第3話:毛、毛を巻き込んだみたいで……

 ユウの爆弾発言に、ゲンキもソラタも沈黙する。


「……あ、いや、……その……ほら、ゲンキって結構、体格いいでしょ? その、……ど、どんなふうなのかなって、興味あって……」


 ますます場の空気が凍り付く。ゲンキの勃起したモノなら見たい――そんな言い回しを受けて、ゲンキはしばらく口を開くのもためらわれたが、さすが言い出しっぺのソラタは、かろうじて話題をすすめる。


「……え、ええと……んじゃ、ホラ、えっと、人それぞれサイズにも個人差があるだろうし、それをお互い見合って、実地訓練で乗り越えようぜ! で、どうする?」

「陰茎を勃起させて、そこに表裏に注意しながら空気が入らないように被せ――」

「ンなことは知ってるよユウ! だれが、どうやっててて、着けるんだよ」


 教科書通りのことを言い始めたユウに、ゲンキが呆れて声を上げた。


 三人は、ともに、互いの股間を見やる。


「……動画?」

「え、三人でそれぞれスマホで動画見て抜くときみたいにヤるの……?」


 三人が再び互いの股間に注目するが、誰もズボンはもちろん、チャックも下ろさない。


「じゃあ、三人同時にズボンを下ろすってことで。さん、に、いち……なんで誰も脱がねえんだよ!」


 ソラタの抗議に、ユウもゲンキも反対する。


「……なんでアソコを見せ合わなきゃならないの? ボクいやだよ?」

「お前が着けてみたいから来いって言ったんだろ! わざわざコンドーム買ってまで!」


 二人の抗議に、ソラタが箱から三個、連続してくっついている包装を取り出す。


「だって着けてみたいじゃん!」

「それに巻き込むなって話じゃねえか!」

「もう買っちまったんだから付き合えよ!」


 醜い争いののち、ゲンキがぽつりと言った。


「……お前ら普段、何見て抜いてんの?」

「え゛……?」


 ソラタは胸を張ってみせた。


「オレはもちろんポルノハ……」

「いろんな意味でアウトォォ――ッ!」

「俺はエックスビデ……」

「ゲンキもアウトだって!!」

「じゃあユウは何で抜いてんだよ」


 口をとがらせるソラタとゲンキに、ユウはさらに頬を赤らめる。


「ボクは……えっと、その……」


 ユウはしばらくきょろきょろとしていたが、本棚に目を止めると急に思いついたように胸の前で手を合わせた。


「マ、マガ〇ンの水着アイドル、かな……?」

「こ、コイツ著作権をクリアして、しかもちゃんとカネを払ってやがる!?」

「エロじゃなくて水着アイドルで抜けるって、お前どんだけ清純派なんだよ!」

「何言ってるんだよ、ふたりがエロに走りすぎなんだよ!」




「……で、どうするんだ? ナニでタテるんだよ?」


 それでまた紛糾したのだが、最終的にはソラタおすすめの人に言えない海外サイトを参照することになった。しかしもっとも興味津々にスマホをのぞき込んでいたユウは、最後の最後まで抵抗して、ズボンを脱がなかった。

 脱がなかったくせに、二人の勃起したものをまじまじと見つめるものだから、ゲンキもソラタもばつが悪くなる。


「お前もさっさと脱げって!」

「だから嫌だよ!」

「だったら理科の実験みたいに観察するんじゃねえよ!」

「だって初めて見たんだもん!」


「……は?」


 二人が目を見開いて凝視してくるのを見て、ユウがてをぶんぶん振って釈明する。


「え、あ、あの、……ええと、ええと……。あ、ほら! えっと、――他人のものなんて、その、こんな近くで見ないでしょ、普通!」

「親父とか修学旅行とかスーパー銭湯とか、見るときはいくらでもあっただろ!」

「だってそんなにおっきくなるなんて、思ってなかったんだよ!」


 真っ赤な顔をして訴えるユウの言葉に、ゲンキもソラタも顔を突き合わせてひそひそと言い合う。


「……おい、俺らって、たぶん、フツウサイズ、だよな?」

「立てたとこを他人と比べたことないから知らねえけどな」

「さっきの動画、外人だからデカイだけだよな?」

「多分そうだと思いたいけどな?」

「俺らサイズで『こんなに大きい』っていう言い方するってことは、アイツ、よっぽど小さいのか?」

「……そういうことなのかもしれねえな?」

「……デカくないとモテないって、よく広告に載ってるよな? 漫画のでも、動画のでも」

「……だよな。じゃ、どうしてもズボンを脱がなかったってことは、つまりアイツのは……」

「……だよな……。つまりアイツの将来は……」


「……ちょっと。なんでそこで二人して哀れっぽく見るの!? ……って、なんで慰めるみたいに肩を叩くの!? ボク、なにか慰められるようなことした!? いくらボクの背がちょっと低いからって、その扱いは不当じゃないかな!?」




「ええと、先っぽの『精液溜め』をつまんで、空気を抜くんだよな?」

「てか、つまみながらだよ、手を離すなって」


 ソラタのぎこちない手付きに、ゲンキが先端部分だけかぶせた自分のモノを見せつける


「あれ? お前なんでそんなキレイに着けれたの?」

「だから、輪の縁に指をかけるようにして下ろしてくんだって」


 ゲンキが、ゴムが巻かれているふちに指を引っ掛けて下ろしていく。スルスルと巻き上げたり巻きおろしたりしてみせた。


「ほらな?」

「動かねえよ、なんでかなあ」

「よく見ろお前、表裏が逆じゃねーか」


 ソラタは笑うと、被せかけていたものを外して着け直す。


「あ、ホントだ。なんだ、簡単じゃん」


 ゲンキの真似をしてか、コンドームを下ろしたり巻き上げたりしていたソラタ。だが、突然悲鳴が上がる。


「どうした?」

「毛、毛を巻き込んだみたいで……いてぇ!」


 ソラタが、悶えながら下ろしたり巻き上げたりしている。だがますます絡んでいくようだった。


「助けてくれ!」

「嫌だ」

「触りたくないよ、ボクもパス。自分でなんとかしてね」


 即答する二人に、悶絶しながらソラタが叫んだ。


「お前らなんざ友達じゃねえ!」

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