第9話 眠れない夜

 階段を降りる足取りは、少しばかり重いように感じた。

 俺は、不死宮さんに嫌われてしまったのかな。

 まだ少しくらいしか会ったことないけど、あんな不死宮さんは初めて見た。俺を避けているような、そんな感じがして、意外と傷つくんだな。


「はぁ」


 それに、もうすぐ退院ってことは、不死宮さんとはもう会えないってことだよな。まぁ、お見舞いに行けば会えるだろうけど、俺全くの部外者だからなぁ。あの看護師のことだ、通してくれなさそう。


「はぁ」


 俺は独り言のような大きな溜息を吐き、自分の病室のある三階に降り立った。



 その夜、ベッドに寝る俺の頭の中は、不死宮さんに嫌われた理由の模索でいっぱいで、お陰で目が冴えて眠れないでいた。


 やっぱり、学校に行けなかったからかな? そもそも、病室から出ることすらできなかったからな。でもまた挑戦すればいいだけだと思うけど……。


「はぁ……わからねぇ……」


 薄いカーテンから透ける月の灯り、天井がほんの少し明るくて、俺はそれをずっと眺めている。

 いくら考えても、不死宮さんに嫌われてしまった理由がわからない。

 俺は病室の扉を見つめた。少し期待している。また、不死宮さんが病室の扉を開けて入って来るんじゃないか、そして、俺の血を吸ってくれるんじゃないかと。


 だけど、そんな期待は、長針が5時を差して寂しく終わった。


 一睡もできていない俺は、目がギンギンで、今さら寝ようとしても朝日が眩しくて邪魔されている。

 朝の8時と時間は過ぎ、妹尾さんが朝食を運んで来た。


「2日後に退院だし、もうそれは取っちゃおうか」

「そう言えば俺、退院するなんて聞いてなかったんですけど」


 昨日不死宮さん言われてびっくりした。もともとそんなに大怪我じゃないし、すぐには退院するだろうとは思っていた。

 しれっと妹尾さんは言ったけど、2日後に退院だって、初耳なんだが。

 あと2日か……不死宮さんともう会えないのか……。


 妹尾さんは「ごめんね」と言って、手の平をすり合わせた。


「あの時に言おうとしたんだけど、シイナさんに連れて行かれちゃったからさ」


 言いながら、妹尾さんは俺の右腕にはまったギプスを、謎の力で消したかと思うと、いつの間にか消えたはずのギプスを手に持っていた。

 ん? 待て待て、何した? 普通はカッターとかで切っていかない?

 不死宮さんの手品といい、妹尾さんのギプスを消すのといい、もしかして吸血鬼の皆さんは何かしらの能力があるのですか?

 じゃあ、あの看護師も……。

 考えただけでも恐ろしかった。


「君は僕たちのことを知ってるから、もういいかな。吸血鬼はね、鬼能きのうって言ってね、特殊な力を持っているんだよ。僕は物体の移動でね、こっちの方が楽だし、早いから」

「ははは」


 鬼能ね、俺は何が何だかわからず、ただ乾いたように笑うことしかできなかった。

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