終章
【end】α - alpha
光の球が机の上に浮いている。
夜。
程よく室内が照らされるように光の量をモジュレータで調整する。『照明』の魔法は、今の私が唯一使えることができる魔法だ。
何日も練習をしてようやく自由に使うことが許された。
両手を光の球に近づける。
温かい。
蝋燭の火とも太陽の光とも違う──月明かりに似ているかもしれない。その光はやさしく儚い。
机に向かい、考える。昼間に学院のベンチで会ったリットという子のことを。
彼女の白い瞳を思い出す。
とても神秘的で真珠のように美しい瞳。金色の髪は日の光を浴びて輝いていた。でもその表情は、ひどく沈んでいた。
まるであの頃の私のよう。
泣くリットを見て、お父さんを失って一人ぼっちになった時のことを思い出した。
寂しくて。
ただ、寂しくて。
それなのに、他人の温もりが恐ろしかった。人を避けるようになり、すべての言葉は歪んで聞こえた。どんなに優しい声をかけられても、痛みしかもたらさなかった。
悲しみはやがて過ぎ去る。
両親のことを思い出しても、昔ほどはつらくない。
それは、記憶が薄れてきているのではなく、私が成長しているからだと思いたい。大好きなお父さんとお母さんは、死んでしまったけれど──私の中にいる。
目を閉じれば。
思い出が溢れてくる。
私はまだその度に泣いてしまう。
でも今は、悲しみよりも懐かしい気持ちの方が強い。流れる涙は温かくて、余計に悲しくなるだけの冷たい涙はもう出てこなくなった。
お父さんを傷つけてしまった力。
今度はこの力を正しいことに使いたい。私はα(アルファ)だ。学院を卒業して、魔法士としてやっていくのは難しい。
ラーチェ先生は、下位の三ランクには差はないと言ってくれたけれど、勉強をすればするほど、そうとは思えなくなっていた。α(アルファ)が使える魔法はとても少ない。
ライザ様がα(アルファ)は覚醒すると教えてくれたけれど、私にもその時が来るのだろうか。
覚醒には記憶を失うリスクや、時には死んでしまうほどの苦痛を伴うらしい。私の場合は、どうなるのだろう。
痛みに耐えた後、私は私でいられるのだろうか。
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