第5話:コンニャクにフォークでスジを付けて

「……ねえ、いつまでソレ、着けたままにしておくの?」


 ユウが、ゲンキの股間をちらちら見ながら問う。ゲンキは思い出したように、そのしぼんだものからコンドームを引っ張って外した。


「うわー、ゴムくせえ」


 そして、自分のものをつまんでみる。


「なんかぬるぬるする、自分のやつじゃない気がするな。たぶん、油みたいなのがぬってあったんだろうな」

「箱にはローション付きって書いてあるよ?」

「へー、やっぱ外しやすくするためかな?」

「ゴムだから、こすれて痛くなるのをふせぐためじゃないかな?」


 ユウはしばらく、頬を染めたままゲンキのものを凝視していたが、「……それ、もう一度、おっきくできる?」と上目遣いにゲンキを見つめた。


「……抜いてねえからそりゃすぐできるけど、お前、人に言うくらいなら自分のやつ立てりゃいいじゃん」

「じ、自分のはその、……見慣れてるからいいんだよ! どうせ減るもんじゃないし、見せてくれたっていいでしょ?」


 ユウの言葉に、ゲンキはさきほどのソラタとの会話を思い出す。


『俺らサイズで「こんなに大きい」っていう言い方するってことは、アイツ、よっぽど小さいのか?』


「……言っとくけど、俺、たぶんフツーサイズだからな?」




「みろ! コンニャクにフォークでスジを付けて完成したパワーアップタイプだ! これでこすればきっと気持ちよさが倍増で……って、なにやってんだおまえら」


 ソラタが目撃したのは、あぐらをかいて自分のものをおっ立てているゲンキと、伏せた猫のようにゲンキの股間に顔を近づけ凝視しながら、その尖端の海綿体部分をおそるおそるつつこうとしていたユウの姿だった。


 悲鳴を上げて飛びのくユウに、ソラタがコンニャクを見せる。


「なんだ、ユウもやっとヤる気になったか? みろよこれ! フォークでひっかいて、ヒダを作ったんだ! これなら絶対イイぜ! お前、やってみる?」

「い、いい、いいよ、いらない! ソラタが使えばいいじゃないか!」


 真っ赤な顔でぶんぶんと首を振りまくるユウに、ソラタは大して気にした様子もなくゲンキに差し出す。


「そうか? ゲンキは?」

「TE〇GAの方がいいってわかったからもういい」

「この金持ちブルジョア野郎め! まあいいや、よし今度はコンドーム外してやってみよう!」


 そう言って、ソラタはコンドームを外すと、再びコンニャクで挟む。


「ひょぁあうぁあっ!?」


 またしても珍妙な感嘆を挙げたソラタ。


「す、すげえ、すげぇよこれ! なにコレ、フォークでひっかいたヒダヒダが絡みつく!」

「……そんなにいいのか?」

「だ、だってさっきは、つるつるの板二枚で挟んでただけだろ? これ、マジでやばい!」


 再びみなぎる力でマックスパワーを発揮し始めるソラタに、ゲンキもユウも、「うわぁ……」という顔を隠せない。


「……俺もヒートアップした時は、あんな感じなのかー……」

「知りたくなかったね……」


 顔を引きつらせながら、今さら思い出したようにパンツを上げ、ズボンを履くゲンキ。


「本能むき出しの状態で許せる顔って、ご飯を食べてる顔と、寝顔だけだね……」


 ユウなど、完全に引いている。

 それを知ってか知らずか。


「ソラタ、イッきまーす!」


 ソラタが、満を持して水門の解放を宣言した、その直後だった。


「い……いて、いてて……いってェええええ!?」


 再びソラタは、股間を押さえてしゃがみこんだ。


「お、おい、大丈夫か!?」

「さ、先っちょがいてえ! チクチクする!」


 股間を押さえて悶絶するソラタだが、下手に介護しようとして暴発されてもイヤな二人は、うかつに手を出せない。


「いつから痛むんだ?」

「さ、さっきからずっと、だったけど、でも、途中でやめたくなくて、出しちまえば一緒に出て大丈夫かなって……!」


 ソラタの馬鹿なチャレンジに、ゲンキとユウは顔を見合わせてため息をつく。


「……心配して損したね」

「これが食い物を冒涜した罰か」

「……やっぱりコンニャクはだめだね」

「TE〇GA最強ってことか」

「おまえらっ! 助けろよッ!?」



 三人は知らなかった。

 コンニャクの黒いつぶつぶは、昔のコンニャク芋の皮の風合いを再現するためにわざと混ぜ込まれている、「ひじき」を粉砕した粒であるということを。


 つまり、わざわざフォークで表面を荒らしたうえ、コンドームを取り外してしまったソラタのモノの尿道口からひじきの小片が侵入したことが、最終的な痛みの原因であった。

 さらにひじきの小片によって性器全体が傷ついたためか、はたまたコンニャク芋が持つ有害物質「シュウ酸カルシウム」によるものなのか、ソラタは数日間、かゆみを訴え続けることになった。


「あんときは、普通のコンニャクだったからダメだったんだ! 今度は白いコンニャクを買って来たから、そっちでやろうぜ!」


 後日、懲りないソラタの発言にのっかってホイホイと彼の家に行く者は、居なかった。

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