第58話「狂気」
「う~ん、正直に言うと、どうしたいのかって自分でもわからないんだよね」
陽の質問に対し、晴喜は困ったように笑みを浮かべる。
少し前まで壊れていたようなものだったため、自分の本心がどこにあるのかわかっていないようだ。
そんな晴喜を見た陽は黙り込み、フェンスへともたれ掛かった。
「根本のことはどう思ってるんだ?」
「どうって?」
「まだ付き合っているフリをしているのは、少なからず根本に気があるからなのか?」
学校で晴喜と佳純は付き合ったままになっている。
本来それに対して陽は口を挟める立場ではないが、佳純と晴喜が望まずにただ状況に流されているだけなら口を挟もうと思っていた。
だからそのための確認である。
しかし、それに対して晴喜は面喰った表情をした。
「まさか、どんな狂気を起こしたら佳純ちゃんを好きになるんだい……?」
「狂気って……一応あいつは、学校で一、二を争う人気者だろ?」
晴喜が酷い言い方をしてきたので、陽はなんとなく佳純のことを庇ってしまう。
すると、晴喜は慌てたように両手を自身の顔の前でブンブンと振った。
「あっ、違う違う! 別に佳純ちゃんに魅力がないってことじゃないんだ!」
「いや、別にそんなに慌てて取り繕わなくてもいいぞ?」
「そうじゃなくて、佳純ちゃんって陽君にゾッコンじゃないか! もうストーカーとしか思えないような行動をしているくらいに君しか眼中にない!」
「やっぱり悪く言ってるんじゃ……?」
「じゃなくて……! 明らかに他の男子に気がある女の子を好きにはならないって言いたかったんだよ……!」
そう言って慌てて取り繕う晴喜。
相手に好きな人がいるから好きにならない――人の心はそれほど単純でもなければ、理性が利くわけでもない。
そして晴喜がもらした言葉から、陽は晴喜が思っていることを理解していた。
(佳純の黒い部分をたくさん見てきたから、好きになることはないってことなんだろうな……)
陽に関わることとなると、佳純は異様な執着心を見せる。
少し前までは学校で関わることがなかったため見る機会はほとんどなかったが、最近は陽が真凛と関わり始めたせいで佳純はよく全身から黒いオーラを良く出していた。
その姿と言動を近くから見ている晴喜からすれば、佳純を恋愛対象として見ることができないのだろう。
「まぁ根本に気がないってことはわかったよ。だったら、お前は今の関係を終わらせたいのか?」
ここで突いても晴喜を困らせるだけだと思った陽は、話を先に進ませることにする。
そんな陽の質問に対して晴喜はコクリと頷いた。
「うん、そうだね。ただ、今別れてしまうと佳純ちゃんに対する周りからの評価が……」
「別に、ただ馬が合わなかったとか、そういう感じになるだけじゃないか? むしろ、根本がフリーになるなら喜ぶ奴のほうが多そうだ」
「いや、あの子が彼氏というおもりがなくなったらどう行動するかなんて、もう目に見えてるよね? それによって周りがどう思うかも容易に想像がつくよ」
「あぁ、それは……まぁ、それも自業自得ってことでいいんじゃないか?」
佳純が行動をして招く自身への被害は、もう本人の責任と言わざるを得ない。
それに対して晴喜が気にする必要はないと陽は思っていた。
「君は凄いね。おそらくモロに被害を受けるのは君なのに……」
「向き合うことに決めたんだ。もう同じ過ちはこりごりだし、秋実の望みを叶えるなら必要なことだと思ったからな」
「なるほど……。ただ、それは本当に真凛ちゃんのことを想ってなのか、それともただ理由付けにしているだけで、本当は佳純ちゃんを優先したいだけなのか……。君の本心はどっちなの?」
「……さぁな」
晴喜から質問を受けた陽はそう誤魔化し、知りたかった答えを知れたことで屋上を後にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます