性教育:試行錯誤編
コンドームとコンニャクと
第1話:以上が、コンドームの付け方です
「……以上が、コンドームの付け方です。では、各自、練習を始めてください」
「センセー! 袋と一緒に破れました!」
「どれだけの馬鹿力で破ったんですか!」
「……先生! ムツキさんが表裏を間違えました! どうすればいいですか」
「練習ですから、かまいません。外して、もう一度やり直しましょう」
「だからあ、表裏を間違えるとうまく被せられないんだって!」
「見分けつかんないよ、どこ見ればわかるわけ?」
わいわいとざわめく中、生徒たちはコンドームの装着を進めていく。
「ゲンキくん。ねえ、あたしの、うまく着けれてる?」
「オッケーオッケー、完璧! マナカは?」
「なんかねあたし、上手に被せれない、途中で絡んじゃって。なんでゲンキは上手にできるの?」
「そーいうときはさ、いちど巻き戻すといいんだよ」
「……使ったことあるの?」
「ねえよ!」
プラスチックの、試験管を逆さまにしたような棒に、生徒たちは四苦八苦しながら練習を続ける。
「センセー! なんかなんもしてないのに破れた、予備ちょうだい!」
「だから爪を丸く切ってやすりをかけてきなさいって言ったでしょう?」
「だってマジでつける練習するなんて思ってなかったし」
「先生はちゃんと言いました」
担任がため息をつきながら、予備のコンドームを渡す。
「今、爪を切ってあげましょうか?」
「全然ダイジョーブっす」
「……ねぇマホ、男のアソコって、まじでこんな形なの?」
「ぜんぜん違うって、こんなタンポンの先みたいな形じゃなくて、なんかこう、ほら、確か先の方がボールみたいに膨らんでて……?」
「そーそー。そんで、なんか触ると硬めのグミって感じでさ」
「え……ヒマリちゃん……なんで感触、知ってんの?」
女子が変なカミングアウトをしてしまった者を囲むようにきゃいきゃいと騒ぐ中で、男子は男子でファンタジー全開に槍合わせをする。
「おいゲンキ、着けれた?」
「カンペキだって、ほら見ろよ」
「結構ぴったりって感じだよな、これもっと太い奴、キツくねえのかな?」
「え、こんなもんじゃね……えーっと、……うん、多分こんなもん」
ソラタが空中で、何やら右手でナニかをつかんでこするような仕草をしながら答える。
「え、ソラタお前それ細くね? 俺ならこんな感じだから多分キツいな、間違いねえ」
ゲンキが同じように、ただし右手をCの字にして空中で振りながら笑った。
「ゲンキお前それ盛りすぎだろ、コレの倍くらいじゃねえか。嘘つくんじゃねえよ」
「太さはともかく、俺だと半分くらいしか被せれねえな。ロングサイズとかあんの?」
「ソラタ、そんなに長かったら入りきらないよ、絶対。この前の授業でイラスト見たよね、女の子の中ってそんな奥までない――なさそう、だよ?」
ユウは、保健の教科書をめくりながら言った。
ややあって見つけたイラストを指差し、「ほら」と訴える。
それを見て、ソラタは馬鹿にしたように笑ってみせた。
「ユウ知らねえの? 女のアソコって、奥に伸びるんだぜ?」
「奥って言ったって、……もう、やめてよ。そんな話──」
ユウが顔を押さえて耳まで真っ赤になりながら首を振る。それを面白がって、ソラタがさらに続ける。
「嘘なんかついてねえよ。ユウはなんにも知らねえんだな。こじ開けて奥に入れれるに決まってんじゃん。あそこから俺たちは出てきたんだぞ。びよーんて伸びるにきまってる」
その時、丸めた教科書がソラタの頭をぽんとはたく。
ソラタが見上げると、口の端がへんに曲がって、どう見ても笑顔で怒りを抑えている担任がいた。
「ソラタくん? 先生、前に言ったでしょう? 子宮口は、普段は――」
「……ええと、普段はパスタ一本分くらいの隙間しかありません」
ユウが、顔を隠しながらも前時の学習で先生が口頭でのみ言ったことを返す。
「――そうね。そのとおりです。女の子の体を、スポンジかなにかだと思わないでね」
「普段は、だろ? だったら――」
「赤ちゃんを産むときには広がりますけど、それ以外のときは広がりませんからね?」
まだなにか言いかけたソラタに、宇照先生はずいっと顔を近づけた。
「またへんな漫画にだまされないでね?」
「またってなんすか!」
「預かっているもの、親御さんを通して返してあげよっか?」
「ちょっやめてそれマジで勘弁して!」
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