第4話:コンニャクとTE〇GAじゃ

「で、二人ともどうするの? このあと」


 ユウの素朴な疑問に、コンドームを装着しておっ立てたままの二人は、顔を見合わせた。目的は達成した、このまま終わるべきだろう――ゲンキは、じゃあ何のために付けたんだと馬鹿馬鹿しい思いを感じながら、外そうとした。

 ところが、ソラタは、どこまでも期待を裏切らぬ男だった。


「なあ、コンニャクを使う方法って、聞いたことねえ?」


 ソラタの言葉に、ゲンキもユウも顔を見合わせる。


「……いや?」

「なんかさ、人肌に温めたコンニャクって、近いんだってさ」

「近い? 何に近いの?」

「バカ、決まってんだろユウ。女の子のアソコの感触だよ!」


 ソラタは自信たっぷりに言うが、もちろん二人とも顔を見合わせ、信じる様子はない。


「バカはお前だろ、なんでコンニャクと女の子のアソコがおんなじなんだよ」

「ひょっとして試してみたこと、あるの?」

「そんなこと一人でできるわけねえだろ、コンニャクに突っ込むなんて、そんな虚しそうなこと。お前らがいるからやってみたくなったんだ」


 ゲンキもユウも顔を見合わせ、ため息をつく。

 こんな馬鹿に付き合っていたら、自分たちまで馬鹿が感染しうつりそうだ、と。


「コンドームの次はコンニャクを買ってくるのかよ。男三人でコンニャクを買いに行くって、いよいよ頭がおかしい奴に思われる」

「よし、冷蔵庫見てくる! コンニャクがあったらついでにあっためてきてやるから、ちょっと待ってろ!」


 ソラタは自分の提案にいたく満足したようで、二人が止めるのも聞かずに部屋を飛び出した。


「……マジかよ」

「コンニャクってホントに――お、女の子のアソコとおなじ感じなのかな?」

「おーいユウ、バカが感染しうつってるぞ」

「だ、だって、気にならない?」

「コンニャクだぞ? TE〇GAじゃあるまいし、同じでも、ましていいわけでもないだろ」


 ゲンキが投げやりに言うと、ユウはきょとんとした。


「テ〇ガって、なに?」

「T〇NGAはTEN〇Aに決まってるだろ。――お前、ドラッグストアに行ったことあるだろ? コンドームとか売ってるところにある」

「ボク、そういうとこ通る時、見ないように早歩きで通り過ぎるから」


 ユウの言葉に、ゲンキがさらに呆れる。


「マジか、お前……。まあいいや。TE〇GAはさ、コンドームとか売ってるところに置いてある、赤と白のシマシマの物体だ」

「何に使うの?」

「お前、マジで言ってんの?」


 ゲンキが珍獣でも見るような目でユウを見る。


「……だって知らないモノは知らないんだもん、仕方ないでしょ?」

「神よ聖杯に最も近い男がここにいますが、今から汚れるので忘れてください」


 そのとき、ソラタが鍋を抱えて飛び込んできた。「できたぞ!」と、得意満面である。

 その手の鍋はほのかに湯気が立ち上り、中には黒々としたコンニャクが、真ん中にスリットを設けられて沈んでいた。


「……マジで使うのかよ?」

「おう! こんな時じゃねえと実験できねえじゃん! いやあ、コンニャクがあってよかったぜ!」


 取り出したコンニャクでお手玉をするソラタ。とりあえず熱いらしい。


「……どうやって使うの?」

「よく見ろよユウ、ここに切れ目入れてあるだろ? この中につっこむんだよ! よし、俺んちのコンニャクだから俺が一番な?」

「いやお前だけでやってろよ」


 呆れるゲンキに、「そんなこと言ってると、貸してやらねえぞ?」と言いながら、ソラタがすでにしぼんでいたモノをもう一度奮い立たせる。


「よし、ソラタ! いっきまーす!」

「おーイけイけ、そのまま昇天しちまえ」

「いざ行かん約束の地へ! ってか、あったか……」

「……どう?」

「って、あっちぃぃぃいいいいいいッッ!?」




 悶絶していたソラタを尻目に、投げ出されたコンニャクを拾うゲンキ。


「……コンニャクにも、穴はあるんだよな……?」

「やめときなよ、ソラタがつっこんだやつだよ?」

「考えてみれば、コンドーム着けてるんだから構わねえよな?」

「だからやめときなよ……」

「ものは試しだし、やってみよう。……あ、ちょうどいいくらいに冷めてら。ご苦労、ソラタ」


 ゲンキはコンニャクを手にして、しかしはたと止まる。


「……どうすりゃいいんだ? 真ん中に切れ目が入ってるけど、ここにぶっ刺したって……」


 ゲンキはしばらくコンニャクを手にしてあれこれいじくっていたが、ひらめいたらしい。

 真ん中に作られた縦のスリットを中心にして折り返し、折り畳み財布のようにすると、そこにあてがったのである。コンニャクの真ん中に突っ込んだうえで、サンドイッチにしてしごく、といったところか。


「ぅおっひょあっ!?」


 直後に奇声を上げるゲンキに、ユウが驚く。


「ど、どう?」

「え、女の子の中ってこんな感じなの?」


 ゲンキは、なんともビミョーな顔をした。折りたたんだコンニャクをつかんで何度かこすっているが、やがてつまらなそうに引き抜く。


「どうだったの? 女の子っぽかった?」

「……コンニャクとTE〇GAじゃ、TE〇GAのほうがいいかな?」

「夢も希望もないこと言うなよ!」


 復活したソラタが、コンニャクをひったく――ろうとしたが、互いに手を滑らせてコンニャクを落とす。

 べちゃっ、と床に落ちたそれを拾うと、お湯の中に放り込んだ。


「TE〇GAなんて1個1000円ちかくするじゃねえか! コンニャクだったら安いだろ、高校生の財布に優しいコンニャク、最高じゃねえか!」


 そう言ってソラタもコンニャクを装着。今度は熱すぎなかったようで、「ぉうっふぉう!?」と奇妙な感嘆の声を上げると、手を滑らせながらもさっそくマックススピードモードに突入する。


「……あれがオナニー覚えたての猿ってやつか」

「哀れだね、哀れすぎるよ」

「うるせえっ!」


 叫んだところで滑って落とす。いつのまにかコンニャクは半分裂けていた。


「ユウ、次お前の番」


 ゲンキが言うと、ユウはふたたび顔を真っ赤に染め、首をぶんぶん横に振って拒絶した。


「二人が使った後にボク!? 嫌だよ! 第一、さっきからボク、嫌だって言ってるでしょ!」

「じゃ、オレが使う! ウチのヤツだし、もう最後までイッちゃっていいよな!?」


 ソラタはコンニャクをもう一度湯の中に放り投げると、「いいこと思いついた!」と、鍋を持って部屋を飛び出した。

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