第21話:タンポンだって絶対じゃないから
「ゲンキ、生理は女の子の大事な日なんだよ? 『これだから』なんて言い方、しないでほしいかな……」
ユウの静かな言葉、その悲しそうな表情に、ゲンキは気圧されるようにうなずく。
「……よかった。ゲンキ、ほんとは優しい人だから、きっとマホの言葉、分かってくれるって思ったよ」
いや、優しいひとっつーか、ユウの妙な迫力に――とは言えず、ゲンキはとりあえず、床で下腹を押さえていまだにうめいているソラタに手を貸す。
「あ゛あ゛……ぎもぢわ゛る゛い……」
下腹部を押さえながら、ようよう立ち上がったソラタは、手近な椅子を引き寄せて座る。
「あ、あのアマ……死にくされ、ちくしょう……」
「ま、マホは四月に電車で痴漢に遭ってから、なんかいろいろ練習してたって、ボク、聞いたことがあるけど……」
「おまえ、よっぽどうまいことタマにクリーンヒットしたんだな」
うめくソラタに、二人が苦笑いをする。
「……あんなヤツにカレシがいるってコトが信じられねえよ……どこのマゾだ」
「それはソラタが怒らせるからだよ……」
「……とりあえず俺、生理中の女子をめんどくさいと思っても、口に出すのはやめとくことにする」
ゲンキのため息交じりの言葉に、ユウは微笑んだ。
「そうだね……。毎月のことだっていっても、そのときの女の子は大変な思いをしてるから気も立ってるし。優しくしてって言いたいわけじゃないけど、少なくともそれをうらやんだり馬鹿にしたりするのは、やめてほしいかな。
――男の子だって、ほんとに体調が悪いときに、仮病だろ、とか、それくらい気合でなんとかしろって言われたら、腹が立つでしょ?」
「そ、そりゃまあ――」
言いかけて、ゲンキは目をそらすと、小さくうなずいた。
「分かった。たしかにそうだな」
ゲンキの言葉に、ユウがさらに顔をほころばせる。
「ありがとう。それに体調のこともそうだけど、経血の処理も面倒なんだよ?」
「ケーケツ?」
いぶかしげなゲンキに、ユウは「血のことだよ」と言い直す。
「そうなのか? 栓して終わりじゃねえの? いつかの保健の時間でやってたよな、手当の仕方。要は出血だろ?」
ゲンキの言葉に、ユウは首を振った。
「おりてくる血はやっぱり普通の血と違ってにおうし、その……べたつくし。たまに、ドロッとした感じだったりするし。保健でやったでしょ? 子宮の壁が剥がれてくるってことだから、ただの血じゃないんだよ。それを押し出すために子宮がきゅってなるの。だから、お腹が痛くなる」
ユウの言葉に、ゲンキが顔をしかめた。
ゲンキはホラー映画の血しぶきなどの描写が好きではない。ゲームなどで飛び散る派手なものは現実味を感じないからいいのだが、傷口からじわじわとしたたるとか、あふれる血が止まらないとか、そういう描写には
たまに学校に来る献血車に、もらえるドリンク目当てに参加はするが、自分の腕から伸びる赤黒いチューブを見るだけでも気分が悪くなるのだから、筋金入りだ。
「それってあんまり言いたくないんだけどさ、つまり内蔵の壁が剥がれて出てくるってことだよな? 結構グロかったりするのか?」
「そういうわけじゃないよ? ただ、指を切ったときに出てくるような、サラサラの血とはちょっと違うってだけ。それに、いつもいつもドロドロの血の塊がでるわけでもないし」
ユウは、下腹部に手を添えるようにして、ため息をついた。
「あと、いくらナプキンが便利だっていったって、寝てるときとか、体動かしたりしたときとかにずれちゃって、下着とか、下手したら服とか汚しちゃうこともあるし」
「……だから、栓するんだろ? そうすればプールだって入れるって、授業で言ってたじゃねえか」
「さっきもマホが言ってたけどさ。たしかに生理は病気ではないけど、腹痛、腰痛、頭痛の状態で、お腹を冷やすともっと痛むんだよ? そんな状態で、好き好んでプールに入りたくなるかな?」
「でも、それでプールに入れるなら入ればいいだろ」
食い下がるゲンキに、ユウはすこし天井を見るような目つきをしてから、たとえ話を持ち出した。
「じゃあゲンキ、今自分がものすごくおなかが痛くて、下痢状態だったとするよ?」
「おう」
「おしりにピンポン玉をつめて栓をすればモレてこないから、いますぐ200メートル走をやれって言われたら、どうする? ただし、大会でも何でもない」
「そりゃダメだろ、走れるわけねえじゃん。たとえ大会だって――」
「ゲンキが言ったこととボクが言ったこと、同じなんだけど、分かる?」
ユウの言葉に、ゲンキはハッとする。
「……悪かったな」
「いいの。分かってもらえたなら、うれしい」
正直言うと、生理って嘘をついてサボってる子もいると思うから、そういうの、普通に生理で苦しんでる子の迷惑だからやめてほしいけどね、と苦笑いした上で、ユウは続けた。
「タンポンだって絶対じゃないから。経験がない子の中には入らない子もいるらしいし、そもそも経験がないからこそ入れるのが怖いって子もいるし」
「タンポン?」
「栓だよ、いまさっきゲンキが言ってた」
「
「そうだよ?」
「
「
ユウに苦笑いされて、ゲンキはやっとソレに思い至ったらしく、珍しくうろたえてみせた。
「そ、そういうこと、か。あ、ああ、じゃあ、その……怖い、かもしれねえな?」
「そうだよ? だってボクも――」
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