第7話:ね、使ってみせてよ、TE〇GA

「……TE〇GAの使い方なんて、そのまんまじゃねえか」

「だ、だって、使い方が分かんなくてさ!」

「分からないって、そのまんまじゃねえか」


 そして、ゲンキは気づく。

 使い方が、分からない?


「……お前、TE〇GA、買ったの?」

「え?」

「使い方が分からないって、つまり、買ったってことだろ?」

「だだだだって、ゲンキ、使ったことあるって言ったじゃん! どんなものかって、興味が湧いて、でもおっきくて、あんなもの入らないし!」

「入らない?」

「ああああええええっと! とと、とにかく! どうすればいいの、アレ!」


 ひどく挙動不審になったユウは、高校のサブバッグを開ける。

 中から、例の、見慣れた赤い物体を取り出すと、勢いよくゲンキの目の前に突きつけた。

 ゲンキより頭半分ほど背が低いユウの手には、妙に大きく映る。


「……普通のやつだよな?」

「ふふふふつうってなに!? もっとおっきいのがあったりするわけ!?」

「知らねえけど、いいから貸せよ」


 ゲンキはため息をつきながら、「いいか?」と説明を始めた。

 それをひっくり返し、平らな面を見せる。


「底の部分に、突っ込むための穴があるんだよ」

「な、ないよそんなの!」

「開封してないんだから当たり前だろ?」


 ゲンキは慣れた様子で、側面のミシン目から包装を破る。


「こうやってカバーを破って、底のキャップを取るんだよ」


 べりべりと破っていくと、白い底面が現れる。


「このキャップを取ったら、ほら。ここにつっこむだけ」


 パカッと開けると、つう……とローションが糸を引く。ぷるぷるとした触感の底の真ん中に、小さな穴が開いている。


「……え? こんな小さな穴に入れるの?」

「伸びるんだよ、ほら」

「……ほんとだ」

「あと、てっぺんに穴が開いてる。突っ込んだあと指でふさいでみろ、引き抜くとき真空状態になって、すげぇことになるから」

「すげぇこと?」

「やってみりゃ分かる」


 しばらく、指でつついたり広げたりして、「わー、ぬるぬる~」などと言っていたユウに、ゲンキはため息をつきつつ、立ち上がって言った。


「それ、使い捨てだから、使ったあとはさっきのキャップをはめて捨てるんだ。……じゃあ、俺、帰るから」

「ま、ままままってよ!」

「ん? もう説明なら終わったぞ? 開封しちゃったんだから、早目に使えよ?」

「ま、まってってば!」


 ユウが、ゲンキの手を掴む。


「なんだよ、まさか使い方が分からないから見ててくれ、とか言うんじゃないだろうな?」

「ち、ちが――」


 顔をぶんぶん振ったあと、ユウは視線を落とし、瞬時ためらい、そして、続けた。


「つ、使って見せてくれない?」

「……はあ?」

「ほ、ほら! ゲンキのなら、このまえ、三人で試したとき、見たじゃない? だ、だから参考になるかなー、なん、て……」


 なんだか顔を赤くしているユウに、ゲンキもなんだか妙な気分になってくる。


 ……こいつ、何考えてんだ? 俺のオナニーするところを見たいってことだろ?

 コイツ、まさか男が好きなのか? いわゆるLGBTQの、Gってやつか?

 頭の片隅にそんな考えが湧き起こってきて、ゲンキはしかし、頭を首を振る。本人がカミングアウトしてないのに、決めつけるのはよくないよな――


「……いや、確かに使ってるけど、そんなもん、誰だって使えるから。俺が参考に見せなくたって、自分のモノ、ここに突っ込むだけだから」


 そう言って、ユウの手からそれをひったくるようにすると、スマホのライト機能を入れてから、入り口をぐいっと広げて中を照らしてみせた。


「よく見な。ほら、奥の方。真ん中らへんが、ぷ〇ちょグミのボトルみたいな感じになってつぶつぶになってるとこ。その奥もつぶつぶとかざらざらとか。うん、コンニャクなんかよりよっぽどすげぇ。専門メーカーの気合だよな、ここまでくると」


 言葉の出ないユウに、ゲンキはライトを消してソレを返す。

 ユウは、それを両手で受け取ると、あらためてしげしげと眺めまわした。


「さっきのつぶつぶが、中にあるんだよね……?」


 そう言って指を突っ込む。

 うわあ、すっごいざらざらする、これでおちんちんをこするの? 痛くない? ぬるぬるだから大丈夫なの? などと、なぜか妙に楽しそうだ。


「ね、使ってみせてよ、TE〇GA。せっかくゲンキのために開封したんだからさ」

「俺のため?」

「あ、……えっと、あ、いや、……その、……ほら、ゲンキが開けてくれたんだから、一番風呂みたいな感じで、まずはゲンキかなー、なんて……。ぼ、ボクはゲンキが帰ったあとでいいから……!」

「余計なこと考えなくていいから。お前がカネ出して買ったんだろ?」

「で、でも、使い慣れてるんでしょ? そ、それを参考にするから……」

「……だから、突っ込むだけだって」

「でも、でも使うところ、一回だけ見せて! さ、さきっちょだけでいいから!」

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