第59話「女子って意外とむっつりだよな」
「――何、急に呼び出して? 私だって忙しいんだけど」
夜、陽からメッセージをもらった佳純は急いで陽の部屋を訪れた。
しかし言葉とは裏腹に、目はとても期待したように輝きながら陽を見つめている。
逆に陽は、あいかわらずの佳純の肌色多めの恰好を前にして目のやり場に困ってしまった。
寝間着にも見えなくはないが、ここ最近のことを踏まえると佳純がわざとそういう服をチョイスしてきているようにしか思えない。
(いい加減この恰好は注意したほうがいいか……?)
どうも陽の反応から味をしめてしまっている佳純を前にし、このままではよくないと陽は思う。
佳純は味をしめると――言い方を変えれば、調子に乗ると何度も繰り返してしまうような子供だ。
下手をすると陽が注意するまで延々と続けることだってありえる。
とはいえ、だからといってそう簡単に言うことを聞く子でもない。
もう甘やかさないと言えばすぐに言うことは聞かせられるけれど、それは陽にとって最終手段であり、あまり使いたくない手だった。
「寒くないのか?」
「これからどんどんと暑くなっていくんだから大丈夫」
「ワンパターンだと、相手に飽きられるぞ?」
「大丈夫、陽の目はそうは言ってない」
遠回しに言ってやめさせようとする陽だが、佳純は自信を持った表情で返してきた。
それに対して陽は言う言葉を無くし黙り込んでしまう。
すると――。
「それか、猫のコスプレ、しよっか……?」
ほんのりと頬を赤らめた佳純が、上目遣いにそう尋ねてきた。
体は恥ずかしそうにモジモジとし、潤った瞳で陽の顔を見つめてくる佳純。
そんな彼女に対して陽は思わず息を呑むが、すぐに我に返り額に手を当てながら口を開いた。
「なんでそうなるんだよ……」
「だって、男の子は猫のコスプレが好きだって……」
「いや、そんな情報どこで手に入れたんだ……?」
「……内緒」
陽の質問に対し、佳純はプイッとソッポを向いてしまった。
答えるのが恥ずかしいのか、それとも陽の反応が不満だったのかはわからないが、佳純がまともなルートで得た知識ではないことを陽は察する。
「変な本ばかり読むなよ……」
「なっ!? 別にえっちな本なんて読んでないから!」
「誰もそんな本とは言ってないだろ。そんな否定のされ方すると逆に疑わしいぞ?」
呆れたように息を吐く陽。
こんなことを言う陽だが、本気で佳純がエッチ系の本を読んでいるとは思っていない。
なんだかんだいって佳純の根はまじめであり、中学時代はエロに関する物のことを凄く毛嫌いしていた。
昔他の男子が陽にそういう話をしようとした際、目の色を変えたように追い払っていたくらいだ。
だから佳純はそういう本を読んだことすらない。
そう思っていた陽だが――。
「…………」
なぜか、佳純は顔を真っ赤に染めて陽から目を逸らしてしまった。
その行動を見て陽は再度息を呑んでしまう。
「まさか、お前……」
「ち、違うの! 別に買ってないから! 他の女の子が無理矢理渡してきたのが部屋にあるだけだから!」
佳純の様子から察した陽の言葉を慌てて佳純は遮る。
そして言い訳を始めるのだが、当然佳純のことをよく知る陽に対して通じる嘘ではなかった。
「いや、そもそもお前に本を押し付けられるような奴がいないだろ」
「…………」
佳純は陽の真似をして他人を突き放す態度を取っている。
ましてや陽と晴喜、そして真凛以外にはとても冷たく接しており、そんな彼女に本を押し付けられるような生徒を陽は知らない。
そのことをツッコまれた佳純は再度気まずそうに視線を逸らしてしまった。
「――秋実といい、女子って意外とむっつりだよな」
いつの間にか興味津々になっている幼馴染みを前にした陽は、思わずそうツッコミを入れてしまう。
しかし、これが自ら地雷を踏みに行く言葉だったことに陽は言ってから気が付いた。
「ちょっと待って。どうしてそこで秋実さんが出てくるの?」
「あっ」
「ねぇ、普段あの子とどういう会話をしてるわけ? 怒らないから教えてよ。ねぇ、ほら早く」
恥ずかしそうにしていたはずの佳純は、陽のたった一言から陽が真凛のことをむっつりだと思うできごとがあったのだと理解し、とても冷たい目で陽の顔を覗き込んできたのだった。
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