第12話:あんなにおっきくなるなんて

 唐突なソラタの言葉に、ユウは悲鳴を上げた。


「ななななに急に言い出すの、こ、こんなところで! ぼ、ボクは見せないよ!?」

「別に見せろなんて言ってねえじゃん。オレとゲンキ、どっちのほうがデカかったかって話」


 当たり前のことのように聞くソラタに、ユウはますますうろたえる。


「ししし知らないよそんなのッ!」

「だってお前、オレたちの見比べてたじゃん。お前が一番じろじろ見てたんだぜ?」 

「じ、じろじろって! ぼ、ボク初めて――た、他人の、その……お、お、おちんちんを見るのが、初めてだったからびっくりしてただけで!」

「びっくりってか、じっくり見てたじゃん」

「じ、じっくりなんて見てないよ!」


 首をかしげるソラタに、ユウがうつむきながら小さく叫んだ。「見てたじゃん」と、ソラタは笑う。


「ま、どうでもいいけどさ。どっちがデカかったかって聞いてるだけだろ?」

「だから、そんなの言えないよ! そういう質問、セクハラだって分かってる!?」

「なに言ってんだ、男同士だろ?」

「お、お……男同士だってセクハラだよ!」


 不思議そうな顔をするソラタに、ユウは目をそらしながら訴えた。


「お、おち……んちんの大きさなんて普通、聞かないよ! プライベートゾーンだよ!?」

「プライベートゾーンって、要はオッパイとかチンコとかケツとか、本人以外に触らせない場所のことだろ? その本人が聞きたがってるんだから、セクハラでもなんでもないんじゃね?」

「それをボクに言わせようっていうところがセクハラなんだってば!」


 たまりかねたように言ったユウだが、ソラタはそんなユウの反応が、いちいち興味深いらしかった。


「男同士だろ? 触ったわけでもねえし、何が問題なんだ?」

「たとえ同性でも、プライベートゾーンのことをしつこく聞いたり言わせたりするのはセクハラだってば!」

「ユウは優等生だなあ。オレらトモダチだろ? それくらい、別にいいじゃん」

「トモダチだって、いやなものはいやなの! じゃあソラタは、お……お、おちんちんのこと、ボクが聞いたらいやだって思わない? 思うでしょ?」


 ユウに問い返され、ソラタは少し考えるように、遊具にぶら下がりながら揺れていたが、やはり首をかしげながら答えた。


「……別に? ユウはトモダチだし、男同士だし、別に隠す必要もねえだろ?」

「ボクはいやなの!」

「……変な奴だな?」

「変じゃないよっ!」

「変だって」


 ソラタは遊具に逆さまにぶら下がって笑いながら答えた。


「だって、別にお前のを見せろなんて言ってないじゃん」

「大きさを言わせるなんてセクハラだよ! どう考えたって!」

「なんで? ゲンキとオレ、どっちが大きかったかジャッジしてくれって言ってるだけだぞ?」

「だからボクにそれを言わせないでってば!」

「ただ見たままの感想を言うだけだろ? なんでそんなに言いたくないんだ?」

「なんでボクに言わせたいの!」


 地団太踏む勢いで拒否するユウを、ソラタは不思議に思っていた。

 別に股間のモノの大きさを何としてでもユウに言わせたい、などと思っていたわけではなかったが、ここまで拒否されるとは予想していなかったのだ。


 自分の小、中学時代を振り返っても、男同士の股間ネタは笑いを取るものでしかなかった。別に大して恥ずかしがるものでもなかったからである。


 今だって、ネタにしているのはユウではなく、ソラタ自身とゲンキのモノだ。

 そしてユウは、その二人が自分で勃起させたものを、まじまじと観察した張本人。ソラタが席を外してから部屋に戻ったときなど、ユウはゲンキの股間に顔を寄せて観察中で、しかもその勃起したものをつつこうとすらしていた。


「だって、オレとゲンキのをじっくり見比べたことあるの、お前しかいないし」

「見比べた、だなんて、そんな言い方しないでよ!」

「事実じゃん。だってあのときユウはさ、ゲンキのチンコアレに顔近づけて、まじまじ見てただろ?」


 あれは絶対、セクハラどころの話じゃないとソラタは思う。

 自分がズボンすら脱がなかったのだから、見比べた感想くらい、聞かせてくれたっていいのに――ソラタがこだわって聞き続けるのは、そこが不思議でしょうがなかったからだ。


「あ、あれは! あんなにおっきくなるなんて思わなくて――」

「だろ? で、オレとゲンキ、どっちがデカかった?」

「だからゲンキのほうがすごかったなんて言えないよ!」


 語るに落ちるとはまさこのこと――ユウは叫んでしまってから、自分が何を口走ってしまったのかを理解したらしい。顔をおおって、しゃがみこんでしまった。


「ちょっ……あ、あああ、もうやだソラタ最低だよ!」

「ゲンキの方がすげーって言い方するってことは、やっぱゲンキの方がデカかったか。短距離選手ってのは、長距離のオレとは筋肉の付き方が違うのかもなあ」


 ベルトを緩めてごそごそと股間をのぞくソラタに、「やめなよ!」とユウは悲鳴を上げる。


「そ、そんなに変わんないよ! え、えっとなんていうんだっけ、えっと、……き、亀頭きとう一個分くらいで――」

「その差はけっこうデカくね? でもゲンキの方がすごかった、かあ。やっぱユウもでかい方がいいって思ってたんだな」

「や、やめてよ! やっぱりソラタ、最低だよ!」


「俺のなにがすごかったって?」

「ひやああああッ!?」


 ぬっと後ろから現れたゲンキに、ユウは悲鳴を上げた。

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