第61話「幼馴染みは甘やかされたい」

「そんなに嫌なのか? 元々佳純も、秋実とは仲がいいほうだっただろ?」


 陽の記憶では佳純、真凛、そして晴喜はいつも一緒におり、なんだかんだ仲がいい三人組のように見えていた。

 それは真凛が心優しい女の子なため、さすがの佳純もそんな子相手に酷いことは言えなかったからだ。

 陽でさえ真凛相手にはどうしても強く出られないのだから、陽の真似をしていただけの佳純にできないのも当然だった。


 そして、真凛と佳純は勉強でトップを競い合う仲であり、お互いを認めてあっているライバルのようにも見えていた。

 陽からすれば、晴喜を除けば佳純と真凛は一番仲がいい友達に見えていたくらいだ。


 だから陽はまた真凛と佳純の仲を繋げることができると思っている。

 しかし――。


「あの頃と、状況が全然違うもん……」


 佳純は、どうしても譲れないらしい。


「秋実に嫌われたからか? 確かに今は佳純に対して嫌な感情を抱いてるかもしれないが、佳純から寄り添えば気にしなくなるだろ? あいつは見た目は子供みたいでも、懐は大人よりも広い奴だ」

「そういう話じゃない……。ほんと陽は、こういう時ばか……」


 そう言って拗ねたような表情で佳純は物言いたげな目を向けてきた。

 当然いきなり馬鹿と言われた陽は納得がいかないとでも言わんばかりに不満そうな表情をする。


 その際に撫でる手を止めると、すぐに佳純は陽の手を掴んで自ら動かし始めた。

 撫でることは継続しないと駄目らしい。


「お前、本当になんなんだよ……」


 こんな状況でも甘やかされないと気が済まない幼馴染みを陽は困ったように見つめる。


「甘やかされたい……」

「……いや、そうじゃなくて、秋実と仲良くできないって言ったり、俺のことを馬鹿だと言ったことについてなんだが……」


 相変わらず自分の要求に素直すぎる佳純に対し、若干動揺しながら陽は訂正をする。

 しかし、勘違いをして答えたわけではなかった佳純は陽の服の袖をクイクイと引っ張ってきた。

 どうやら甘やかせと言っているようだ。


「話をうやむやにしようとしていないか……?」

「むぅ……」


 佳純が誤魔化そうとしているんじゃないかと陽が聞くと、佳純は不服そうに頬を小さく膨らませてポカポカと陽の胸を叩き始める。

 そんな佳純の手を優しく掴み、陽は真剣な声で佳純に話しかけた。


「何がそんなに嫌なんだよ?」

「だって、仲良くなんて無理……」

「一応、間に立ってくれる人員として凪沙を呼んでいるが……」

「もっと無理じゃない!」


 凪沙の名前を聞くと、なぜか佳純は凄く怒ってしまった。


「う~ん……じゃあ、佳純はもう俺と行動をするのはやめるか?」


 ここまで嫌だ嫌だではどうしようもなく、そして真凛を優先しないといけない陽にとって佳純がどこまでも譲らないのであれば最終的に切るしかなくなる。


 その最終確認を陽はとうとう佳純へと投げた。

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