第7話 病院脱出!

 俺は、不死宮さんと共に、こっそりと病室を抜けた出した。

 少し薄暗い廊下は、ホラー映画のような不気味な雰囲気があって、幽霊が出るんじゃないかと恐ろしい。

 けど、俺の手を引いて前を歩く不死宮さんは、たまに振り向いて、わくわくした顔で「外ってどんなところっ」と訊いてくる。


「ねぇ光里、私学校に行ってみたい」

「今から?」

「うん! ずっと行ってみたかったの。夕方になるとよく声が聞えて、いいなぁって。学校は楽しい?」

「う~ん、まぁ、楽しいのかな」


 行くまでは本当に面倒臭い。何度ベッドの中で二度寝したい気持ちに襲われたことか。そして何度遅刻したことか。

 ただ、いざ行ってみると、そこには友達がいる。友達と会って話しているうちに、面倒臭いなと思っていた感情は薄らいでいくもの。テストや宿題さえなければだけど。


「やっぱり楽しいのね。今から見学よ! 足も動かせるようになったし、これでパパも許してくれるわ」

「本当に今から行く気?」

「もちろんよ」


 不死宮さんは知らないのか? こんな真夜中に学校が開いているわけがない。

 でも、不死宮さんはとても嬉しそうに笑っていて、そんな彼女を止めることは俺にはできそうになかった。


 他の患者さんもいるので、できるかぎり足音を立てずに、なるべき早歩きで階段を降りる。

 二階に降りた時、ペタペタと足音が近づいてくるのがわかり、不死宮さんは「追手よ」と言って、そのまま一階に続く階段を降りた。


 内心で嬉しそうなのがわかるほどに、不死宮さんの頬はゆるみっぱなし。そして、そんな彼女に手を繋がれている俺は、もう頬が熱くて仕方がなかった。


 ほんのり温かくて、柔らかい感触。

 それに、不死宮さんが動くたびに揺れる白髪が綺麗で、目が離せなかった。


「シイナは鼻が利くから、私の匂いを追ってるはずよ」

「そう言えば匂いがするって言ってたな……」

「それに運動神経抜群だから、見つかったら壁を這ってでも追いかけてくるわ」

「化け物かよ……」


 たぶんだけど、見つかったら真っ先に俺が狙われるよな。

 俺は額に汗が噴き出すのを感じた。


「そう言えば不死宮さんそっちは出口と違うよ」


 一階に降りたのだが、不死宮さんは病院の出入り口ではなく、非常口の方へ向かっている。


「あっちは人がいるもの」


 あっちとは、受付のある方だ。確かに、あそこには今まさに夜勤帯の人が勤務中である。


「でも、非常口の扉は開いてるの?」

「大丈夫よ、シイナに鍵を貸してもらったから」

「……え?」


 俺は思わず立ち止まってしまった。

 俺の手を握っている不死宮さんも必然的に立ち止まる。


「どうしたの? 早く行かないとシイナが来ちゃうわ」

「ま、待って、どういうことだ……その鍵貸してもらったって?」


 不死宮さんの手に握られた銀色の鍵。


「そうよ、非常口を開けたいから貸してって言ったわ」

「それって……」


 何か嫌な予感がするんだけど。

 しかし不死宮さんは「早く行きましょう」と言って俺の手を引っ張って、非常口の扉に鍵を挿す。


 そして、扉を開ける。


「楽しかったですかお嬢様」

「わ! 何でシイナがここにいるの」


 不死宮さんは驚いているが、そりゃそうだろ。

 扉を開けた先、そこには看護師シイナが笑って立っていた。

 やっぱり、俺は嫌な予感したんだ。


 あの看護師に鍵なんて借りたら、ここに来ることなんてわかって当たり前だ。だからこうして待ち伏せされてしまった。


 不死宮さん……素直すぎるよ。

 もうちょっと頭使おうよ。

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