、陽の胸元の服を掴みながら弱々しい声で陽に訴えかけた。

 縋るようにして聞いてくる佳純に対し、陽は視線を彷徨わせながら口を開く。


「別にこれは意地悪じゃないだろ」

「いじわるだよ……。さっきから陽、凄く酷いこと言ってる……」


「……だけど、何度も言ってるけど佳純がこうなることをしたんだから……」

「でも、いくらなんでもこれは酷い……」


 佳純にとって、陽との縁が切れることは一番あってはならないことだ。

 しかし、だからといって真凛と仲良くする道を選べるはずがない。


 佳純が今もっとも危険視しているのは真凛であり、その真凛と陽が関わることを凄く嫌に思っている。

 それなのに、恋のライバルとも言える相手と仲良くするなど不可能だ。


 結局最終的には取り合いになることが目に見えているし、陽の狙い通り仲良くなればなるほど決着を迎えた時に相手のことで心を痛めることになりかねない。

 だから佳純は真凛と仲良くできないと言っているのだが、真凛に懐かれていても恋愛面で好かれているとは微塵も思っていない陽には理解してもらえなかった。


 そのことに佳純はやりようのない気持ちを抱えるが、かといって真凛に盗られる可能性があることや、真凛が陽に気がある可能性があることなど言えるはずがない。

 それでもし陽の気持ちが真凛に完全に移ってしまったらそれこそ詰んでしまう。


 佳純はそんなことを頭の中で考えていた。


「佳純がやりたがっていたサブチャンネルもできるし……」

「陽と二人きりじゃないと、意味がない……」


「みんなでワイワイやったほうが楽しいだろ?」

「絶対、そんなふうにならない……」


「秋実はいい奴だぞ……?」

「だからそれとこれとは話が別……」


 どうにか佳純を説得できないかと考える陽だが、何を言っても佳純は首を縦に振らない。


 どうすれば佳純は納得するんだろうか?

 そう陽が考え始めた時、部屋を出ていたにゃ~さんが陽の部屋へと戻ってきた。

 そして泣いている佳純を見ると、ぴょんぴょんと佳純の体を駆け上る。


「にゃ~さん……?」

「にゃっ」


 佳純の肩に乗っかったにゃ~さんは、肉球で佳純の頬を何度も優しくタッチをし始めた。

 もしかしたら慰めようとしているのかもしれない。


「にゃ~さん、ありがとう……」

「にゃっ!」


 佳純が目元を手で拭きながら笑顔でお礼を言うと、にゃ~さんは元気よく鳴いて佳純に答えた。

 そして今度は、陽の目をジッと見つめ始める。


「にゃ~さん……?」

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