第64話「デビュー」

「ほ、本当にいいの!? 今更取り消すとか無理だからね!」


 陽の気が変わる前に佳純は言質を取りにいく。

 そんな佳純に対し、陽は真剣な表情でコクリと頷いた。


「あぁ、本当だ」

「もし嘘だったらにゃ~さんもらうから!」

「にゃ~?」


 突然名前を出されたことでにゃ~さんは不思議そうに佳純を見つめる。

 しかし対して興味がないのか、手をペロペロと舐めた後自身の頭をゴシゴシと撫で始めた。

 陽はそんなにゃ~さんを見ながら、苦笑いをして口を開く。


「お前、にゃ~さんいくらしたと思ってるんだ……」

「陽ならポンポン出せるお金でしょ!」

「人聞きの悪い言い方するなよな……。そんなに欲しいなら、佳純も買えばいいじゃないか。俺と同じ金額どころか、服や美容品以外にはほとんど使ってないから俺より持ってるんじゃないのか?」

「猫じゃなくて、にゃ~さんがいいもん……! てか、服や美容品って陽が思っている数倍はお金が――って、そうじゃない! 危うく話を誤魔化されるところだった!」


 陽に対して文句を言おうとしていた佳純は、話が逸れていることに気付き慌てて話を元に戻そうとする。


 別に陽は意図的に話を変えようとしていたわけではないが、確かに話はにゃ~さんの話題へと移りかけていた。

 だけどそれも、佳純が変なことを言い始めたからなのだが――。


 陽は少し不満を抱きながら、頭をポリポリと掻いて口を開く。


「嘘は言わない。もし約束を守れなかったら、もう一つ要求を追加で呑む……それで手打ちだ。さすがににゃ~さんはあげられないし、そういうカタみたいに扱うのも嫌だからな」

「にゃっ」


 陽の言葉を聞き、にゃ~さんは満足そうに頷く。

 その態度を見た陽はまたにゃ~さんに一言言いたくなるが、それよりも先に不服そうな佳純が口を開いた。


「むっ……にゃ~さんほしかったのに……」

「お前、それ目的が完全にずれてないか……?」

「まぁ、いいけど……陽さえ約束を守ってくれれば。じゃあ、私の要求は――」


 不満そうにしながらも佳純は要求を口にしようとする。


 しかし、言葉にする直前でなぜか思いとどまったように口を閉じてしまった。

 そして、何やら真剣な表情で考え始める。


「どうした? 要求はなんなんだよ?」


 佳純が押し黙ったことで、何か嫌な予感を察した陽はあえて先を促すことにした。

 だけど、佳純は陽の言葉をスルーして考え込む。

 そして、何を思ったのか肩に居たにゃ~さんを腕の中に抱き、首元をくすぐってあやし始めた。


「――ねぇ、陽。なんでもいいのよね?」

「いや、あくまで常識の範囲内だ」

「譲歩は?」

「なるべくする」

「そう。じゃあ――私は、にゃ~さんの動画デビューを求める!」


 佳純はそう言うと、にゃ~さんを陽に見せつけるように抱きあげた。

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